第6話 最初は優しく
〖第一戦〗
東 スパイダ様
南 ハルマゲ令息
西 ダイ
北 ラスト
ジャラジャラジャラジャラ
カチャカチャ、カチャカチャ
初めての麻雀であるため残念令息は覚束ない所作で牌を並べる。
途中途中、説明本を見ながら「なるほど」と呟きながら打っていた。
成績優秀な方であったから覚えるのは早いらしく問題なく打ち進めていた。
「それにしても面白そうなゲームを開発したね。これはハードン男爵領の新しい商品となるんじゃないかな」
ギャラリーと化している王子がダイに話しかけていた。
会場の隅で行われているにも関わらず、多くの来客者がギャラリーと化していた。
彼らはルールすら知らない。
そんなゲームを見て何が楽しいのか解らないが、未知のゲームに興味津々に見ていた。
「これはラストからの要望で作られたものなので商品とする時はラストとの契約が必要となりますね。
まぁ、自領ではこの試作作りで技術向上を図る事が出来て様々な分野に役立てる事が出来ましたからラストには感謝してます」
「そう言えば、ハードン領の品質は素晴らしいと母上も言っていたな。そのルーツの全てが彼女にあったのか、噂とは大違いだな」
噂とは『残念令嬢』という呼び名である事だと言う事は解っている。
誰も噂の残念令嬢が利益に直結しているなどとは予想していなかったのか、ダイの発言に信じられそうにないような顔をしている者が多かった。
「これは噂を訂正しなければ行けないな。ラスト嬢は何処でこのようなゲームを思い付いたんだい?」
「・・・何となくでしょうか?」
折角、王子が残念令嬢というレッテルを払拭してくれるようなパスをして下さったが、前世の記憶がなどと話すわけにもいかず、残念令嬢らしい返事しか出来なかった。
「流石だね。普通は私に問われれば思わず話す者が多いのだが、話せる情報と話せない情報の線引きが確りとしているな。本当に噂は間違いであったようだ」
王子の勘違いで私の株が上がってしまった。
逆に上がり過ぎると真実を知られた時の落差が激し過ぎて恥ずかしい。
「話す余裕があるのかな?間違ってなければ、これはロンってヤツではないないかな?」
残念令息が牌を倒し私がわざと捨てた牌を自身の元に持ってきた。
「まぁ、確かに役が出来ておりますわ」
「「おおー、」」
ギャラリーが沸く。
ルールは知らないが残念令息の牌が綺麗に並び揃えられていて、だいたい凄い事が解ったようだ。
たかが1000点の上がりなのだけど。
「許しておくれ麗しき人。君を傷付けたくないのだが、私の体から溢れる幸運がそれを赦してはくれないらしい。ああ、私は何て罪深い男なんだ」
「かまいません。これは運を図るゲームなのですからハルマゲ様が運を持ち合わせているという事だけです」
上がれた事でかなり上機嫌となった残念令息を更に持上げる。
たかが1000点でここまで上機嫌になるとは安上がりで助かる。
「おや、今度はツモってヤツかな。どうやら、また私の幸運が溢れてしまったようだ」
わざと安く上がれるように積み込んでいる事に気付いていない。
わざと相手に勝たせる事など容易い。
前世では協会長の機嫌をとるためにわざと負けた事など多々あった。
相手も麻雀の熟練であるため、わざと負けた事が解れば逆効果となってしまう。
私はそれを気付かせる事なく絶妙に負ける事が出来た。
だから容易い。
素人をカモにするなど。
私の掌で踊っているなど気付く事なく上機嫌でいる残念令息。
着々と思惑通りゲームが進む。
ダイやスパイダ様もそつなく上がり、私一人が沈む流れが出来上がったり、とうとう南場四局とラストの最後の親番となった。
(持ち点25000点)
スパイダ 20000点
ハルマゲ 48000点
ダイ 22000点
ラスト 10000点
