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帝国の青年たちよ  作者: ちゃばしら
二章 新皇太子編
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22/33

四

「……ふざけるな」


資料を読み終えた軍務院のレヌマ副院長は、そう零していた。

皇帝政務補佐官が持ってきた『新・バザン王国併合論』は、到底容認できるものではなかった。

なぜなら。


「戦う意志がない。軍を冒涜している。なんなのだ、なんなのだこれは!」

喚くレヌマ副院長。だが周囲の目は冷たい。まるで、レヌマ副院長の方がおかしいかのようだ。


……あの日もそうだった。

第二次西大陸戦争、その真っ只中に軍学校を卒業し、帝国陸軍士官となった。

新たに生まれ変わった帝国軍の新兵として、胸を高鳴らせた。これから新時代を己が作る、と。

だがそんな夢は呆気なく打ち砕かれた。


当時のレヌマ副院長が配属されたのは、南方面軍。スラトニア王国と国境を接する駐屯地だった。

当時はまだ王国だったアシュト、そしてバザンとスラトニアの三国が、帝国の脅威に対抗するため形成したアバス連合。レヌマ副院長はこれを打ち砕く気満々だった。

東方でガゼルスと開戦すると、それに合わせてアバス連合もまた帝国に宣戦布告する。すると、スラトニアはあっさり連合を脱退した。つまり、帝国の敵ではなくなったのだ。


出鼻をくじかれたアシュトとバザンは海から侵攻を試みる。つまり、帝国海軍の出番である。

気づけば戦争は終わっていた。レヌマ副院長の出番は一つもなしに、帝国は大勝利。あれほどの悔しさは、他に知らない。


自分こそが国の礎となる、そんな高尚な願望が嘲笑された気分だった。


以降、必死に言い続けた。バザン王国の本土侵攻を。今度こそ、併合を。

なのに、なのに。


「我ら軍人は戦うために存在する!なのに、これは戦うことを放棄している!こんな軟弱なもの到底受け入れられない!」

その叫びは、会議室に空虚に響いた。




レヌマ副院長の怒号が響く会議室。ルルニア院長は内心、舌を巻いた。


これを十九歳の、それも軍学校を出ていない青年が書いたのか。いや、むしろ軍学校を出ていないからこそ、既存の固定観念にとらわれず、広い視野で見ることができたのか。


声だけ一丁前に大きいタカ派に、自領の利益や皇帝との対立を恐れて弱腰の併合反対派。

そのどちらも、軍務院そのものの未来を考えてはいない。


所詮、軍とは国家の暴力装置である。そうルルニア院長は常々考えていた。

そして軍務院とは、その暴力装置に国家が首輪をつけるための官僚機構だ。

つまり、いかにして国家の利権に食い込むか、それが肝である。


戦争を目的にしては生き残れない。過激な手段に出れば粛清される。

“軍とは政治である”。

そのスタンスこそ、彼を軍務院長まで押し上げた。


「我ら軍人は戦うために存在する!なのに、これは戦うことを放棄している!こんな軟弱なもの到底受け入れられない!」


レヌマ副院長のその言葉に、ルルニア院長はようやく口を開いた。

「副院長、それは違う。軍とは国家を守る存在だ。戦うことそのものを目的にするのなら、帝国軍である必要はない。剣闘士、あるいは傭兵にでもなるべきだ」


「なっ……」

レヌマ副院長は案の定、顔を真っ赤にする。

だが、彼の声の大きさに引っ張られる少数派はここで潰しておきたかった。


「女神マーロナは仰った。男は時に力で、時に知恵で国と人を守る者である、と」


「それは新解釈だ!旧解釈では、男は戦う生き物であると……っ」


「つまり、戦わぬ男は男ではない、と?」


ここでようやく、レヌマ副院長は口を閉ざす。自分がどこに誘導されているか気づいたのだろう。

致命的なことは言わないあたり、腐っても軍務院の副院長に上りつめただけある。


「……そこまでは、言っていない。ただ、戦うことを放棄すれば軍の存在意義に関わると」


「この資料には明確に、軍務院の手助けが必要であると書いてあるが?」


レヌマ副院長は黙る。この男は、ルルニア院長に口論で勝てたことなどない。

政治的に説き伏せる、ルルニア院長の得意分野である。


「さて、驚いていようがこれはあくまで一案だ。問題点も多い。ひとまず持ち帰って検討しようではないか。もっとも、代替案もぜひ持ち込みたまえ。いい機会だ。一枚岩でなかった我らの方針を明確にしよう」

慎重派の部下たちは神妙な顔で頷く。


だがルルニア院長は、頷かなかった者の顔をしっかりと記憶した。

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