大塚姉妹の真実
「そう、正解」
正直、当たってホッとした。これで間違われていたら、私はもう立ち直れなかったかもしれない。
「それで、本名がどうしたっていうんです?」
「二人とも違和感なかった? 真綾が私のこと“さーや”って呼ぶことに」
「いえ、特には。兄弟同士でもあだ名で呼び合うことはありますし」
「花凛は、一番上のお兄ちゃんから、“りんりん”って呼ばれてるんだよね」
「理央ちゃん! それは言わないでって言ったでしょ」
「いいじゃん、可愛くて」
「パンダの名前みたいで嫌なのっ」
シリアスな話だったのに、何故か急に痴話ゲンカになっている。いや、これはイチャついてんのか。花凛ちゃんが照れてる姿が可愛らしい。そんな二人を微笑ましく見ていたいけれど、今はそんな気分にはなれなかった。どうやら、二人も話が逸れたことに気付いたらしい。理央ちゃんが話を戻すように一つ咳払いをした。
「すみません、続けてください」
「なんかごめんね。それで、えーと、つまり何が言いたいかと言うと、真綾が呼んでる“さーや”は私のことじゃないんだ」
「どういうことです?」
私はスマホのメモ機能を作動させ、そこにとある人物の名前を打ち込んだ。そしてそれを二人に見せる。
「大塚紗綾?」
「そう。私が養子に入る前、真綾には紗綾という血の繋がった実の姉がいたんだよ」
「それは初耳です」
「そりゃそうでしょ。私の高校入学と同時にこっちに引っ越してきてから、誰にも話してないもん」
「でも、ちょっと待ってください。“姉がいた”って、なんで過去形なんですか?」
「さすが花凛ちゃん、鋭い」
私は花凛ちゃんに向かってふざけるように指を鳴らした。そうでもしないと、この続きを言えそうになかったから。でも、もうやめるわけにはいかない。真綾のためにも、そして自分のためにも。私は震える両手を、机の下で必死に押さえた。
「大塚紗綾は十二歳の時、交通事故で亡くなったの。しかも、赤信号で飛び出した真綾を庇ってね」
「真綾を……」
「庇って……」
「自殺未遂もしてたって両親は言ってたから、相当ショックだったんだろうね。だから、たまたま街で見かけた紗綾そっくりの私を、真綾は紗綾だと思い込んで家に連れ帰った。両親や私がどれだけ違うと諭しても、紗綾だと言い張って私から離れなかったんだ」
今でもあの時のことは鮮明に思い出せる。街を歩いていた時、「お姉ちゃん?」と声をかけられ、突然見知らぬ女の子に泣きながら抱きつかれた。真綾の両親が必死に説得しても、私の腕にしがみついて泣きながら紗綾の名前を叫んでいた真綾。あの時は何が何だかさっぱりわからなかったけれど、私を離さないその両手の強さだけは、未だにこの身体が覚えている。
「幸いにも、私には家族がいなくてね。ずっと施設で育ってたんだけど、私の事情を聞いた真綾のご両親が、これ以上傷付く真綾を見たくなくて、十二歳になる私を養子に招き入れたの。これが大塚姉妹の真実」
ふーっと長い息を吐く。それくらい、この核心を突く話は私にとって重かった。この真実を口にしてしまうと、どうしても疎外感を感じてしまうから。大塚家で唯一私だけ血が繋がっていないと。私は真綾の本当のお姉ちゃんではないと。その再認識は、私にとって地球上でたった一つの居場所を揺るがしかねない。だから、今までずっと自分の口からは怖くて言えなかった。
できれば、死ぬまで言いたくなかったのに。でも、生きている限り、人と関わっていく限り、いつかは言わなければいけない時がくる。今この時のように。真綾の、可愛い妹のために。
だからこそ、真綾の涙を見て、自分の保身なんてどうでもよくなった。あの子を助けてあげなければ。そのことしか考えられなくなった。それにはこの二人が必要不可欠。だから、話したことに後悔はない。
しばし無言が続いた。寒さは苦手なのか、日中あんなに嬉しそうに輝いていた太陽が、駆け足で山の向こうへと落ちていく。周りの空気はキンと冷やされていて重たい。
この雰囲気に耐えられなくなったのは、私だった。ダレるように机に突っ伏す。
「あー、もうダメ。この空気耐えらんない。花凛ちゃん、何か面白いこと言って」
「えぇっ? 突然言われても……」
「花凛を困らせるのはやめてください」
「だぁって、今まで真綾に引きずられてアホみたいにみんなとワイワイやってきたからさ、こんなシリアスな空気久しぶりすぎて心が対応できないんだもん。誰か私に笑いをちょうだい」
「真剣な話をしてるんですから、笑いなんて必要ありません。ふざけないでください」
「ふざけてないとダメなんだって。じゃないと、昔の自分に戻りそうで嫌なの。今の自分けっこう気に入ってるからさ、昔みたいな最低な人間には戻りたくないの」
「言ってる意味がさっぱりわからないんですけど」
「……そうだよね、ちょっと冷静さを欠いてた。ごめん」
私は素直に謝った。いけない、今逃げちゃダメだ。ちゃんとこの二人に真実を話さないと。たとえそれが、私の心を抉る内容だったとしても。
私が落ち着いたのを確認して、理央ちゃんが口を開く。




