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思春期フットボーラー  作者: kasic
2章 足掻く少女
35/54

本物

 円陣を組み、ポジションに着くと、いよいよ後半開始の笛が鳴った。ボランチのポジションで長い時間をプレーするのは初めてだ。昨日は得点を狙う状況だったため、何も考えずに前に突っ込めていたが、今日はそうはいかない。前に出て行くにしても、状況を見て行かなければ前半のようなカウンターの餌食になる。 そんなことを考えていると姫花先輩からの斜めのパスがFWのケイに向かって出された。


「落として!」


 私はそこに近寄り、手を広げてボールを呼んだ。それを聞いたケイも私にボールを落としてくれた。


「逆サイ!!」

(その声は仁美先輩か)

 

 前半から、仁美先輩は必死にサイドを駆け上がっていたのだが、これまではそこに出てくる回数が少ない。にもかかわらず、今回も私がボールを持った瞬間にサイドバックの裏に走って行っている。


(ここは出してあげないと……)


 最初の練習試合の時のように私はサイドチェンジを狙ってボールを蹴り上げようとした。しかし、マッチアップの相手の背番号6のボランチもその様子を見てもう一歩前に出てプレッシャーをかけてきた。蹴ったボールは高く浮いてしまい、仁美先輩の頭を越えてタッチラインを割ってしまった。


(うーん、ちょっと慌てちゃったかなあ。うまくスピンがかかんなかった。やっぱ最終ラインでのロングパスとは違う。もっと練習しなくちゃ)


「ナイスパス!もっとお願い!」


 うまく繋がらなかったが、仁美先輩は私のチャレンジに親指を立てて褒めてくれた。これでチームにピッチを広く使う姿勢を植え付けることができたら万々歳である。


 そして、幸いにも昨日に比べると、ボールを持った時のプレッシャーの強度は弱い。静心館は出足も速いし体も強いしで圧力はこんなものでは無かった。その後も私は積極的に動き回ってボールを触り、少しずつ周りが見えるようになってきた。


 左サイドでスローインを受けた彩音先輩が横の私にパスを出した。トラップするとそのボールを受けに高城先輩が下りてきた。しかし相手のボランチが今度はボールを奪おうと感覚を狭めてくる。


(点を取るんだ。もっと積極的に!)


 私はわざとボールを晒し、足を伸ばしてきた所で高城先輩にパスを出した。


「ヘイ!ワンツー!」


 ここでマッチアップのボランチを剥がすためにそのまま前に走り、ワンツーを狙った。そのままボールを受けて中央を割る予定だったが、ここは相手もついて来ており、後ろからまた足を伸ばしてくる。


(負けるか!)


 咄嗟に左足でボールを引き、足を交わして右足でボールを蹴り、もう一度相手を振り切ろうと試みた。しかし尚も相手ボランチはボールを止めようと追いすがり、体を当てようとしてきた。


(クソ、中央突破は無理か)


 ここで中央突破は諦め、サイドにボールを展開しようと右サイドに向かってボールを運んだ。


「あ!沢ちゃん、もう一人来てるよ!」


 彩音先輩の声が聞こえる。首を振ると、なんとその動きを読んでいた相手のおそらくサイドハーフが私の持ち出したボールをカットしようと前にダッシュして来る姿が見えた。


(まずい!間に合わない!)


 私も必死に足を伸ばしたが及ばず、ボールはカットされて相手のサイドハーフは私達の陣地に進んでいく。


(またカウンターか。私のせいだ!)


 自分を殴りたい気持ちを抑えながら、私もダッシュで戻る。ここでカバーに入っていた彩音先輩が必死に体をぶつけ、相手のドリブルを止めてくれた。


「沢ちゃん挟んで!」


 相手がプレッシャーから逃れるべく後ろを向いた所で私はすぐにそこに足を伸ばし、なんとかボールを外に出した。


(良かった、何とか最悪の事態は免れた……)


 とはいえこのピンチは私が招いてしまった。彩音先輩のカバーが無ければどうなっていたことか。やはりボランチの私が前に行くとリスクは高い。


(どうしよう、もうちょっと自重した方がいいのかな?)


