四(ヴィクトリア視点)
婚約破棄事件から二週間後。
帝国政府からの公式発表がなされた。
要約すると、こういうことらしい。
ひとつ、ジェラルド皇太子に後継者として重大な“疾患”が見つかった。
不安定な皇統を、これ以上危うくさせるわけにはいかない。よって、廃嫡。
皇籍離脱し、臣籍降下するものとする。
ひとつ、新たな皇太子として、プラト公爵家からオルベールを皇籍移籍させるものとする。
帝国では男子継承が絶対であるが、男系のみならず女系男子一世も継承権を得られる。
オルベールの母ベアトリーチェは現帝アヴェリノの姉にあたり、オルベールはこの「女系男子一世」に該当するため継承権を有する。
また、オルベールはセナレム公爵家次女オベリアとの婚約関係を、立太子後も引き継ぐものとする。ゆえに、オベリアを新たな皇太子の婚約者として据える。
以上。
「……え?」
ヴィクトリアは困惑した。この発表には、ヴィクトリアのヴの字のひとつもない。まるで、最初から無かったことのように。
ヴィクトリアはほんの少しだけ、希望的観測というものをしてみた。
すなわち、ジェラルドは“疾患”ゆえに思い詰め、ヴィクトリアを突き放すためにわざと婚約破棄をしたのではないか、と。
だが、そんなロマンスでは流石に説明がつかない。
もしそうなら、もっと上手くやる方法はあったはずだ。あんな、公衆の面前で唐突になされるはずがない。
「私が、何をしたと言うの……」
ただひたすら、困惑だけが積み重なる。
この頃は唯一の頼りだったユリウスからの手紙も途絶えている。前は毎日のようにやりとりしていたのに。
そう、毎日のように。
ヴィクトリアはふと思う。ユリウスと手紙をやりとりしていたのは、いつからか。
もう思い出せないほど幼い日からだ。
地方の領地にいる頃から、互いの知見を交わすために頻繁に連絡をとっていた。
それが当たり前で自然なことだった。
周囲も、理解してくれた。
そう、周囲も。そうだ、ユリウスとは何もない。邪推する方がおかしい。
みんなそう言っていた。高尚なる学術討論を、逢瀬だのと邪推する人間の方が不純なのだと。
ヴィクトリアには自信があった。
己は何も後ろ暗いことはしていないという、事実があった。
だからいつも堂々と。隠すことなく部屋でユリウスと何度も、何度も議論をした。
ヴィクトリアはようやく思い出す。ジェラルドに苦言を呈された記憶。
重要視していなかった、その言葉。
「ユリウスとの距離感を考えてほしい。君は皇太子妃になる女性なのだから」
あの時、ヴィクトリアは何と返した?確か、そう。
「もしかして、妬いていらっしゃるんですか?ご安心ください。ユリウスとは何もございませんわ」
あの時の、ジェラルドの目。
ああ、とヴィクトリアは理解した。
そして今度こそ、膝から崩れ落ちる。
頬を一筋の涙が伝った。




