二章 プロローグ
「さて」
そう真面目に口火を切ったのは、珍しいことに黄色のドレスの貴婦人、レティシアだった。
「バザン王国併合論、新皇太子殿下の方針はどのようなものかしらぁ。お二人は何かご存知ない?」
青いドレスの貴婦人、メアリーシェは息を呑む。
対して赤いドレスの貴婦人、リルリーナは動じることがなかった。少なくとも、表面上は。
「……離宮での非公式会議から帰ってきた夫の様子は妙だったわ。おそらくあの場でオルベール様の件は知らされたのでしょうけど」
「そこでバザン王国も話題に上がったと……?」
恐る恐る尋ねるメアリーシェに、リルリーナは曖昧に首を傾げた。
「断言はできないわ。けれど、白大母様の離宮で会議は開催されたのよ?あの方がその件に関して無関係とは、到底考え難い」
レティシアは頷いた。
「そこよぅ。白大母の離宮というのが鍵だわぁ。あの方は少なくとも、バザン王国併合論推進派ではない」
「……その根拠は?」
声を潜めるメアリーシェに、レティシアは自信ありげに微笑んだ。
「表に出てきてないじゃない。もしその気なら、軍務院のタカ派を引き連れて貴族議会に怒鳴り込んでるわよぅ。少なくとも、それでゴリ押しできる力が、あの方にはあるわぁ」
リルリーナは顔を曇らせる。
「おそらくだけど……表に出ないことで、均衡を保っている。その白大母様が、ジェラルド様の疾患とそれに伴う新皇太子選考の場に離宮を貸した」
「そこなら、バザンの件に問題なく触れる絶好の機会……」
呟くメアリーシェに、リルリーナとレティシアは満足げに顔を見合わせた。
「私たちはバザン王国併合論反対派の夫を持ちますもの」
「ねぇ、メアリーシェ様。あなたの旦那様はどちらなのよぅ」
そう問いかける二人に、メアリーシェは慌てた。
「わ、私の夫はあのヴィニル伯爵ですよ?皇帝派筆頭に決まっています」
「つまりは、反対派ってことじゃなぁい」
レティシアは嬉しげに目を細める。
しかし、メアリーシェの顔は晴れない。
「それは、その……皇帝陛下の、ご意向次第ですが」
「皇帝陛下は強固な専守防衛路線を取ってらっしゃるわ。何を疑う余地があるというの」
リルリーナが強気に出る。あるいはそう見せることで、反応を窺っていた。
「そ、それよりも新皇太子殿下の方針です。噂を伝え聞くに、穏健な方だとは思いますが……」
メアリーシェはあからさまに話を逸らす。
リルリーナはため息をついた。
「はぁ、まあ、そうね。現状、判断材料が少なすぎるわ。もうしばらくは様子見かしら」
「とにかく、今後も引き続き情報交換しましょうねぇ」
にこやかに言うレティシアの言葉は、釘を刺しているようにも聞こえた。
メアリーシェはどこか居心地の悪さを感じながら、茶会を後にするのだった。




