Before the Breach
早朝。まだ日も昇りきらない時間。
愛用のガルモントのブーツを履き、普段よりもタクティカルな装いの棗は、ひんやりとした明け方の空気を吸い込みながら身体をストレッチでほぐしていた。
普段はカーゴパンツを穿いているが、今日はゴブリンの巣に向かうため各所に布のパッドが縫い付けられ丈夫なタクティカルパンツを穿き、膝と肘にポリカーボネートのパッドを取り付けていた。
「なっちゃん、気合はいってるね。」
「そりゃ、雑魚のゴブリン相手とはいえ戦うんだぜ?万全を尽くすのは当たり前だろ?」
棗に声をかけた華音もほぼ棗と同様の普段よりタクティカルな格好だ。
棗との違いは棗がガルモントのコンバットブーツに対し華音はサロモンのミリタリーラインのトレランシューズといった軽くて履き心地の良い物という点と、棗が胴回りをチェストリグという軽装なのに対し防弾プレート入れていないソフトアーマー仕様のプレートキャリアという装備をしポーチ類の拡張性を優先した、実戦を意識したセットアップをしている点だった。
「なっ…なっちゃん。コ……コーヒー飲む?」
マコも今日に限っては華音や棗と同じくタクティカルなギアに身を包んでいた。
大きな胸を抑え込むようにプレートキャリアを身に着け各種弾薬をプレートキャリアやコンバットベルトに取り付けている。
「うわっ? マコちゃん 一体何発のショットシェル身に着けてるのそれ。」
マコの主兵装はどちらも現代的なボックスマガジンではなくチューブマガジンのためクイーバーやホルダーがプレートキャリアやコンバットベルト、はては太ももや二の腕にまで取り付けられ無数の弾薬が目に見えて取れた。
「お、マコ。イカす恰好してるじゃねぇか。そんだけありゃ弾切れの心配はねぇだろうな。あとはリロードをどれだけ早くできるか……だ。」
「はぁ⋯⋯。朝からあんた達は元気よねぇ。」
唯一疲れた雰囲気を隠さない汐路がテーブルのコーヒーを手に取り一口啜る。
「おいおい、しけた顔してんじゃァねえか。」
「そりゃ 私は戦わなくてもいいらしいけどモンスターの巣に行くんでしょ?気が重いのよ。」
「別にアタシらのいねぇ、助けてくれるやつが居るかわからねぇ開拓村で待っていたいってんならそれでも良いぞ?アタシらはアタシらに出来る範囲で汐路を守るって約束したからな。アタシらの目が届かねえ場所に居るならそれは汐路の選択だ。」
「ついていかないなんて言ってないじゃない。ただやっぱり怖いものは怖いのよ……。」
銃の扱いや基本となるセルフディフェンスのトレーニングを繰り返していたとしても、汐路は考え方も感性もごく一般的な日本人だった。
女神を名乗る存在から生き物の命を奪うときの精神的な負荷の軽減などを受けているがそもそもその命を奪う戦闘行為自体を怖がっている。
そういった意味では、マコは──棗と同じ異常者側と言って間違いないだろう。
「お、グレッグ達も支度できたみてぇだな。そろそろ出発だぜ。Y’all ready?」
アメリカ南部……テキサス訛りのスラングを口にし3人を引き連れグレッグ達の元に歩いていく。
マガジンや弾薬を身に着けながらも愛用しているライフルを持たず手ぶらな棗達に合流したグレッグは武器はどうしたと問いかける。
「道中は気づかれねぇようにいきてぇから、いつものライフルは使う気はねぇからな。華音の能力でしまってるぜ。 アタシらはどこでも拠点を呼び出せるし購入できるからロジスティクスに関してはかなりルール無視の存在だ。」
「便利なもんだな。羨ましいぜ。」
「はっ それならお前も自分の世界とは違う世界に転移してみたらいい。それも自分の暮らしていた世界よりも数段文明の低い暮らしにくい世界にだ。
当たり前のようにあったもんがねぇ世界で生きるってのはストレスがたまるもんなんだぜ?」
そう口にする棗だが棗自身の異能と華音の異能、そしてそれをサポートするかのようなマコと汐路の異能により棗達4人は日本に居た頃と大差ない生活を送れていた。
「ま、さっさと出発して仕事を片付けちまおうぜ。」
「そうだな。できることなら日帰りで済ませたいしな。」
そう口にするグレッグ達は野営の道具など少なくない荷物を背負っている。
ゴブリンの拠点を襲撃し駆除するだけではなく、その後の処理まで考えると一日では終わらない可能性を考慮しての事だった。
開拓村を出発し森の中を斥候であるラスティと双眼鏡を時折覗き込みながらOps-Core AMPの集音性能を使い警戒する棗を先頭に進んでいく
「ラスティ、ゴブリンが3匹 50メートル先に居るぞ。まだこっちに気づいてはいねぇ。」
そういい棗が指を差す。
「3匹かぁ たぶん接近するまでに気づかれちゃうね。弓は私の持ってるコレとハンスのもってるロングボウだけだから。」
ショートソードと盾をメインに使うハンスはグレッグのパーティーの中では何でもそつなくこなす器用なオールラウンダーだった。
「ちっ 結局アタシらがやるしかねぇか。」
舌打ちをしつつもどこか楽し気な棗にラスティは轟音を響かせる棗達は目的地まで戦わないのではなかったのかと疑問を投げかけた。
