一章 エピローグ
「誤解があったようだわ」
赤いドレスの貴婦人は、やけに上機嫌だった。
「あらぁ、どんな誤解?」
首を傾げる黄色のドレスの貴婦人に、赤の貴婦人は歌うように話し始めた。
「帰りが遅かった理由よ。ここ半年、各院の調整に追われていたようなの」
「ああ、お仕事ですか」
青のドレスの貴婦人は納得した。
けれど、黄色の貴婦人は頷かなかった。
「仕事を言い訳にしているだけかもよぅ?」
赤の貴婦人はわざとらしく睨みつける。
「あなたのお家は、そうでしょうね」
言い返されるとは思っていなかったのか、黄色の貴婦人は目を瞬かせてバツが悪そうに視線を逸らした。
「そ、それより、皇太子が変わるだなんて」
青の貴婦人は慌てて話題を変える。瞬間、部屋には妙な緊張感が走った。
「ああ、オルベール新皇太子殿下ね。悪くないと思うけど」
赤の貴婦人は、満更でもなさそうだった。
対照的に、黄色の貴婦人は不満げだ。
「なんであの方なの?男系男子にアルバルス様がいらっしゃるのに」
どうやら彼女は、皇弟アルバルスのファンらしかった。
青の貴婦人は呆れたように微笑んだ。
「アルバルス様は入婿ですから。奥方は伯爵家の方ですし、皇后になるには身分が足りません」
「五公が黙っているはずがないのよ。けれど、子供までいる夫婦を国の都合で離婚させるのも外聞が悪いでしょう」
何を当たり前のことを、といったように赤の貴婦人が追従する。
黄色の貴婦人は不貞腐れたように紅茶を一口飲んだ。
「……でも、ジェラルド様が臣籍降下なさったのは驚きました」
再び青の貴婦人は気を遣って話題を変えた。
瞬間、黄色の貴婦人の目が輝いた。
「そう!皇太子が病でその地位を追われるだなんてっ。まるで劇のようだわぁ」
赤の貴婦人は眉を顰める。
「ザノルベ……伯爵家だったかしら。確か、ジェラルド様の婿入りに際してわざわざ陞爵までしたって話だけど。聞いたことのない家だわ」
青の貴婦人は穏やかに微笑んだ。
「宮廷で派閥を持たない貴族家の方が、安全であろうというものでしょう」
「あらぁ、やけにわけ知り顔ねぇ」
本調子を取り戻したらしい黄色の貴婦人は前のめりになる。
「あ、その、夫の仕事の領分ですから」
青の貴婦人は焦ったように弁明した。
彼女を見る赤の貴婦人の目が鋭くなるが、何も言わなかった。
「夫の仕事の領分、ね。ああ、そういえばリルリーナ様の旦那様は宰相閣下よねぇ。道理で“お忙しい”わけね」
黄色の貴婦人が最初の話に戻す。
赤の貴婦人リルリーナはくすりと笑った。
「レティシア様の旦那様も“お忙しい”のではなくて?なにせ侯爵閣下だもの」
黄色の貴婦人レティシアは鼻を鳴らす。
「お二人とも、そのくらいで……」
嗜める青の貴婦人に、リルリーナとレティシアの目が向いた。
「ああ、メアリーシェ様の旦那様が一番お忙しかったわね」
「あらぁ、確かにぃ。だってヴィニル伯爵は皇帝陛下の、宮務補佐官だものぉ」
青の貴婦人メアリーシェは、突然向けられた矛先に身を縮こまらせた。
帝都の貴族街、その片隅。今日の貴婦人たちのお茶会は、もうしばらく終わる気配がなかった。




