六(オベリア視点)
オベリア・セナレムはこの世界の脇役である。と、彼女は思っている。
なぜなら、オベリアは生まれてこのかた、ずっと主役を間近で見てきたからだ。
礼儀作法に歴史、数学、語学、経済に政治。
オベリアの姉ヴィクトリアは、その全てを高水準で修めた才媛だった。そしてなにより、父と母の良いところだけを突出して受け継いだ。
その美貌は帝国全土が知るところとなった。
ヴィクトリアとオベリアの母が早くに亡くなった時。
悲しみに暮れながらも「今日から私がセナレム公爵家の女主人よ」と宣言したヴィクトリアを見て、オベリアは思ったのだ。
ああ、次元が違う、と。
同じ土俵に立ってすらいない。生きている世界が違う。
だから能力も、価値観も違うのは当たり前のこと。張り合おうとする必要はない。勝とうとする必要もない。
だって異世界の人だから。
そう思わないと、壊れてしまう。
だからこそ、ヴィクトリアが初めて不安そうに夜会から帰ってきた時。
オベリアは躊躇ってしまった。本当はただ一言、聞きたかった。
「大丈夫ですか、お姉様」
でも、できなかった。そして数日後。
オベリアが皇太子の婚約者になった。
頭が理解を拒んだ。必死に考えてようやく絞り出したのは、当たり前の事実確認。
「……その、お父様。そもそも私の婚約者は、オルベール様のはずです」
オルベール。
オベリアにはもったいないくらい、優しくて穏やかで人気者で、底の見えない目をした人。
オベリアはあの底知れなさが、恐ろしいと感じていた。しかし、同時に少し安心した。
ああ、この人もヴィクトリアと同じなのだ、と。
異世界の人間、生きている次元が違う。
見ている世界が違うから、無理に理解しようとしないでいい。ただ隣にいて、同じ時間を共有する。
それだけできっと、家族になれる。
ジェラルドが廃嫡されたことには驚いたが、あのオルベールなら皇太子になっても大丈夫。オベリアには謎の確信があった。
同時にオベリアを襲うのは、あまりに大きい恐怖。
自分は皇太子妃の器ではないと、オベリアがオベリア自身に囁くのだ。
人の目が、口が、空気が怖い。
全てをヴィクトリアと比べられる。これまでのように。これまで以上に。
オベリアはあの異世界人たちのようにはなれないというのに、オベリアに次元を超えろと人々は嘯くのだ。
オベリアはもう、毎日朝がくるのが嫌で仕方なかった。