「そうはいったが、アタシの武器がサイレントキルできねぇなんて言ってねぇだろ?この世界よりも数段文明が進みコイツで戦うことが当たり前の世界でコイツの欠点の音をそのままにしておくなんてあり得ると思ってんのか? もちろん消音と引き換えに威力や射程はトレードオフされているがな。」
そういい棗は背負っていたリュックを下ろすと中から普段持つライフルから見れば玩具の様にも見える小ぶりの分解されたライフルを取り出す。
「コイツはRuger 10/22 テイクダウンライフル。.22口径っつうガキのチンポよりもちいせぇ低威力の武器だが静音仕様にしたときの静かさは折り紙付きだぜ。ま、これで倒せるのはあの貧相な身体つきのゴブリン程度だ。こんな豆鉄砲じゃぁオークは100発ぶち込もうが倒せねぇ。」
相変わらず品のない言い回しをする棗は素早くライフルを組みバレルにサプレッサーをねじ込み構えた。
4倍固定の安っぽいスコープを覗き込みゴブリンの急所に照準を合わせてから人差し指をトリガーにかけ引いていく。
普段からシューターの適正がないと言っている棗だが、まるでゲームのキャラのように極端な技術の差があるわけではない。
50メートルという距離で、使用するライフルが精密射撃に特化した22口径のライフルならば華音やマコとそう差が出るわけではない。
棗の言うシューターの適正の無さというのはあくまでも精密射撃競技で限定された状況だ。射撃競技でもUSPSAやIDPAといった実戦向けの競技となると棗がもっとも得意とする距離と競技性になりマコが最も苦手とする競技になる。
棗のシューターとしての適性の無さは、大口径の火力主義であること1911モデルやM1Aといった女性が持つには重い銃を好むという点によるものが大きい。
仮に華音のDDM4V7を棗が扱えば100メートル付近ならば華音やマコと同程度のスコアを出せる。
が、300メートルから500メートルというロングレンジともなると華音やマコの方がスコアが良くなるのは間違いなかった。
トリガーが引かれ、くぐもった火薬の発火音とサプレッサーから弾頭が抜ける時の『ジッ』というような独特の発砲音を鳴らし一射目がまだ棗達に気づいてないゴブリンの首を穿ち致命打を与え地に伏せさせ、それに驚いた残りの二匹が棗達に気が付くより早く新たなターゲットへと銃口をむけた棗がトリガーを再び引き狙撃を成功させる。
「ええええ 何それずるい。」
機関部の動く音が静かな森に響くがその音の大きさは80デシベル程度。
サプレッサーとサブソニック弾を使用したライフルの発砲音は、わかりやすく言うならば日本でも買えるガスブローバックのエアガンと同程度かそれより少し大きい音だった。
3匹のゴブリンを気付かれることもなく森に特徴的な轟音を響かせることもなく、ほんの数秒で静かに制圧した棗にグレッグ達は「なんでもありだな」と棗の手にする武器の出鱈目さに驚いていた。
「なっちゃん、なっちゃん私達も持った方が良い?」
「そうだな、華音がこいつを持って、マコにはガンルームにあるCZ457VarmintRifleでも使って貰うか?」
CZ457バーミントライフル、害獣駆除に使われる.22口径のボルトアクションライフルだがその精度の高さは折り紙付きで最高峰の.22口径ライフルとも言われるほどだった。
「なっちゃんは?」
「アタシはこういう豆鉄砲でチマチマやるってのは性に合わねぇよ。テキサス育ちのアタシには大口径大火力のが性に合ってる。」
Y’all ready? 準備は良いか? です。南部では Are you ready? がこうなります。
Ruger 10/22 テイクダウンライフル Ruger社の10/22 presicion rifleの分解できるモデル
アメリカの子供たちが親と一緒にアウトドアなどに行き初めて手にするライフルの一つが10/22precision rifleですね。
サプレッサーとサブソニック弾を使用したライフルの発砲音
サプレッサーよく言われるサイレンサーをつけただけでは消音効果は低く、使用する弾丸を亜音速弾にして消音効果が十分発揮されます。
そしてサプレッサーをつけると「威力が落ちる」とよく言われますが実はサプレッサーをつけても初速は落ちずむしろバレルが僅かに延長されたことで初速が上がっていることがあります。
但し確実に上がるというわけでもないと思います。
CZ457VarmintRifle チェコのチェスカー・ズヴォロヨフカの販売する箱出しで最高峰の.22口径ボルトアクションライフルと呼ばれるライフルです。
人気もありレンジでも置いてあるところは多いです。標準モデルで700USD、MTR(精密射撃)モデルで900USD。.22口径なのでこれを高いと思うか安いと思うかは人それぞれですが性能を考えると私は安いと思っています。
が、精密射撃競技用のCZ457 TARGET MTRの2000ドル超えは流石に高いかなぁと思いますね。
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