第3話 完璧令嬢と残念令嬢
「どうだった?」
学園寮の食堂でダイが心配そうに聞いてきた。
学園寮は東と西で男女解れているが、中央にある施設は共有地となっており、ここ食堂もその1つであった。
ダイは学食の紅蓮鳥のエンペラル揚げを持ち帰ってくれていた。
本当にダイには感謝で頭が上がらない。
「スパイダ様の側近になったわ」
「はぁ?」
うん、理解出来ないでしょうね。
まさかこんな展開になるなんて誰が想像出来たか。
ダイに馬車の中での出来事を話した。
それでも寮の中であるため他の人の目もある。
一字一句違わず話すとそのまま不敬罪となってしまうので、他の人に聞かれてもよい程度のニュアンスに変換して話した。
にも関わらず話を聞いていたダイの顔色が悪い。
「お前、不敬罪ギリギリだぞ。気を付けろよな」
忠告を受けてしまった。
周りも何処か冷やかな目で見ている。
柔らかく言い回しを変えて話したのだけど、それでもギリギリアウトだったらしい。
ならば、本当のいい回しを聞かせたらどんな表情をするのか気になった。
「一字一句違わず話そうか」
「・・・いやいい」
遠慮されてしまった。
周辺をキョロキョロと見渡しながら一生懸命に静止してきた。
いや、本当に話す訳がない。
「ああ~、これで私の自由な学生生活は終わったわ」
「・・・良かったんじゃないか」
「どこが?」
ダイを睨みながら問い詰めた。
「スパイダ様の傍にいればハルマゲ令息に絡まれる事がなくなる事は間違いなしだぞ。絡まれる事がなくなればお昼の説教時間もなくなるじゃないか」
「・・・なるほど」
「それに、淑女教育を考えると俺が教えるよりもスパイダ様に教えて貰った方がいい。スパイダ様の事憧れているんだろ?」
「憧れてはいるわよ。今の私じゃ迷惑掛けっぱなしよ」
「それは気にしたくてもいいんじゃないかな」
「どうしてよ」
「お前は残念令嬢だぞ。完璧令嬢のスパイダ様が残念令嬢のお前の何を見て幻滅するって言うんだよ。向こうもお前の残念な行動は百も承知で誘っているんだから気にする必要なんてないって」
ダイの言う通りだと思う。
思うが、何か小馬鹿にされたように思いダイの膝を蹴飛ばした。
「痛っ!悪かった、怒んなよ」
「許してやるわ。それよりも、その袋何なの?」
「ああ、領地から『十三号』が送られてきた」
「本当!!」
『十三号』とは幼い時にダイにお願いしていたもので、その試作品を預かってはダメ出しをして今回で13番目の試作品であった。
切っ掛けは5歳の時にダイからハードン領が木工品で栄えている事を教えて貰った時だっ
前世では夢の到達まであと一歩のところで不慮の事故で命を落としてしまっていた。
彼女は雀士であった。
『鳳凰』『女流王』『雀王』と、四大タイトル中三つのタイトルを獲得し、残すは『王位』のみ。
その王位タイトル戦も決勝4回戦中、三回戦が終わり二番手とは200ポイント以上の差を着けていた彼女は最後の一戦はほぼ消化試合で優勝を確実なものとしていた。
だが、彼女が王位のタイトルを取得する事はなかった。
4回戦目、雀卓に座ろうとした彼女は足を滑らせ雀卓の角に頭をぶつけ命を落とした。
彼女は死ぬ時は雀卓でと思っていたが、まさかこんな形でとは思っていなかった。
あと少しで夢であった史上初の四大タイトル獲得雀士となったのに、足を滑らせて死ぬなど未練を残すなと言われても無理な話。
そんな未練によってダイに麻雀牌を頼んでいた。
「今回は上手く作れたと思うぞ。ラストの注文が厳し過ぎて苦労したけど今回のはかなり自身があると書いてあったから期待してくれてもいいかもしれないな。
「ご免なさい。でも、私にとっては凄く大事なものなの」
こちらの世界に麻雀の文化はなかった。
半分諦め掛けていたところ、ダイの領地の話を聞き製作を頼んだ。
ただ、この世界の技術で麻雀牌を作る事はかなり難しかった。
最初の出来は散々なものであった。
試作1号は私の伝え方が悪く、ただ木札に絵が書かれているだけであった。
これでは牌を立てる事が出来ないため、再度細かく説明をした。
