第9話 堕ちた令息
「うわあぁぁぁぁーー!!!」
誰もが断ると思っていた。
正直、条件を持ち込んだ私でさえハルマゲ令息の返事に驚いた。
彼のプライドが歪められたままでは許せなかったのかもしれない。
息子の返答に公爵が膝をついて愕然としていた。
まだ勝負が終わっていないというのに公爵には既に勝負の結果が見えているようであった。
「解りました続けましょう」
もちろん、私の見方であるスパイダ様とダイも引き受けた。
最終ゲームのレートを引き上げる事に成功した。
あと、慰謝料をいくら払わせるだけだあった。
最終ゲームが始まる。
最後のゲーム、ハルマゲ令息には申し訳ないが本気を出させて貰う。
貴方によってねじ曲げられてしまった女性達のためでもあるが、勝負師として本気の勝負に手加減を加える事を私の心が許すわけにはいかなかった。
最後の一戦は私の全力を注ぎ込ませて貰う。
『ツモです。リーチ、ツモ、ピンフ、タンヤオ、ドラドラです』
残念令息の顔から笑顔が消えた。
もう、残念令息の顔に血が通っていないのではと思うほど白くなっていた。
『またツモです。小三元、ホンイツです』
残念令息の顔が歪み色男台無しの顔となっていた。
だが、残念令息が自信がどんな顔をしているかなどを気にする余裕などもはやなかった。
『ロンです。清一色、イーペーコー、ドラドラです』
『それロンです。三色同順、タンヤオ、ピンフ、ドラ1です』
ハルマゲ令息の点数が地下に潜った。
それでも手を和らげる事はしない。
勝負とはそういうものだ。
『ロンです。二盃口、ピンフ、タンヤオ、ドラドラです』
『ツモです、リーチ、一発、ツモ、ドラドラ、裏3です』
残念令息の視点が可笑しい。
残念令息と私の点数差は10万点を越えた。
もう、役満直撃でも私には勝てない状態となっていた。
残念令息としてはもう止めたい気持ちでいっぱいでしょうが、ゲームが終わらない限り終わる事は出来ない。
箱下を定めない麻雀の恐ろしさを感じているに違いがなかった。
それでも私は手を緩めない。
『ロンです。トイトイ、三暗刻、ドラ3』
『ロンです。清一色、イッツウ、イーペーコー、ピンフ』
これで私の点数は10万点を超えた。
ハルマゲ令息はもう遥か地下深くに潜り簡単には地上へと戻る事はほぼ不可能であった。
ハルマゲ令息の最後の親番も流れた。
もう勝負は見えていた。
それでも私は手を緩めない。
勝負師として最後の引導を渡してあげる事にした。
「ツモです。純正十三面待ち国士無双ダブル役満です」
ハルマゲ令息の顔は顎から歪み涎を垂らしていた。
もう、その姿を見て誰も彼の事を完璧令息と呼ぶ事はない。
だが、まだ私の親番は終わっていない。
勝負師として私が継続を告げようとしていたところ、脚を蹴られた。
蹴ったのはダイであった。
ダイを見るとクビを横にふる。
気付けばスパイダ様も横にふっていた。
仕方がない。
ここで終わりにするのは勝負師としての私が許せないが、慰謝料として十分に金貨となったため、私はゲーム終了を宣言することにした。
「ここで私は終了を宣言します。ハルマゲ公爵様の点数はー68000点でございますので、金貨9300枚のお支払いをお願い致します。ああ、可哀そうですので一回戦と二回戦の負け分につきましてはおまけしておきます」
金貨9000枚。
この国の国家予算の1/3とかなりの金額にギャラリーから悲鳴が上がる。
「9300枚だと!そんな横暴に従えるか!このような勝負など無効だ!」
呆けている息子を尻目に公爵が怒りを露わにして叫んでいる。
公爵は知らなかった。
男爵領の運営を邪魔していたことを。
息子に隠し子がいることを。
女性を突飛ばし流産させていた事を。
これらの慰謝料とスパイダ様への慰謝料を考えれば決して高くはない。
それだけ息子がやらかしていた事に公爵はしらなかった。
「公爵様、貴族と貴族の約束の元に行われた勝負でございます。ここにおられる皆様が承認です。金貨は約束通り支払って頂きます」
「そのような戯言は赦さんぞ。ワシはビタ一文も払わん!」
「と申しておりますが王族としてのご意見は?」
「・・・公爵、これは有効だ。無効とはならん」
「そんな・・・」
「スパイダ様、私達では公爵家へ金銭の回収などおこがましくて出来ませんのでスパイダ様にお願いしても宜しいでしょうか?」
「ええ。私の家の者が責任をもって回収させて頂きます」
「感謝致します。スパイダ様の負け分は手数料としてチャラとさせて頂きますね」
「あら、お優しいこと」
「ハルマゲ様」
「・・・あ・・・」
もう現実を受け入れる事は難しいようだ。
でも、最後に一言だけ教えてあげたい。
「運命とはただ待つだけでは駄目です。運命とは自身で捻じ曲げ掴み取るものですよ」
私の助言に残念令息が反応する事はなかった。
もはやそれどころではないのでしょう。
後日、9300枚の金貨が支払われた。
ハルマゲ令息に弄ばれた女性達に慰謝料として渡すため、スパイダ様の屋敷を訪れた。
三人目の女性はまだ未遂であったため慰謝料金貨300枚手渡した。
二人目の女性は流産させられた女性であった。
女性は既に別の男性と結婚して子供もいた。
女性の夫は幼馴染みらしく彼女が子をおろした事も知っていた。
知った上で全てを受け入れてくれたらしい。
二人目の女性は一番の被害者だ。
私は女性に金貨1500枚を手渡し必要な時に使って欲しいと告げると二番目の被害者の女性は泣きながら感謝してくれた。
だが、彼女の感謝は金貨を貰えたからではなかった。
『あの男を苦しめて頂きありがとうございます』
二番目の被害者の感謝の言葉。
彼女はお金を得られたことよりも復讐を成就してくれた事に感謝していた。
そして、最初の被害者の女性と会っていた。
女性には幼い子供が一人いるがまだ未婚のままであった。
残念令息の子だと直ぐに解るように何処と無く彼に似ていた。
「こちらの口座に貴女名義で1000枚預けてあります。子供の事で必要な時に使って下さい」
「私のような者を心配して頂きありがとうございます。付かぬことを聞きますが彼は今どうしてますか?」
「ハルマゲ令息は公爵家を廃嫡され学園も退学となり平民として市井へ送り出されました」
「彼が市井に・・・」
残念令息はもう貴族ではなくなった。
そう、彼女らと同じ庶民となったのだ。
「彼は・・・彼は何処にいるか解りますか?」
「ええ、解ります・・・すみません、ミアさんは彼の事を恨んでいないのですか?」
「解りません。ただ、あの時、お金の話をされた時は虚しく悲しくなりました。ああ、この人は私の事を金だけの女としか見ていなかったと」
「・・・許されるのですか?」
「解りません、会ってみませんと。ですが・・・子にとって父親は彼だけですから。父親が不幸なんて子が可哀想でしょ」
彼女の言葉に嘘はない。
嘘はないが彼女が最後に見せた笑顔が彼女の言葉を否定しているように見えた。
何故かハルマゲ令息が彼女に惚れてしまったのか解る。
それほど彼女の笑顔が眩しかった。
彼女が最後に言う。
「駄目な男を好きなるなんて私はどうしようもないですね。でも・・・」
『でも』から先を聞くことは出来なかったが、彼女の答えがこの『でも』に全て含まれているように思えた。




