第15話 これまでのことは全て、序章に過ぎなかった......!?
「なら、何を知っているのです?」
第二王子は私を見つめた。
そして、予想もしなかった言葉を口にした。
「君の母親は、君を守るために死んだ」
「……私を?」
「そうだ」
「何から?」
第二王子は答えなかった。代わりに、私の隣にいるヴァイスへ視線を向ける。
「その男にも聞かせるのか?」
「当然です」
「.......なぜ?」
「私の婚約者だからです」
即答すると、ヴァイスが少しだけ目を見開いた。
「……リーシェ」
「何です?」
「今のは少し、いや........かなり嬉しいな」
「今そこを喜ぶ場面ですか?」
「いや、すまない。だが嬉しいものは仕方ない」
「本当に緊張感がありませんね……」
第二王子まで呆れたように笑った。
「なるほど。君が彼を選んだ理由が少し分かった気がする」
「どういう意味です?」
「君は一人で抱え込む癖がある。その男は、それを無理やりでも半分持っていくタイプだ」
「……否定できません」
「おい!」
ヴァイスが少し不満そうな顔をする。
「俺はお荷物ではないぞ!」
「今の会話にその感想を持つのはあなたくらいでしょうね」
「そうか?」
「そうです」
ほんの一瞬、重苦しかった空気が緩んだ。けれど、第二王子はすぐに表情を戻す。
「話を戻そうか」
「はい」
「君の母親が守ろうとしたものは、君自身だ」
彼は私をまっすぐ見た。
「そして、君の出生に関する秘密」
心臓が、大きく跳ねた。
「……やはり、そこですか」
「ああ」
「私の本当の父親は誰なのです?」
第二王子は答えなかった。その代わり、私の手にある手紙へ視線を落とす。
「その手紙の続きを読めばきっと分かるさ」
「続きを?」
「......切り取られた部分だ」
「……誰が切り取ったのです?」
「君の母親自身だ」
「……え?」
私は言葉を失った。
「母が……?」
「正確には、母親が自分で切り取ったのではない。君に渡す前に、誰かへ託した」
「誰へ?」
第二王子が静かに答える。
「私の........兄だ」
私は目を見開いた。
「第一王子殿下……?」
「そうだ」
「なぜ第一王子が?」
「君の母親と、彼は――」
第二王子がそこで言葉を止める。
そして、ほんの少しだけ苦い顔をした。
「……昔からの知り合いだった」
「それだけですか?」
「それ以上は、私の口から言うべきではない」
「.......なぜ?」
「君自身が、知るべきだからだ」
そう言って第二王子は、懐から一枚の古びた紙を取り出した。
「これを持ってきた」
私は受け取る。
紙には、古い王家の紋章が押されていた。そして、その下に記された名前を見た瞬間――。
世界が止まったように感じた。
「……嘘」
そこに書かれていたのは。
私がこれまで一度も聞いたことのない名前。
けれど、その名前の横に記された出生年月日だけは、私のものと完全に一致していた。
「これは……何ですか?」
声が震える。
「君の出生記録」
第二王子は静かに答えた。
「本来なら王家の記録庫にしか存在しないものだ」
「では、なぜ私が……」
「その理由を話す前に、一つだけ伝えておく」
第二王子は、私の目をまっすぐ見た。
「君の母親は、君を公爵家の娘として育てたのではない」
「…………」
「君を――」
そこで彼は言葉を切った。
「王族として生きさせるために、あえて公爵家へ預けたんだ」
私は何も言えなかった。頭の中で、これまでの五年間が一気に崩れていく。
父が私を避けた理由。
ヴィオラが私を嫌った理由。
母が残した秘密。
王宮財務局の不正。
第二王子の執着。
そして、私の出生。
すべてが一つにつながりかけている。けれど、まだ一つだけ、分からないことがある。
「……では」
私は震える声で尋ねた。
「私の本当の父親は……誰なのですか?」
第二王子は答えた。
「それは――」
その瞬間だった。
屋敷の外から、突然大きな爆発音が響いた。
「なっ――!?」
窓ガラスが震え、屋敷全体が揺れ、騎士たちが一斉に剣を抜いた。
「敵襲です!」
外から叫び声が響く。第二王子の顔から笑みが消えた。
ヴァイスが私の前へ立つ。
「リーシェ、俺から離れるな!」
「分かっています.......!」
私は出生記録を胸元へ抱え込んだ。
そして窓の外を見る。
燃え上がる庭、その向こうから、武装した男たちが屋敷へ向かって走ってくる。その先頭に立っていた男が、こちらを見上げて叫んだ。
「その娘を王宮へ連れていけ!」
私は息を呑んだ。
違う。
彼らが欲しいのは、私ではない。
――私が持っている“出生記録”なのだ。
そして、その記録を奪われれば。母が五年間守り続けた秘密は、永遠に闇へ消える。
「........ヴァイス様」
「何だ?」
「……私、もう逃げません」
ヴァイスが私を見る。
「母が五年間守ってくれたものなら、今度は私が守ります」
私は剣を抜いたヴァイスの隣に立った。
「たとえ相手が王族でも、財務大臣でも........誰であろうと――」
私は燃え上がる庭を見つめる。
「私の人生を勝手に決めた人たちには、そろそろきちんと責任を取っていただきましょう」
ヴァイスが、口元だけで笑った。
「ははっ! その顔なら大丈夫そうだな!」
「どんな顔です?」
「五年前から帳簿を睨んでいた時と同じ顔だ」
「……それなら」
私は剣を握る彼の腕へ、そっと手を添えた。
「今回も、きっと勝てますね」
「ああ」
ヴァイスは迷いなく答えた。
「何より......俺がいるしな?」
燃え盛る庭の向こうで、敵の足音が近づいてくる。
そして私はまだ知らなかった。
この戦いの先で待っているのが、私の出生の秘密だけではないことを。
母が命を懸けて隠した、もう一つの真実。
――そして、私自身が知らなかった「王家との繋がり」が、この国の次期国王を決めるほど重大な意味を持っていることを。
五年間、私はずっと虐げられてきた。
けれど、もう違う。
今度は私がすべてを奪い返す番だ。
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