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オールゼロの英傑継承者〜魔導学園で「期待外れ」皇子は、すべてを亜空間で無効化(ミュート)する〜  作者: はる吉
第4章:アカデミー

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出自と血筋

少し長めです

学園の敷地内、交換留学生用の最高級寄宿舎の一室。

夕暮れ時の赤黒い光が差し込むその部屋で、海流(カイル)と星羅(セレナ)の兄妹は、未だに激しい悪寒と震えの中にいた。学園ギフト能力測定会での「人工魔獣テロ」の完全なる大暴走と失敗。最高責任者であった海流(カイル)への弾劾は免れず、それどころか、手引きをした関与も疑われており、烈真派閥の評価は完全に地に落ちた。

「クソッ……! なぜだ、なぜあの期待外れ(焔光)の周りばかり、ああも都合良く「奇跡」が起きる……!」

海流(カイル)が血を吐くような声を上げ、豪奢なチェストを殴りつける。だが、その背後に立つ二人の「影」が冷酷な嗤い声を上げた瞬間、室内の空気は完全に凍りついた。

「――往苦しいですね、海流(カイル)殿下。あれほど莫大な資金と魔獣の召喚符を費やしておきながら、全てをドブに捨てて「運が悪かった」、ですか?」

懃懃無礼だったこれまでの態度を完全に豹変させ、衣装の袖からチリチリと魔鋼製の鉄球を弄んでいるのは、筆頭侍女シグネ・ヴァルアだった。その隣では、専属執事クライド・バロウが、ランバルト仕込みの「嵐」の気の圧をドロドロと膨らませ、逃げ場のない重圧で兄妹をソファへと圧し潰す。

「シグネ……クライド……! 貴様ら、主に向けたその不遜な態度は何だ!」

「主、ですか?」

クライドが、三つ揃えのスーツの襟元を正しながら、憐れみすら含まぬ冷徹な瞳で海流(カイル)を見下ろした。

「勘違いしないでいただきたい。我々メディチス財閥が今日まで忠誠を誓い、莫大な資金を融通してきたのは、烈真殿下や貴方方のような「無能な皇族」に対してではない。――全ては、本物の怪物(英雄)となる臥龍(ガルシア)殿下を玉座に就かせるための、都合の良い前座、泥を被るための操り人形に過ぎないのですよ」

「何を、言っている……? 臥龍(ガルシア)は俺の弟だぞ! 烈真家の正統なる血統は俺――」

「まだ分からないのですか?本当に無能な長男殿ですね。」

クライドはフフフッと鼻で嗤い、残酷な真実を告げた。

「貴方方の母親であるシェイラ様は、東辺境伯家の者なのでは無いのですよ。その真の正体は、我が「エイシン国」の支配者・聖リュウホウ陛下が側室との間にもうけた子、実の娘。そして――臥龍(ガルシア)殿下の本当の父親は、かつて英傑候補と謳われたエイシン国最強の武人、ランバルト・メディチス様だ。臥龍(ガルシア)殿下こそが真なる長子なのですよ。」

「なっ……!?」

海流(カイル)の思考が完全に停止した。隣で聞いていた星羅(セレナ)もまた、顔面から完全に血の気が引き、持っていた扇を取り落とした。

臥龍(ガルシア)は烈真の子ではなく、母の不倫によって産まれた、純然たるエイシン国の最高峰の血脈。それこそが、わずか五歳にして異常な気の総量を秘める怪物の正体だったのだ。

「財閥が期待したのは臥龍(ガルシア)殿下のみ。貴方方は、その臥龍(ガルシア)殿下が皇国の次代皇帝として即位しエイシン国の血で染めるまでの「踏み台」なのです。……ですが、今回の失態で貴方方はその前座としての価値すら失った。よって、相応の処分(使い道)を下します」

