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The Line Between Us

 棗が負傷した。そう聞いた汐路は、激しい衝撃に目を見張った。

華音やマコよりも遥かに戦い慣れているはずの棗が傷を負うなど、意外でしかなかったからだ。汐路の目から見ても、どうにもおっとりして鈍そうなマコが怪我をするならまだ話はわかる。だが、実際に血を流したのは、三人の中で誰よりも軍人のように冷徹に立ち回る棗だった。


 「棗は大丈夫? マコちゃんや華音ちゃんは平気だったの?」


 セーフハウスの中で用意していた料理を温め直しながら、食事を取りに来たマコと華音に聞く。


 「うん。私はライフルで遠距離だったからね。」


 そう言いながらキッチンのテーブルに並ぶ平均的な日本食メニューに華音は久し振りという感覚を覚えた。

 異世界に来てからというもの、棗の好みに引っ張られて南部料理の頻度が跳ね上がっている。都内のマンションで三人で暮らしていた頃もアメリカンなメニューは多かったが、さすがに毎食に近いレベルではなかった。醤油と出汁の香りが、張り詰めていた華音の心を微かに解きほぐしていく。


 「わ、わたしがトロかったから……。うまく出来なかったから……なっ、なっちゃんが庇ってくれて……そ、それでなっちゃんが怪我を……。」


 グスリと鼻を啜るマコに、汐路は手を止める。


 棗の負傷それ自体は喜ばしいことでも良いことでもないが、汐路は棗がシュウジのように口だけではないことに嬉しさと羨ましさを感じていた。

 日頃、棗は華音とマコを大事にしているといい、仮に今の快適な生活が終わるとすればそれは華音やマコをかばい棗が死ぬことで通販ができなくなる可能性だと言っていた。

 その言葉が口先だけの軽いものではなく、現にこうして棗はマコを庇い負傷していることで証明されていた。

 

 「ほら、マコちゃん。ティッシュ。」


 汐路はキッチンカウンターの上にあるティッシュを取りマコに手渡す。


 「あ、ありがとう。 し、汐路ちゃんは先にたべちゃった? わ、私たちはグレッグさん達が作業しているのを、見守ってないといけないから、外で食べるけど。」


 昼はとうに過ぎているが汐路は一人安全な所で待機しているのに先に食事をするのは間違っていると思い、まだ昼食を取っていなかった。それに、毎日4人で食事をしていた為一人で食事をするのも寂しいものがあった。


 「ううん。みんなで食べようと思って待ってたからまだだよ。」


  汐路の言葉に、マコは小さく「そっか」と呟いた。

  胸の奥が少しだけ、ちりちりと焦げるようにざわつく。棗の血肉になる食事を作るのは自分の特権であり、華音すら踏み込めない聖域だ。それを一時的とはいえ、汐路に譲ってしまったことへの、子供じみた嫉妬と独占欲だった。



 だが、マコの中に汐路を排除しようという冷酷な意図はない。

それどころか、マコは汐路のことをそれなりに気に入っていた。


 大前提として、汐路の持つ『フリマアプリ』の異能が今の快適な生活に不可欠だから、という実利はある。もしあの能力がなければ、汐路は今ここに居ない。

 だが、今のマコにとって、汐路は単なる便利な道具以上の存在になりつつあった。

 棗も華音も、アニメや漫画といったサブカルチャーには一切興味を示さない。この世界で唯一、マコと同じ目線でその楽しさを共有し、語り合えるのが汐路だった。それに、汐路はマコのことを「棗の付属品」としてではなく、一人の人間として真っ直ぐに見て、気にかけてくれる。

 何より大きかったのは、汐路が棗のことを「理解」してくれている点だ。

 マコや華音のような“異常者側の共感”ではない。一般人としての倫理観を保ったまま、「あの物騒な棗なら、次はこう動くはず」と、棗の思考パターンや行動を正確に予測できる。その客観的な理解力の高さは、棗を誰よりも観察してきたマコから見ても、心地よく、信頼に値するものだった。


 だからこそ、汐路のことは嫌いになれない。嫌いになれないからこそ、彼女の作った料理を棗に届ける瞬間の、このほんの少しの甘酸っぱい独占欲の痛みが、マコにとっては新鮮で、少しだけ面映ゆかった。


 だが用意されている食事は、おにぎりや卵焼き、味噌汁、鶏のから揚げなどだ。

 マコや華音、汐路にとっては家庭の味ともいうべき日本食だが棗にとっての家庭の味、故郷の料理はテクスメクスなどアメリカ南部の味だ。

 マコは汐路が棗を理解できていないとは思っていない。華音とマコのように棗のすべてを理解しているとは言えないが、日本人には受け入れがたくとも棗は非常にシンプルな考えと行動をしわかりやすい人間だ。一か月ほどしか共にしていない汐路でも棗の事をある程度は理解している。

 それでも『アメリカ南部の食事を好むことを理解している』のと『南部料理を作れる』のは完全に別問題だ。

 あのバターとスパイス、肉汁に塗れたヘビーな味を再現し、食事という行為で最も棗を喜ばせ、その胃袋を支配できるのは自分だけだという絶対的な事実。それがマコに、揺るぎない自信と余裕、優越感を与えていた。

 

 「ほら、マコちゃん、汐路ちゃん。なっちゃんがお腹すかせてるから早く持っていこう。」


 華音がガンルームから拠点を出発するときに回収してきた折り畳みのテーブルのセットを抱えながら声をかける。


 「あ、うん。」


 マコはトレイに皿を載せ腹を空かせているであろう棗の元に向かった。


 

私はノベルなどの原則みたいのをしらないのですがいろんな作品を見てると強調したい言葉や固有名詞などをくくるのに”●●”の人もいれば『』の人も【】の人もまちまちですがなんか原則みたいのがあるんでしょうか?個人的には””が撃ちやすくて楽です。『』や【】だとかっこを変換してから間にタイプをしなくちゃいけないのに対し””だとシフト+2でいけますので。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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