2号は明らかに牌の大きさに違いがあったため、大きさを揃えるように工夫を繰り返し7号にて全ての大きさを揃える事が出来た。
しかしまだ完成ではない。
大きさは揃ったが木目で牌の違いが見た目で解ってしまうため、そこの改善を求め12号にて、その課題も改善する事が出来た。
ここまでくるのに10年近く掛かった。
後は触り心地が改善出来れば完成まで来ていた。
「お前が言う触り心地ってそんなに大事なのか?」
「ダイにも見せたじゃん。牌を裏返しの状態でもいい当てる事が出来たでしょ」
「いや、そんなの出来る何てお前だけだって、普通はそんなの解る訳ない」
「まぁ、でも私の無理難題のお陰で領地が潤ったのだからいいじゃない」
ハードン領は無理難題を解決する事によって『大きさを揃える技術』『柄を揃える技術』を習得し、今までの木工品に組み込むことでハードン領にしか出来ない製品が多く開発された。
そして、今日の試作品13号にて試作は終了を迎える事となった。
この麻雀牌が今後ハードン領を更に繁栄させる事とになるのだが、この時は誰も解らなかった。
部屋に戻り完成された麻雀牌に頬擦りをしたりと長年の麻雀牌に戯れるあまり夜更かしをしてしまい、翌日危うく二度寝しそうになった。
次の日よりラストの生活は変わった。
侯爵家の馬車が寮の前まで迎えに来ると、同じ寮生活をしている者達が何事かと騒ぎ出した。
寮生活をしている者は近くに領地がなく、尚且つ王都に邸を設ける事が出来ない貧乏貴族しかいないため、豪華な馬車が止まる事などなかった。
何事かと寮生活の人達が集まる。
そこにラスタが現れ馬車からスパイダ様が顔を出した。
そのままラストが馬車に乗り、馬車は走り出して消えていった。
馬車が完全に見えなくなるまで集まった者達は動く事が出来なかった。
残念令嬢と完璧令嬢のコラボを目の辺りにした事で脳内の処理が間に合っていなかった。
学園でも同様であった。
教室は違うため授業は別々であったが休憩時間は常に一緒であった。
月とスッポンのような消して交わる事がない二人が一緒にいる姿は皆から異質に見えていた。
だが、流石の完璧令嬢もお昼は学食を食べないだろうと思い、お昼になるとダイを誘い食堂へと向かおうとしていた。
「ラストさん、何処に行かれますの?」
「これからお昼に学食へと・・・」
「大丈夫ですわ。侯爵家で貴女の分まで用意致しましたから私共と一緒にお昼にしませんこと」
侯爵家の料理。
気になる。
気になるけど、まだダイから食事マナーの合格を貰っていない。
お昼くらいは気兼ねなくゆっくり食べたいので出来れば断りたいのだけど、同姓で上位の貴族の誘いを断るのは不敬となるとダイから教えて貰った事がある。
ならば、『しませんこと』は『するぞ、おい!』と言う意味になる。
私は諦めて完璧令嬢&取巻令嬢と一緒にお昼を食べる事にした。
「ラストさん、布巾のかけ方が違いますわ。もし、解らないようでしたら私達の真似をしてみては?」
「すんません。教えて頂きありがとうです」
「ラストさん、それは何ですの?」
食事の席にラストが2本の棒を取り出していた。
「これはハシです。これをこうやって掴むと食べやすいのですよ」
完璧令嬢が初めてみるハシに驚いていた。
「ら、ラストさんって意外と器用なのですね。ですが、ご自身で食器を持ってくるのはマナーとして如何かしら。これから様々な会合に参加されるようになりますので、フォークとナイフに慣れておかれた方が宜しいのでは?宜しければ、私共でお教え致しますわよ」
1つの動作で3つの指摘をされるなど昼食の場はマナー教室となり豪華な料理も二割ほど損した気分になったが、それでも美味しく感じられたので、流石は侯爵家の料理人は腕がいい。
このような学生生活を送る事でラストの食事マナーは著しく成長していった。
そして、一番の喜ばしい事は、スパイダ様と一緒にいることになってから残念令息に遭遇する事がなくなった。
だが、変な噂が耳に入る。
スパイダ様とハルマゲ令息が度々言い合いする程に仲が悪くなったと。