シグネが冷酷に暗殺剣へと変形した鉄球を突きつける。

「星羅(セレナ)殿下。貴女は東側ヴァルハイト家の傍系一族、あるいは他国へ「エイシン国」の政略結婚の駒として嫁いでいただきます。貴方の子は皇室、延(ひ)いては、皇帝始祖から連なる聖域ギフトの研究材料として価値がある……そして海流(カイル)殿下、貴方には、かつて烈真殿下が手を出して自滅したエイシンの禁忌、魔導兵器の肉体への埋め込みと気の強制増幅改造を行う「外法工廠」の実験体になっていただきます」

「実験、体だと……!? 悪ふざけはよせ!」

カイルが立ち上がろうとするが、クライドの放つ「嵐」の重圧に縫い付けられ、一歩も動けない。

「これには重大な意味があるのですよ」

クライドの瞳に、歪んだ狂気が宿る。

「皇帝・応心陛下の「皇帝覇気(光)」。ギフトの出力を強制低下させ、ひれ伏させる絶対の権能!ですが、あの絶対領域の気を狂わせ、突破するには、血の繋がりによる気の同調、そして、それを「継承」できる肉体が必要不可欠なのです。……烈真殿下や、その血を引く貴方方の肉体なら、外法で気の出力を強制増幅させれば、皇帝の覇気を内側から乱す「生体兵器」として実によく使える。――光栄に思いなさい、海流(カイル)殿下。やっと有用性を示せますよ。」

「ひっ……、あ、ああ……!」

海流(カイル)は激しい恐怖と絶望にガタガタと身を震わせ、星羅(セレナ)は完全に言葉を失って涙を流した。

二人は狂ったように部屋を飛び出し、馬車を走らせ、皇宮の別宮にいる実の母親、シェイラ・フォン・アウグストのもとへと走った。自分たちを狂愛し、支えてくれたはずの唯一の味方へ、真実を否定してもらうために。

「お母様!!お 答えてください、お母様!!」

客宮の扉を乱暴に開け放ち、息を切らせた海流(カイル)と星羅(セレナ)が転がり込む。

部屋の中央、妖艶な香気が漂う中、シェイラは「機」のギフトで皇国の極秘情報をエイシン国へリアルタイム送信する魔導端末を操作していた。彼女は入ってきた我が子たちを一瞥すら模さず、冷淡な声で言った。

「騒々しいですね、海流(カイル)、星羅(セレナ)。武術大会に続き、測定会でもあのような無様な醜態を晒しておきながら、まだ私に何か用ですか?」

「お母様、クライドたちが言ったことは嘘ですよね!? 臥龍(ガルシア)が不倫の子だなんて、お母様がエイシン国のスパイだなんて、そんなこと――!嘘に決まってる。奴らメディチスが裏切り嘘を…」

海流(カイル)の悲痛な叫びに、シェイラは静かに端末を置き、ゆっくりと二人を振り返った。

その瞳には、既に母親としての温もりなど、最初から存在しなかった様な、まるで別人になったかの様な雰囲気を纏っていた。

「う、そ? いいえ、全て真実ですよ」

「あ……っ」

星羅(セレナ)が短い悲鳴を上げて口元を押さえる。

「確かに貴方方は、私の腹を痛めて産んだ子供たちですわ。……ですが、所詮はあの無能で劣等感の塊だった烈真の血を半分引いている。その時点で、貴方方3人は我がエイシン国の偉大なる乗っ取り計画の為の、ただの「道具」に過ぎないのですよ」

シェイラは冷酷に言い放ち、立ち上がった。

「完璧なエイシン国の武の血を継いだ臥龍(ガルシア)こそが、我が国の至宝。貴方方は、その臥龍(ガルシア)が玉座に就くための生け贄となれるだけ、まだ幸福だと思いなさい。海流(カイル)、大人しくクライドたちの言う通り、外法の実験体になりなさいな。我が国の役に立てて、嬉しいでしょう?」

「道具……、俺たちが、ただの道具……!?」

海流(カイル)の瞳から光が消え、深い絶望と劣等感、そして母親への狂気的な憎悪が、体内の「火」の気と混ざり合ってドロドロと滾り始めた。星羅(セレナ)もまた、計算がすべて狂った絶望のなかでガタガタと震えるしかなかった。二人は完全に、実の母親と財閥の「生け贄」として、捨て駒だったのだと理解した。