と、残念令息が他の者よりも倍以上の点数で勝っていた。
もう誰もが残念令息の勝利だと思っていた事だろう。
残念令息自身もそう思っていたと思う。
しかし、そんなに麻雀は甘くはない。
麻雀の恐ろしさを味わせる時がきた。
積み込み麻雀が運では勝てない事を教えてあげる時が。
残念令息はこれから地獄に落とされるとも知らずに、もうすぐ念願の令嬢を自身のものに出来るとラストの方をやらしい顔で見つめながら牌を打っていた。
「どうされましたか?私の顔に何かついておりますか?」
「い、いや、もうすぐ麗しき人と結ばれる事が出来ると思うと感極まってしまった」
「あら、油断されますと危険ですよ」
「はは、もう私の勝ちは決まったようなもの・・・」
「あっ、ハルマゲ様、それロンです」
「なっ!」
「安くてすみません」
「ま、まぁ、私の伴侶となるものにも運がなくては困るからなこのくらいは必要だろう」
私のロンの掛け声で軽く溜め息をつく残念令息。
恐らく些細な事だと思っているのでしょう。
だけど、これだけでは終わらない。
私の上がりは続く。
気付けば、私と残念令息との点数差は2000点ほどと僅差となっていた。
既に残念令息から笑顔が消えていた。
天国から地獄へと落とされる気持ちはどんな気分か。
残念令息に弄ばれた女性達はもっと地獄を味わっている。
残念令息に突き飛ばされ流産した女性の地獄はもっと深かったはず。
今は三人ともスパイダ様がメイドとして養って下さっている。
不幸の原因である残念令息はのほほんと過ごしているのに。
そんな事は赦せない。
しっかりと皆の慰謝料を支払って貰う。
残念令息の機嫌がいい。
配牌が良かったからだ。
そうなるようにしたのに気付いていない。
機嫌よく配牌を捨てる残念令息に告げて上げた。
「それ、ロンです」
「なっ!?」
「リーチ、一発、タンヤオ、三暗刻、トイトイ、三色同刻、赤赤、ドラ3、あっ裏ドラものりました。えーと数え役満になりますので48000点となります。これで私はトップとなりましたのでルールにのっとり終了を宣言したいと思います」
ルール本には最終親番が一局打った後にトップだった場合、ゲームの終了を宣言出来ると書いておいた。
「馬鹿な・・・」
「ルール本の説明に書かれている通りかと思いますが何か問題でも?」
「いや、だが・・・」
「これで私がトップになりました。最終親は一局してトップだった場合止める権利がございますので、私はこのまま止めたいと思います」
「仕方がありませんわね。私達の支払う金額を記載しておいて下さいませ」
スパイダ嬢によって給人が点数結果を手帳に記載した。
尚、この給人もスパイダ様が忍び込ませた私達の仲間だ。
先程まで首位だったのに、たった一局で圧倒的な最下位に落とされた現実を受け入れられない表情をしていた残念令息がふと我に返り周辺の視線に気付いた。
幸運の男と自負していただけにギャラリーから向けられる視線に耐えられないでいた。
「こ、こんなのまぐれだ!」
「はい。このゲームは『運を量るゲーム』ですので、全てがまぐれです」
ギャラリーからクスッと笑う声が聞こえた。
残念令息の顔が赤くなる。
こんなに解りやすく表情が変わっては貴族としてやっていけるのか疑問に思ってしまう。
「もう一度だ!今度こそ私の幸運を見せてやる!」
「解りました。私もハルマゲ様がこの中で一番運がないなどと思いたくございませんので、今一度行いましょう」
「勿論だ!こんな運で負けたとあっては公爵家の面子が潰れてしまう」
もう、残念令息は言葉遣いも表情も貴族として着飾る余裕がなくなっていた。
完全に麻雀という地獄の沼にはまってしまった。
それでは続けるとしましょうか。
次は麻雀という恐ろしい沼に沈めてあげましょう。




