第5話 可笑しな婚約破棄
ドーン公爵家のパーティーは華やかに飾られていた。
華やかなパーティーには華やかな者が招待されていた。
我が国だけでなく異国からも身分高そうな貴族や王族と思われる普段拝見が難しい方々の姿があった。
「すごー!」
豪華なシャンベリア、豪華な嗜好品、豪華な客にはそれにあった曲や料理が用意されていた。
見たことのない料理にフラフラと引寄せられそうになったがダイに肘でつつかれ冷静さを取り戻す事が出来た。
「なぁ、本当にここで婚約破棄が行われるのか?」
「実際、私の所に招待状が届いたんだから本当じゃない?」
こんな王家の人や国外のお偉いさんがいるなかで本当に婚約破棄を行うとは、流石のスパイダ様も考え過ぎではないかと思っていたが、残念令息から招待状が届いた事で本当に行われるのだと思った。
残念令息からエスコートの申し出もあったが婚約者に申し訳ないと丁重に断り別の者にエスコートを頼むと伝えてあった。
ただ、私とダイは貴族といっても男爵家の身分、会場内におられる方々とは明らかに品の違いがあり気まずい。
ただでさえ残念令嬢がより一層残念感が輝いてしまうため、ダイと二人で目立たないように会場の端で立つ事にした。
「麗しの人、ラスト・エンペラル嬢はおられるか」
折角、目立たないように立っていたのに階段の上から名を叫ばれパーティーに集まる人達が会場の端に視線を送る。
無視する訳にはいかないためため息をつきながら階下まで歩みを進めた。
「おお、我が麗しき人よ」
残念令息が私が階下の下まで来ると笑みを浮かべた。
その残念令息の横には完璧令嬢であるスパイダ様が何事もないように立っていた。
美男美女が隣り合って立っているため端から見たらお似合いのカップルで今から婚約破棄が行われるとは思うものはいない。
私達を覗いて。
「私に何用ですか?」
「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます。
本日はそこいおりますラスト・エンペラル嬢に度重なる嫌がらせをしてきた我が婚約者であるスパイダ・マーンを赦す事は我が正義に反し、そのような者が公爵家令息の伴侶になど相応しくない。よって私ハルマゲ・ドーンはスパイダ・マーンとの婚約を破棄するものとする」
声高らかに宣言する残念令息。
突然の婚約破棄宣言に由々しき事態と察したドレミファ・ドーン公爵が慌てて息子の暴走を制止しようと駆け寄ろうとしたが一人の男性に止められてしまった。
「公爵、もう遅い。今の発言はなかった事にはもう出来ん。判断は見守ってから行いとしよう」
「殿下!?」
ドレミファ・ドーン公爵を制止したのは王家の方だった。
王家の人から言われればなす術がない公爵は傍観者の一人になるしかなかった。
「わたくし、ラストさんに嫌がらせなどしておりませんが婚約破棄は慎んでお受け致します」
高らかに宣言するハルマゲ令息。
市井の小説にある婚約破棄が今行われようとしている事から、小説に詳しい令嬢の目は期待で輝いていたが、私以外の誰もがこの婚約破棄の違和感に気付いていない。
普通、断罪される令嬢が階下で守られる令嬢が彼の隣にいるはずなのに、階下にいる私をどうやって守るつもりなのだろうか。
いや、あんな男の隣にいたい訳ではないけど、小説とは違う立ち位置に違和感を感じてしまった。
「ラストさんに嫌がらせをした覚えはありませんが婚約破棄は慎んでお受け致します」
「シラを切るか、まぁいい。両者承認という事でこれを持ってスパイダ嬢との婚約はなくなった。
ラスト嬢、私は君との真実の愛を育みたい。私の愛を受け取ってはくれないだろうか?」
「ちょっと待って下さい、可笑しくないですか?」
「「???」」
会場中が何がと言う顔で私の方を見ている。
誰も可笑しいと感じていない。
可笑しいと思っているのは私だけのようだ。