「オッケー!良い切り替えだよ!これ続けていこう!」


 そんなことを考えていたら監督が私達に向かって拍手を送ってくれた。しかもこれを続けていけというメッセージが付いている。ポジションに戻りながら彩音先輩と目を合わせると、私を励ますように手を叩きながら力強く頷きかけてくれた。

 

(そうだよね。今の私ができる一番の形は三列目からの積極的な飛び出し。それをやらなかったら私はチームに貢献できない)


 


 その後はお互い勝ち越し点が怖いのか、リスクを避けようとロングボールを蹴り合う小康状態が続いた。そんな中でも私は動き回って前に出る機会を伺う。一番のチャンスは誰かが下がってボールを受けた時だ。その空いたスペースに走り込んでいけば決定機も作れるかもしれない。


(焦るな。絶対チャンスは来る)


 そんなことを考えていると、CBの長瀬キャプテンのサイドチェンジが綺麗に姫花先輩に繋がった。タッチライン際でトラップした先輩を相手のサイドバックとサイドハーフが二人で囲む。そしてペナルティーアーク付近では高城先輩がボールを要求している。


(ここだ!行け!)


 サイドバックとサイドハーフは姫花先輩に釘付けで、尚且つボランチは高城先輩を気にしている。真ん中とサイドの間のハーフスペースがガラ空きだ。私はゆっくりとジョギングをする振りをしながら、急激に速度を上げて空いているスペースに走り込んだ!


「姫花先輩!」


 私がボールを要求すると姫花先輩は自陣の方を向き、バックパスをするように見せかけ、ハーフスペースに走り込む私に浮き球のパスを送ってくれた。


(ナイス!けどこの先どうする?何も考えてなかった)


 正直に白状するとここから先はノープランである。仕方ないだろう、私自身このやり方を練習で試したことはほぼ無いのだから。しかし、そんな言い訳をしても仕方ない。前に出たからには有効な攻撃をしなければ、最悪の場合またカウンターを喰らってしまう。


「中!中!」

(え、このタイミング?)


 声が聞こえた方向を確認すると鬱憤が溜まっているのだろう藤堂恵が、鬼のような形相をしてペナルティエリア内で手を挙げていた。しかしボールは浮いていて、私の技術ではまともなクロスは上げられそうにない。そんなことは一緒に練習してきたあの子が一番分かってるだろうに。そうこうしているウチにボールはワンバウンドしていた。


「いいから!早く!」


 その思考を読んだようにケイが私に怒鳴った。確かに相手選手が寄ってきており、もう考えている時間は無い。


(分かったよ、じゃあなんとかしてくれ!)


 私は浮いたボールを無理矢理ゴール前を狙って高く蹴り上げた。しかし高く上がったボールはゴール前から外れ、ゴールからは遠ざかってしまう。


(ほら!言わんこっちゃない。これじゃあ得点には繋がらな……いや、この形は!)


 ケイはボールの落下地点まで下がっていき、体を捻って勢いよく跳び、空中で足を思いっきり振り切ってボールを捉えた。相手キーパーも必死に手を伸ばすが、ジャンピングボレーシュートによって芯を捉えられたボールは、キーパーの指先に触れることも許さず、勢いそのままネットに突き刺さった。


 ネットの乾いた音が聞こえ、ケイが右手を突き上げるのを見て、私はなんだか無性に嬉しくなり、全速力で彼女に駆け寄った。ケイの方もそれを見て眉を上げ、得意気な笑顔を見せてくれた。


「すごい!今のあれだよね?」

「ええ、何時ぞやのサッカーテニスが役に立ったわね」


 ハイタッチをして抱き合っていると、私の経験してきたことが、公式戦の貴重な勝ち越し点に繋がったことの喜びを実感してきた。


「二人ともすごい!」

「ったく、生意気な一年どもだな!このヤロ!」

「このまま勝とうね!」


 先輩達も次々に駆け寄ってきてあっという間に囲まれた。頭をはたかれたり、背中を叩かれて祝福されるウチに、喜びもどんどん大きくなっていく。


(次も集中して行こう。もっともっと良いプレーして、点入れて、この達成感を味わうんだ)



