第8話 完成された地獄
〖第ニゲーム〗
『あっ、それロンですわ』
『すみません、ツモったようです』
二ゲーム目は公爵だけが焼き鳥状態にしてやった。
そのようになるよう積み込んでいた。
私の欲しい牌や危険な牌を暗号にして二人に伝える。
三人が見方となった私が負ける訳がないが公爵令息もギャラリー達も気付いていない。
当たり前だ、気付かれないように積み込んでいるし、二人とも猛練習してきたのだから。
ダイもスパイダ様も素人とはほど遠い腕前に育っている。
この場で素人なのはハルマゲ令息だけ。
しかも1対3での戦い。
牌は積み込まれている。
この現状は運でも不運でも何でもない。
ただの搾取の場であったが仕組まれた事など誰も気付かない。
「あっ、それロンです。えーと、倍満ですので16000点となります」
「・・・ない」
「はい?」
「点数が足りないため支払えない」
「安心して下さい。こちらの点棒をお貸しする事が出来ますので箱下のマイナスになられても大丈夫ですよ」
「マイナス・・・」
第二ゲームではハルマゲ令息が地下に潜ると、そのまま地下に潜ったまま地上に戻る事は出来なかった。
第二ゲームは一度もいいところがなくズタボロの結果となったハルマゲ令息は下を向いたまま意気消沈状態となっていた。
「ハルマゲ様、時には運がないときもございます。残念ですが私もハルマゲ様とはご縁がなかったと諦めますので本日は終わりに致しましょう。『最下位』だったとしても恥ずかしいことなど全くありませんから気にされないで下さい」
「最下位?」
意気消沈していたハルマゲ令息は最下位という言葉に反応した。
ええ、解りますとも。
あなたのような方はプライドを捨てられない。
最下位という不名誉を受け入れる事は絶対に出来ないはず。
「何を言うかと思ったらたまたま勝てているからと言って随分と自惚れているようだね。本当の高貴な者の運というものを見せてあげよう」
ハルマゲ令息がまた深き沼に歩み出す。
これ以上進むと一人では抜け出せないほど深みに嵌まろうとしていた。
麻雀で廃人へと落ちる者もいる。
それほど麻雀は面白くそして恐ろしい。
時間的におそらく次が最後となるに違いない。
計画通り最後の仕上げに移る事にした。
「ですがハルマゲ様、もうそろそろパーティが終わろうかと思いますので本日はこの辺で終わりにしませんか?」
「な、何を言っている、君は勝ち逃げするきか!高貴な私がこのまま終わっていいはずがない。金なら出す、いくら出せばいい」
計画通りだ。
切羽つまった残念令息ならば、彼が唯一頼る事が出来る『金』の話を持ち掛けて来ると読んでいた。
読み通りの流れであった。
さぁ、私も最後の勝負に出ることにしましょう。
が、ここで流れを邪魔するものが現れた。
「ハルマゲ様!もうお止め下さい。本日は公爵家が皆様を招いたパーティでございます。もう長い時間皆様を無視されており大変まずい状態となっております」
順調な流れのなか、公爵家の執事と思われる者がハルマゲ令息に待ったを掛けて来た。
計画外だ。
まさか残念令息を助けようとするものがまだいるとは思わなかった。
冷静を取り戻したハルマゲ令息は周辺を見渡しギャラリーと化した招待客に気付き顔を青ざめさせた。
こうなるともう終わりだろう。
慰謝料・迷惑料としては金貨百枚程度と少なすぎるが思い知らせる事が出来たのでこれで良しとしようと思った。
が、これでは満足できない者が再び流れを変えて来た。
「面白いではないか。あと1ゲームだけ良かろう。なあ公爵」
間に入って来たのは変わり者で有名は第一王子であった。
変わり者の王子には目の前で行われている麻雀が物珍しく気になって仕方がないのかもしれない。
これにより空気が変わった。
王子の投げ掛けによって渋い顔をしていた公爵も頷くしかない。
後押しをして貰ったと勘違いしたハルマゲ令息はもう一戦出来ると意気揚々と私達の方を見た。
それでも執事が止めようとすると、ハルマゲ令息は邪魔だと執事を突き飛ばす。
唯一の味方がいなくなった。
もう戻る事は出来ない。
この先にある地獄に向かう事しか出来ない。
私は最後の仕上げに移る事にした。
「いや、止めましょう」
王子の一言で誰もがもう一ゲーム行われるものと思われた中で空気を読めない私の一言に皆が驚き、私が『残念令嬢』と言われている事に再度納得していた。
空気は確実に私の敵となった。
皆が麻雀という未知のゲームにはまっていた。
皆がもう一ゲーム行われると思っていた。
そんな皆の期待を私が裏切った。
だが、ここで曲げる訳にはいかない。
折角得られた最後の一戦なのだから慰謝料・迷惑料を十分に奪い取ってさし上げなくては。
「君は何を考えているんだ?今はもう一戦行う流れだろう」
「ですが、私にはもう一戦するメリットがもうございません」
「メリット?」
「ここまでの戦いでハルマゲ様が私より運がない事が解りました。もし、最後の一戦を行いましてもハルマゲ様がトータルで私を上回る事は無理に等しいでしょう。
なのに最後の一戦だけ勝てば私がハルマゲ様のものとなるのは少々疑問に思えてなりません。それに既に金貨数十枚も頂いておりますのでもう十分に満足しております。ここから先はハルマゲ様の名誉だけかと思いますので私共でなくても宜しいかと思います」
「君は王子命令であったとしても同じ事が言えるのかな?」
「はい。『弱い者苛めをしろ』と言う命令には従う事は出来ません」
『弱い者苛め』と言う言葉にハルマゲ令息は反応し顔を真っ赤にして残念令嬢を睨み付けた。
流石に残念令嬢でも侮辱罪となってしまうのではとギャラリーがざわつく。
でも、私は引く事をしない。
ここで引けば勝負師として負けた事になると思ったからだ。
「そんな事を言わずあと一戦だけ、一戦だけでいいから頼む」
ハルマゲ令息が私に頭を下げて来た。
先ほどまでプライドの高い令息が今では身分の低い者に頭を下げている。
もう彼のプライドが壊れ掛けている事が解った。
「それでしたら、最終戦に本当の運勢を賭けて勝負致しませんか?」
「本当の運勢?」
「ええ。最後の一戦でもしハルマゲ令息が勝ちましたら私は喜んでハルマゲ令息のものとなりましょう。ですが、もしハルマゲ令息が負けましたら負けた点数×金貨0.1枚支払って頂きます」
最低点数でさえ金貨100枚という高額レート設定にどよめきが湧く。
公爵が慌てて息子の名を呼ぶ。
が、それを私は許さない。
「申し訳ございません。公爵様はお静かにお願いしたい。今はご子息であるハルマゲ様がご決断される時でございます」
公爵は私を睨み付けると直ぐに息子の方を睨むように見た。
いくら公爵が息子を見ても無駄であった。
残念令息は既に私達以外を見る余裕がなくなっていた。
残念令息の額から汗が流れる。
もう残念令息は幻の楽園に騙され更に沼に嵌まろうとしていた。
引き返すなら今しかない。
後一歩踏み出せば、もう引き返せなくなる。
本人も自覚しているのか最後の一言がなかなか出ないでいた。
時間を掛け、一生懸命に脳を働かせ残念令息は1つの答えを出した。
「・・・引き受けよう」




