第53話
よろしくです!!!
俺が部屋を出ようとすると白鳥さんに呼び止められた。
「龍人、今気づいたが、見てくれだけはというのはどういうことだ?」
ギクッ……
「とても美人ということですよ」
「ふーん、まあいいや。明日会えばわかるしな」
やばかった……根掘り葉掘り聞かれてたら多分白鳥さん、この話受けてくれなかっただろうな……
しかし、過ぎたことだ。後のことは白鳥さんに任せよう。
人任せっ!
そんな事を考えながらリルルやリュカに出かけてくるとだけ告げて、公都から東に少し行ったところにある森に向かう。
森は木々が隙間なく立ち並び、午前中なのにもかかわらず薄暗い。
しかし、吹き付けてくる風が木の葉を揺らしざわめきたて、木の枝にとまった鳥たちが囀鳴く。
そんな一種の音楽を聴きながら目的の動物を探す。
探し始めて30分経過しただろうか……目的の動物を見つけた。
キキッー!キキッー!と鳴きながら腕、脚、尻尾を駆使して木々の合間を縫うように駆け抜ける。
そう、俺が追っていたのは野生の猿だ。魔物ではなく、ただの猿を探していたのだ。
人間の進化前が猿だと言われていたのを思い出し、例の薬を人間に投与する前に猿で実験しようと思ったのだ。
しかし、今目視できる距離にいるただの猿は2匹。どちらとも捕まえたいがそれを囲むように魔物化した猿が野生猿を守っているのだ。
しかし、二兎追う者は一兎も得ずというのでどちらか1匹だけに狙いを定める。
体格が大きく、頑丈そうな奴に狙いを定めて隠れていた茂みから飛び出す。
俺が飛び出してすぐに気づいた魔物猿が3匹前に出て、もう3匹が野生猿を守るように退がる。
しかし、俺に猿の攻撃は一切当たらず、俺とすれ違った猿は全てが細切れにされ、地面を転がっていく。
それを見た残り3匹の猿は逃げるように野生の猿を引っ張りながら離脱するがそんなのを見逃す俺ではない。
俺は地魔術の『バインド』を行使する。
俺の魔術が発動すると猿たちの足元がうねり、触手が飛び出して、猿5匹を地面に縛り付ける。
お!運良く2匹とも取れた!!
俺は魔物化した猿の首を刎ねて焼く。
周囲に肉の焦げるいい匂いが漂うが、他の動物が来る気配はない。
もしかしたら、ここにいるのはこの猿だけなのかもしれない。
だからどうしたではあるが……
捕まえ、地面に縛り付けた猿2匹は暴れまわり、抜け出そうとするが、自分たちを縛り付けている土はビクともしない。
そんな光景を見ながら俺は睡眠薬を投与して眠らせる。
大人しくなった猿2匹を両脇に抱えて、屋敷の自分の研究室に直接転移する。
転移した目の前にはすでに猿2匹分の檻が置いてあったのでその中に猿を入れてから錠前をかける。
その後やることは、猿の体の中に自爆機能をつけたものを埋め込む。
超小型爆弾(ESB・Extraordinarily small bomb)重量10グラムのくせに爆発力はダイナマイト並みの威力。こんな使いやすい爆弾はない。
そして、猿が起きる前にやることは、DNAを無理矢理、四重螺旋構造にする薬を作ること。
無理矢理やり過ぎて死んでしまっても、死ぬ前に四重螺旋構造にして仕舞えばいいので、作るのは簡単だ。
色々試行錯誤したが液体注射しかできなかった。
そして、猿が目を覚ます前に例の薬を注入する。
例の薬を注入された猿2匹は目を覚まし、檻の中で暴れ狂い発狂する。
一通り暴れて大人しくなったかと思うと2匹とも体毛が白に変わり、尻尾が3本、瞳の色が金色に変わった。
今回瞳の色が金色に変わっただけで、瞳孔は縦に細長くはならなかった。
しかし、この姿を見るとまさに神獣と呼んでもいいほどになっている。
俺は側に立てかけてあったライフルを手に取り猿の1匹の脳天に向けて発砲する。
狙い違わず、猿の脳天に吸い込まれた弾丸は猿の頭を貫通し、壁に傷をつける。
撃たれた猿はというと、頭がミンチ状に吹き飛び数秒の間は一寸たりとも動かなかったが、すぐに尻尾が奇妙な動きをしだして頭が逆再生したかのように戻って、くっ付いた。
でも、神獣化した途端にうるさくなくなったし……いいことなのかもしれないが、どこか感情が抜け落ちているような気がしてならない。
う〜む、どうしたものか……ここには脳波を計測する機械なんてないし、そんな魔術も存在しない。
じゃあ、作ればいいんじゃ?
いや、魔法だったら出来そうかも……イメージすれば出来るんだし…けど、そのイメージが大変なんだよね〜
しかし、大変でもこれを実用化に向けて開発するには必要なこと。
そう自分に言い聞かせて魔法行使のイメージを構築していく。
自分の感覚では数分で出来たが、本当は何分かかってるかわからない。
魔法って戦闘ではあんまし使えないな……イメージ力とかそういう才能があったら可能かもしれないが。
そんな事を考えながら目の前にいる猿2匹に先程構築した魔法をかける。
すると、俺の頭の中に猿の脳の情報が流れ込んで来た。
やばいっ!このスピードで全て流れ込んで来られると後遺症が残るっ!
そんな事を考える暇もなく鬼目を発動する。
脳内処理速度が向上したおかげで、クルクルパーになるのを防ぐことは出来たが、神獣化するとこんなに情報量が増えるんだな……
結果は、予想どうり完全に感情全てが消え去っていた。
ただ、見て、聞いて、食べて、命令を受けるだけの存在。
感情がないので、何か思うこともできなければ鳴くこともできない。
まるでコンピュータだ。
こんなもの生物とはかけ離れている。やはりまだ改良が必要だな。
俺は超小型爆弾の起動スイッチを押して自爆させる。
ふと、時計を見ると午後3時。おやつの時間だ。
この世界におやつなんて概念は存在しないけどね。
そのあとは、四重螺旋構造の欠点や生物に対する悪影響、そしてその改善方法などを調べて時間を潰した。
翌日、朝から白鳥さんと朝食を取り、王都に転移で向かう。
噴水広場に着くと、待ち合わせ時間10分前だというのに先生が噴水の縁に座っていた。
とても気合を入れているのがあの担任の生徒だったら一発でわかるだろう。
それくらいの気合の入れようだった。
「先生。連れて来たよ」
「どうもこんにちはキョーマ・シラトリさん。わたくし、リュウトくんの担任をしているフィエル・ミーマムと言います。よろしくお願いします」
うわぁ……いつもの先生を知っているとこんな先生を見れるのはとてもレアなのかもしれない。
「フィエル・ミーマムさんですね。フィエルさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「では、こちらもキョーマさんと呼んでも?」
「ええ、それから京間ですけどね」
「キョーマ……何か違いましたか?」
「いや、やっぱりいいです」
そんな先生と白鳥さんの会話を聞きながら露店を見て回っていると不意に声をかけられた。
「龍人、あの先生のどこがダメなのか教えてくれねぇか?」
「それは自分で見極めてくださいね。俺はこれで失礼します」
そう言って近場の屋根に転移して、白鳥さんと先生のデートを暖かい目で見守る。
「うまくいくといいですね」
そんな声が漏れた。