「痛っ!!」

「ファール!ファール!」

「イエローでしょ!」


 こちらのサイドの裏にボールが出され、走り合いの末に味方サイドバックが倒され、ホイッスルが吹かれた。勝ち越した勢いで、そのまますんなりと勝ち切ることができるかというとそんなことは無く、当然相手はそこから攻勢をかけてきている。相手が前掛かりになり、球際の争いが激しくなっている分、オープンな試合展開になっている。


(試合を落ち着けようにもプレスが早いからボールが持てない)


 そんなことを考えているウチに相手の左サイドからこちらのディフェンスラインの裏を狙った斜めのパスが出され、それをCBの渥美先輩が何とかカットした。私はそのこぼれ球を拾おうと駆け出すが、ほぼ同時に相手の6番もボールに追いつこうとしているのが見えた。


(これは私が先に触れる!)


 そう思って私がボールをクリアしようと足を伸ばした直後、相手もそこに向かってスライディングを仕掛けてくるのが見えた。


「ぐぁっ!」


 間一髪で私が先にボールを触ったものの、その弾みで相手の足と接触してしまった。相手選手も寸前で足を引っ込めてはくれたが、結構な衝撃が足に入った。


(うおー、いってえ)

「おい!何考えてんのよ!!」

「……!!」


 私が痛みでしばらく倒れ込んで悶えていると、味方の怒声が聞こえた。顔を上げてみると、ケイと姫花先輩が相手ボランチに詰め寄っている。ケイの怒った声と顔はもちろん怖いが、姫花先輩の無言の圧力も中々に迫力がある。


「ご、ごめんなさい」

「ごめんで済むと思ってるの?」

「ああ、もう、ケイ!私なら大丈夫だから!姫花先輩も、私は平気です」


 未だに矛を収めてくれない二人を私は慌てて止めた。行きすぎると二人までが審判に目を付けられかねない。当事者の私が言ったことで、二人は渋々ながらも引き下がる。


「本当にごめんなさい」

「大丈夫です。お互い様ですよ」


 審判からイエローカードが提示された後、お互いに握手することで、その場は収まった。


「全く、あなたは優しすぎるのよ」


 ケイは少し不満そうにポジションに戻った。確かに危ないプレーで、最近までケガをしていた私にも怒鳴り散らしたい気持ちはあったが、もうボール一個分相手側にボールがこぼれていれば、イエローカードを貰っていたのは私だったかも知れない。それだけ私も相手も必死にボールに食らいついている。


(相手も必死だよな。これが公式戦の熱さか。やっぱり練習試合とは全然違う)


 残り時間が10分程になると、相手はスピードのあるFWに替えて、長身の選手を入り、そして、なんと2CBの一人が最前線に攻め残って勝負を仕掛けてきた。


「DF陣はしっかりプレッシャー!前線も戻る時はしっかり戻りながらカウンターに備えて!気持ちまで守りに入らないように!!」


 監督の指示も熱を帯びてくる。確かにCBが一人上がっているということは、それだけDF陣は手薄になっている。とはいえ、相手が間違いなくパワープレーを掛けてくるこの状況で攻撃のことは考えられない。相手は右サイドから前線のCBに向かってボールを送ってきた。


「キーパー出ます!」


 勢いよく飛び出したココアちゃんは長身を活かしてパンチングでボールを掻き出した。そして、弾かれたボールは私の所に落ちてくる。


「クリア!!」


 どなたかの叫び声が聞こえた。後ろを向いていた私は渾身のバックヘッドでクリアを試みたが、勢いが足りず、まだクリアは不十分だ。そしてそのボールを拾ったのは今日散々やり合っている相手の背番号6のボランチだ。6番はそのままシュートモーションに入ろうとしている。


(やばい、防がなきゃ)


 私は咄嗟にシュートコースを塞ぐようにスライディングをしたが、相手はシュートは撃たず、左足にボールを持ち替えた。


(クソ、まんまと引っかかった。私は馬鹿か?)


