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帝国の青年たちよ  作者: ちゃばしら
二章 新皇太子編
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十一(レヌマ副院長視点)

レヌマ副院長は仏頂面だった。自分の執務室に皇太子オルベールがいるからだ。


ことの発端はつい数分前。

軍務院本部の廊下で、ルルニア院長との会談を終えたオルベールが“偶然”にもレヌマ副院長と鉢合わせたことだった。


もっとも、実際は事前に話が通っていた。

軍務院のレヌマ副院長とまで正式に会談すれば、ルルニア院長の面子を潰すことになる。

ゆえに、“偶然”会ったというわけだ。


とはいえレヌマ副院長は少しばかり面食らっていた。

まさかこんな普通の青年が新皇太子だとは、思いもよらなかったのだ。

同時に考えた。

『新・バザン王国併合論』などという馬鹿げた構想。机上の空論ばかりの若造に、今こそバザン王国併合の意味を知らしめる時だ。


「皇太子殿下にとって、戦争とはなんですか」

レヌマ副院長の唐突な問いに、オルベールは首を傾げた。


「そうですね……必要ならばするものです」


その返事に、レヌマ副院長は眉を顰めた。

「皇太子殿下、それは違う。戦争とは必要ならばするものではない。国にとって“しなければならないもの”だ」


「その心は?」

前のめりになるオルベールに気を良くし、レヌマ副院長は早口に語る。


「第二次西大陸戦争時、帝国は攻め込まれた。先制攻撃を敵に許したのだ。これは不名誉なことだ。偉大なる帝国は常に攻め込み、主導権を握らなければならない」


オルベールは頷いた。

「一理あります。帝国の威信は重要ですから」


おや、とレヌマ副院長は思う。この若造、思ったよりも話が通じるのではないか。

「バザンは忌むべき存在だ。敗戦国でありながら、早期の講和により併合を免れた。第二次西大陸戦争のやり残しだ。これを放置しては、いつ再び帝国に牙を向くか分かったものではない」


「……だから先に滅ぼすと」


レヌマ副院長は嬉しかった。

白い目で見られない。ちゃんと話を聞いてくれる。

そうだ、私は何もおかしいことは言っていない。


オルベールは少し考えるそぶりを見せて言った。

「副院長殿、もしやあなたはバザン王国を併合した後、仮にスラトニアやセルニアとことを構えることになっても、全て打ち滅ぼせばいいとお考えで?」


その言葉に、レヌマ副院長は思考を止める。バザンを滅ぼしたいと、常々考えてはいた。

だが、その先について考えたことはなかったのだ。

レヌマ副院長は、焦りを必死に隠しながら肯定した。


「も、もちろん、帝国の敵は全て打ち滅ぼすのです。威信にかけて」


オルベールは物憂げな表情を浮かべた。

「ですが、セルニアは狡猾な国です。周辺諸国を焚き付ける」


「関係ありません。全て一網打尽にすればいい。帝国にはそれだけの力がある!」

言いながら、レヌマ副院長はだんだんと勢い付く。不思議とそれが正解のように思えてきた。


オルベールはポツリと言った。

「力があるのは認めましょう。しかし長期戦は望ましくない。一網打尽にするなら、短期決戦で圧倒的な勝利を収めてこそ帝国たり得るでしょう」


レヌマ副院長は息を呑んだ。

想像以上だ。このオルベールという若者はなんと聡明なのか。あの弱気な文書はなんだったのか。

「なにか、お考えがあるのですか」


レヌマ副院長が聞かせてくれと詰め寄れば、オルベールは部屋の片隅にある地図を見た。

「圧倒的な力を持つ兵士を作るには、実戦が一番、そうですね?副院長殿」


「え、ええ!」


「ならば、練習台がある方がいい。バザン、スラトニア、セルニアと戦っても壊れない、強い帝国軍を育成する練習台……そう、例えばリュシーム連合や、トドル王国など」


そこで再びレヌマ副院長の思考が止まる。

リュシームはまだ分かる。だがトドル。聞き覚えはあるが、あまり意識したことのない国。

帝国の北西に位置する、孤立した島国。


「とはいえ、皇太子たる僕に軍の裁量権はない。気の長い話ではありますが、僕が皇帝になるまでに考えておいてもらいたい」


確かに冷静に考えれば、そんな裁量はオルベールにはない。レヌマ副院長は少し黙り込み、そして顔を上げた。

「……ええ、考えておきます」

その声は掠れた。


なぜだか喉の奥に小骨が引っかかったような気分だった。

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