Laying the Groundwork
「さてと、安全安心な村に戻ってきたことだ、アタシは今このざまだのんびり過ごすとすっかねぇ。」
そう言い棗はマコと華音の腰に腕を回し引き寄せ二人の頬に口づけをする。
「配信はどうしよう?する?」
マコがそう棗に問いかける。
「そりゃ、アタシらの快適な生活はリスナーのスパチャと汐路のフリマでの収入に支えられてっからなぁ。
ま、そうだな。まだ軍資金はあるし哲平とかこの村の奴らをつかってIDPAのコースでも作らせっか?」
「それいいね。トレーニングにもなるし私達はシューターだし、リスナーもそういうのみたいだろうしね。」
棗の意見に華音が賛同する。
「でっ、でも、作るのにも……お金必要だよ?」
マコがそう不安げに問いかけた。
「そうなんだよなぁ。今回の遠征で得た魔石とか売ってもそう大きく儲けが出るとは限らねぇんだよなぁ。」
オークの魔石とトロールの魔石はこの世界でもそこそこ貴重な魔石だった。
特にトロールの魔石は高品質な魔道具にも使用されるほどだと棗はグレッグから聞いていた。
セーフハウスのインフラなどに使用するのはゴブリンの屑魔石でも代用できるため少しもったいないと感じていた。
「なっちゃん、それなら私に任せて。ばっちりやるから。」
そう華音が自信ありげに告げる。
「ん?なんか考えがあるのか? ま、華音に任せておきゃ大丈夫だな。」
華音は日本に居たとき確かにニートをしていた。
だがけっしてお金を稼いでいなかったわけではない。
ビアンバーのバーテンというそこまで高収入でもない棗と、社会復帰施設で高校生のバイト代以下の収入のマコそんな二人と都内の高級マンションで三人で暮らし、年に何回もアメリカなどに銃を撃ちに行けたのには理由があった。
棗やマコの収入を華音が預かり、資産運用をしているからだ。
久瀬の家に産まれた華音は、そういった英才教育を受けていた。
それにグループ会社の内部情報も入ってくる。
それを棗の作った資産運用の口座を使い日々着実に増やしていたのだ。
「で、何をする気だ?」
「うん?まぁおじいちゃんにスパチャねだるってのと、異世界の素材の独占契約かなぁ。もちろん異世界の道具なども手に入れて販売するよ。」
「汐路のフリマに出す奴を全部買わせるってことか?」
「うん。研究するにも量が必要だろうしね。」
だが、果たして魔石が地球でも活用できるのか?魔力なんて物を地球でどう研究するのだろうか?
そんな考えが棗の頭をよぎる。
「だが魔石の魔力、地球でも使用出来るとは限らねぇぜ?そうなったら自分の家に損害が出るんじゃぁねぇのか?」
「え?だからどうしたの? 別にいいじゃん出ても。数億、数十億程度で傾く家じゃないし。独占だよ?リターン考えれば十分有りでしょ?」
棗が常に最悪を想定し、損失を避けるソルジャーの思考であるのに対し、華音は利益と損失を天秤に掛ける投資家の思考だった。
投資に絶対はない。
だからこそ重要なのは、失うものではなく、得られるものがその損失に見合うかどうか。
そして華音自身はまだ気付いていない。
その大胆さが、生来の資質だけでなく、女神のサポートによっても後押しされていることに。
「あと、みんなにも少し手伝って欲しいんだ。快適な異世界トリガハッピー生活の為に。」
「なんだ?他にもなんか考えがあるのか?」
棗は話が長くなりそうだと思いながらいつも陣取っているシューティングレンジに置いた椅子に腰を下ろし煙草を咥える。
「ほら、私達って普段からここで銃をバカスカ撃ちまくってるし、この世界の人から見たらモンスターを不思議な攻撃で倒す怖い人って思われてるじゃない?
このままではダメでしょ?なっちゃんが合えて取引という形でしか関わり合いを持たないように距離をとってるのは理解してるけどね。」
「何をする気だ華音?」
「私達はこの世界のお金を銅貨1枚すら持っていないじゃない。この世界の希少金属とかいろいろ仕入れるためには金貨も必要でしょ?
でも、前になっちゃんが言ってたこともあるから地球の優れた商品はあまり売らないことにして、汐路ちゃんとマコちゃんの料理を使おうかと思うの。」
「どういうことだ?飯屋でも始めるのか?」
「そう。ほら、汐路ちゃんはいつまで私達と居るのかわからないでしょ?それに夜は気まずい思いをしてるだろうしね。
汐路ちゃんの自宅兼食堂なんかいいんじゃないかな?もちろん出ていけって言ってるわけじゃないんだよ?私達にとっても汐路ちゃんは必要な補給ラインだし情もあるもん。
マコちゃんとはアニメの話で盛り上がってるみたいだし、それは私やなっちゃんにはできないことだから……。」
少しだけ眉を下げ華音は汐路にそう告げた。
「まぁそうね、この世界での繋がりとかも必要だろうし、何かあった時の為にいろいろ考えておいた方が良いかもね。あ、でもお風呂やトイレは借りていい?」
「もちろん、しいて言うなら汐路ちゃんの家のどこかにドアを設置して汐路ちゃんはゆっくり寝たいときはセーフハウスから出て自宅で寝るでもいいし、真冬や真夏のエアコンがないと厳しい時はセーフハウスの中で寝るのもいいんじゃない?」
「ま、なんにせよだ。このまだ生活がギリギリレベルの開拓村じゃ商売もそう成り立つもんじゃぁねぇ。それにこの村じゃそんなレアな金属や道具も手に入らねぇ。一度エリオナの居る街に行くってのはありだな。あいつとの商談や打ち合わせなども必要だ。」
棗の言葉に汐路は意外そうな顔をし聞き返す。
「棗って結構人の事気にしないしどうなってもいいって感じなのに、強引に自分で進めることはしないんだ。」
「あん?そりゃエリオナと会った事が無きゃ勝手にしてたぞ? だがアタシらは既にエリオナに合ってる。そしてアタシはエリオナを高く評価したし気に入っているからな。
今ン所、グレッグ達やエリオナ、それとギリギリだがあの哲平とかいう奴は信用しているぜ?だからこそ、商売をするならそれによって悪い影響が出ないようにするエリオナとの約束はまもらなきゃなんねぇ。」
そう真面目な顔で答える棗だが、お腹から大きな音がなり頬を指でひとかきするした。
「ちっ、しまらねぇなこんな時に鳴りやがって。マコ、なんか軽くつまもうぜ。あと今日はトレーニングも戦闘も無しだ。昼間から酒でも飲んで雑談配信でもしておくか。」
棗達の作ったシューティングレンジ、その定位置につぎつぎといつものグリルなどが置かれていった。
マコと棗、二人に続き華音への影響が明かされる回となりました。
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