 今度こそ左足でシュートが撃たれるかという所で、相手の後ろから足が伸びてくるのが見えた。


(ケイ!?)


 すんでの所で下がってきていてケイがボールを突き、こぼれたボールを姫花先輩が拾い、そのまま前に持ち出した。監督が言っていた形、現在相手はSBが一人とCB一人のツーバック状態で、カウンターの大チャンスだ。


(頑張れ!決めてくれ!)


 姫花先輩はドリブルで相手のサイドバックを引きつけ、逆サイドを駆け上がっている仁美先輩にボールを展開した。チーム屈指のドリブラーである彼女はボールをしっかりと止め、サイドをぶっちぎってゴール前に流した。そのボールをゴール前に詰めていた高城先輩が冷静にキーパーの逆を付き、ゴールに押し込む。試合を決定づける追加点にベンチは大いに盛り上がり、ベンチ前で輪ができた。


「よし!よし!やった!」

「やったわね!」

「うん!」


 私は近くに居たケイとハイタッチした。流れるような見事なカウンターもそうだが、この得点の起点はケイのディフェンスだ。それにしても良くぞ戻っていたものである。


「良く戻ってたよね。心臓止まりそうになっちゃった」

「あなたのお陰よ」

「そうかな?」

「そうよ、簡単な判断だったわ。メイがスライディングでシュートを止めようとするのは分かってたから、後は切り返された時に備えてタイミング良く足を出すだけ。そこからあんな綺麗なカウンターに繋がるのは出来すぎだったけどね」


 彼女は笑顔で私を褒め、ポジションに戻っていった。キックオフを待つ相手チームはしっかりと前を見据えており、まだ戦意を失っては居ないようだ。今日はなんとかチームに貢献できている。このまま最後まで集中を切らさないようにしなければ。




「キーパー上がってきた!」

「マーク確認!」

「1番には高城先輩がついてください!最後までしっかり集中していきますよ!」

「おお!!」


 ラストワンプレーかツープレーかという所で相手のコーナーキックとなり、相手のキーパーまでもが上がってくる決死の攻撃をしてきた。もう時間が無いとはいえ、一点差になると何が起こるか分からない。ここはしっかりと試合を締めたい所だ。


 相手が身長を活かそうと高いボールを蹴り、今回もココアちゃんが前に出て弾き、ボールはサイドに流れた。そのセカンドボールを相手が拾い、そのままタッチライン際で仁美先輩と対面している。


「ノーファール!気をつけて!」


 このボールを奪ってクリアすることができれば、私達の勝利はほぼ確定だ。しかし相手選手は縦にドリブルを仕掛けると見せかけて中にカットインしていく姿勢を見せた。その動きについて行けなかった仁美先輩はたまらず手を掛けてしまい、相手選手を倒してしまい、距離25メートル、ゴール斜め45度くらいの場所でフリーキックとなった。


「ごめんなさい、やっちゃいました」

「切り替え!切り替え!ここしっかり守ろう!」


 しかし、先程のカットインといい、3点目の前の切り返しといい、どうしても得点がほしいだろうこの場面でよくここまで冷静な判断ができる物だ。やっぱりここまで上がってくるチームは力がある。


(そんなチーム相手に私はボランチでも戦えてるんだよね?)


 そんな思考を頭の隅にやりながら私は一番ファー側に居る自分のマークを確認した。マークの選手もちょこまかと動き回り、私のマークを外そうとしている。私もそうはさせまいと相手の背中に手を置き、常に位置を把握するように努めた。ボールの側には右利きと左利きの選手二人が立っており、相手の左利きの選手がフリーキックのための助走を始めた。


(くるか!?)


 私はキックに備えて身構えたが、相手は助走をやめ、ボールを蹴ることは無かった。そこで私は自分のマークを一瞬見失ってしまう。


(しまった、背中に回られた!?)


 右利きの選手にキッカーを替え、今度こそボールが蹴られた。意外にも誰かを狙ったような高くふんわりしたキックでは無く、誰かが触ればゴールといったような低く速い球足のボールが入ってきた。


(これは……流れてくる!)