どう見ても可笑しいでしょ。
断罪劇と言ったら婚約者が階下で浮気相手が男の隣に寄り添う者よね(いや、残念令息の隣にいたいとは思わないけど)。
婚約破棄を承諾したスパイダ様は未だに残念令嬢の隣に立っている。
しかも、婚約破棄をしたとは言え、ついさきほどまで婚約者だった人を隣におき階下にいる令嬢に愛を囁くなど常識的に可笑しいのだが、誰も可笑しいと思わないようであった。
「可笑しいとは何がだ?」
残念令息も何が可笑しいのか解らない。
説明しても解って貰えないと思い諦める事にした。
「いえ、何でもありません」
「そ、そうか・・・では、今一度言わせて頂こう。私の隣に相応しいのは麗しき人である君しかいない。ラスト嬢よ、我が愛を受け取って欲しい」
「無理です」
「えっ!!」
改心の告白に対しノーと言われるとは思わなかった残念令息は呆然と私の方を見ていた。
会場のざわつきに吹き出すような笑いが混じる。
「き、貴様!」
スパイダ様の情報操作によって残念令息の人望は底辺で落ちていた。
だから、断れる事は誰も不思議には思っていなかった。
しかし、貴族らしく遠回りに断るのではなく、ストレートに断った事で会場内の空気が変わった。
それを証明するかのように残念令息の顔が赤くなりプルブルと震えている。
今すぐ爆発しても可笑しくない状態となっていた。
しかし、私が態度を変えることなく堂々と階上を見上げていた。
「私は婚約者となられる方には条件を設けております。その条件を満たされた方でないとお受けする事は出来ません」
「条件?」
残念令息の顔色が治まっていく。
温度変化に素早く反応するため、温度計として一家に一台欲しいかもしれない。
「はい。父は経営の才能はございますが領地経営が上手く行かず日々悩んでおります」
「そ、そうか・・・」
経営不振は残念令息の妨害によるものであるため、気まずくなり残念令息の相づちが少しどもる。
「そこで私は決めたのです。婚約者となられる方は幸運の方にしようと」
「なるほど、だが運を確認する事は難しいのではないか?」
「はい。ですのでこちらのゲームで運を計りたいと思います」
私の指示でダイが麻雀牌を取り出す。
「それは?」
「こちらは麻雀というもので運を量るゲームでございます」
「麻雀?」
私はハルマゲ令息に麻雀のルール本を手渡した。
一通りルールをハルマゲ令息に伝える。
「こちらは運があるものが勝てるゲームとなっております。こちらのゲームにハルマゲ様が勝つことが出来ましたら私はハルマゲ様の申し出をお引き受け致します」
「真か!」
「ただ、ゲームに勝ち負けだけでは運を量ることが出来ません。私は人生を賭けて挑みますのでハルマゲ様にもそれに対する対価を賭けて頂いたいです」
「対価とは?」
「簡単でいいです。例えば金貨などはどうでしょうか?持ち点より1000点下回る毎に金貨1枚を支払うと言うのはいかがでしょうか?」
「金貨1枚か・・・その程度で良いのか?」
「はい、運を量るだけですから(取り敢えずはね)」
「よし。その話を引き受けるとしよう。」
残念令息が計画にのってきた。
全てが計画通りに進んでいく。
「ただ、このゲームは本来は四人で行うものですので、ここにいるダイが加わるとして後一人必要となるのですが・・・」
「私が加わりましょう」
スパイダ様が手を上げた。
これも予定通りだ。
「何故に君が加わる?」
「この中で関係者として最も相応しいのはわたくしではありませんか?ルールも先程の説明で何となく解りましたので問題ございませんでしょう?」
残念令息は渋々承諾した。
パーティー会場の隅に一台の雀卓が置かれる事となった。
まだ残念令息は気付いていない。
残念令息は知らない。
これが普通の麻雀ではない事に。
本当に素人なのが残念令息だけと言う事に。
1対3の麻雀がどれ程恐ろしい事になるのかという事に。