 速いボールに誰も触ることができず、私の居るファーサイドにまでゴールが流れてきた。そして私もゴール前の密集のせいでボールが見えにくかったせいで反応が遅れてしまい、ボールを触れそうにない。


(やらせない!)


 それでも私はギリギリまで体を寄せ、ゴールを隠すように体をめいっぱい広げ、スパイクのポイントをしっかりと地面に突き立てた。相手が足にボールを当てる音が聞こえ、そのまま一緒に倒れ込む。私のプレッシャーが聞いたのかシュートは枠を外れ、サイドネットに当たってそのまま外に出て行った。それを確認した主審は試合終了の笛を二回鳴らした。


(はー、良かったあ)


 試合終了の笛を聞き、私は手をつき、安堵の息を漏らした。何はともあれ勝利だ。チームは貴重な勝ち点3を掴むことができたし、役割はきっちりと果たせたと言えるだろう。


(けど、私のパフォーマンスは良かったって言えるんだろうか?)


 アシストはFWの力量が大きいし、攻撃でも守備でもミスがあった。私が出ない方がチームは楽に勝てたのかも、そんな気持ちも湧いてくる。そんなことを考えていると、ココアちゃんが私に駆け寄り、手を差し伸べてきた。


「メイちゃん!お疲れ様です!」

「ココアちゃん、ありがと」

「いえ、今日のプレー、最高でした!いよいよ完全復活ですね!」


 ココアちゃんは私を起こすと、後ろに回って私を労うように肩を揉んできた。


「そうかな」

「そうですよ!さっきなんて、よく最後の最後までついて行きましたよ、痺れちゃいました!」

「沢ちゃん!やったね!今日はありがとう!」


 続いて私の所に今日ボランチコンビを組んだ彩音先輩がやって来て、ハイタッチをした。今日は好き勝手に動く私のフォローで大変だっただろう。


「はい、コンビを組んだのが彩音先輩で良かったです」

「私もだよ。最近ずっと控え組で組んでたからやりやすかった」

「沢渡さん、ナイスプレー!」

「ナイスアシスト!サンキュー!」


 皆さんと順々にハイタッチしながら、整列に向かった。握手をしながら相手選手を見ると、目に涙を浮かべている方々が何人も居た。


(そっか、静心館が負けることは無いんだろうし、この人達は、今日で敗退が決定か……)

「あの!」


 整列を終え、自分のベンチに戻っていると、後ろから肩を叩かれた。振り替えると、今日散々やり合った相手の6番が目に涙を浮かべながら立っていた。私は急いで頭を下げ、握手を求める。


「あ、今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ、ありがとうございます。……あの、今日のプレー、凄かったです。完敗でした」

「いえ、そんな…………」


 私が少し慌てていると、彼女は涙を浮かべながらも笑顔を浮かべ、手を握る力を強めた。


「絶対勝ち進んでくださいね!応援してます!」

「あ、はい!頑張ります」


 私がそう返すと彼女は満足したように微笑んで手を離し、もう一度頭を下げて自分のチームへ戻っていった。そして泣きじゃくっている選手に寄り添い、肩に手を回している。


「メイ、行くよ!」

「うん」


 いつの間にかチームのみんなから結構離れてしまっていた。私は自分を呼んでくれたケイに小走りで追いついた。しかし、敗戦後の相手選手の様子を見ていると、公式戦で勝利した実感が湧いてくる。


「ケイ、私達、勝ったんだね」

「……そうよ、私とあなたで入れた点が決勝点になった、文句なしの完勝よ」

「そうだよね、……うん!勝った!勝ったんだ!」


 何度もガッツポーズをする私をケイは微笑ましいものを見るような優しい目線で見つめてくる。今日は負けた方が敗退が決まる可能性がある試合で、球際の強さやゴール前での動きなど、味方も相手も試合にかける熱量が違った。そんな重要な試合に出て、勝つことができた。


(こんなに気持ちいいんだなあ、忘れてたよ)


 今日の私のプレーが良かったかどうかは分からない。だけど、もう暫くは、試合に勝てた喜びに浸っていたかった。

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