同時期、皇宮の地下にある秘密の尋問室。

そこには、蒼真の私兵騎士団「蒼天碧流騎士団(そうてんへきりゅうきしだん)」の団長であり、西辺境伯家の次期当主候補序列1位――ジーク・シルフィードが立っていた。

彼の足元には、先日の測定会テロの余波で、裏から容赦なく一網打尽に捕縛したメディチス財閥の幹部職員や、織姫、朧が捕縛したエイシン国の工作員たちが、完全に血の気を失って転がっていた。

「――そうか。それがお前たちの、本当の狙いだったわけだ」

ジークは冷徹な瞳で尋問書の書類をまとめると、即座にその足で、三男・蒼真の執務室へと向かった。

「蒼真様。ジークです。捕縛した隣国の工作員どもの尋問が完了いたしました。……極めて不穏な、皇国の根幹を揺るがす真実が発覚いたしました」

室内にいた蒼真(そうま)は、「風」と「水」の複合ギフトによる優しい気の平穏を纏いながらも、ジークの尋問書を受け取るなり、その眉を深くひそめた。

「ジーク、内容を」

「はい。烈真殿下の妻、シェイラ・フォン・アウグスト殿下、いや、シェイラ・メディチスですが、彼女の東辺境伯家という出自は完全に偽装されたものです。……真の正体は、隣国「エイシン国」の支配者、聖リュウホウが側室に産ませた実の娘。メディチス財閥は、彼女を皇国へ嫁がせ、血縁を結び、その子を皇帝にする事で、最終的にこの皇国を内側から丸ごと乗っ取る「侵略計画」を進行させていました」

「シェイラが、聖リュウホウの娘……!」

蒼真の瞳に、鋭い怒りの光が宿る。

「さらに、恐るべき事に、烈真殿下の次男である臥龍(ガルシア)は、烈真殿下の子では無く、シェイラと、隣国最強の武人と言われるランバルト・メディチスとの間に出来た不倫の子と言う噂です。事実、工作員達は、シェイラと臥龍(ガルシア)だけを最優先する様に指示を受けておりました。財閥は、異常な気の総量を秘めるガルシアを次代の英傑、つまりは、次の「勇帝」とし、そして皇帝の座に就け、我が皇国を完全にエイシン国の支配下に置こうと画策しています。更には、皇帝陛下の「皇帝覇気」を血の繋がりを利用する事で内側から乱す生体兵器として利用する計画も裏で進んでおり、烈真殿下は既に利用され、次に海流(カイル)殿下も危険ではないかと考えます。」

「なっ……どこまで我が皇国を、我が家族を愚弄すれば気が済むのだ、あの者たちは……!」

蒼真の周囲に、鉄壁の暴風障壁「風神の加護」の気が激しく滾り、机の上の書類がパラパラと舞い上がる。次男・烈真を外法の闇で狂わせ、今度はその血筋すらも乗っ取りの道具にしようとする隣国の冷酷な毒牙。

「ジーク。この内容は、すぐにでも陛下、そして学園の織姫(オリヴィア)叔母様、視察官の紗夜へ共有する。……もちろん、学園にいる焔光と風花にもだ」

「ハッ。西辺境伯家一丸となり、命を賭けてどのような毒牙が迫ろうとも、我が「神速の青嵐」を以て、全てを切り裂いてみせましょう」

ジークは力強く胸を叩き、忠誠を改めて誓った。


【聖アウグスト皇立魔導武官学園】の特別医療棟の一室。ここは学園長オリヴィアの張る強固な結界の庇護下にあり、静養するローゼの傍らで、七歳の少女・恵海里(エミリ)は、小さな膝の上に自身が作った特製の「蟻型からくり人形」を並べて、じっとその動きを見つめていた。

カチ、カチ、カチ……。

人形の歯車が不規則に軋み何体かオレンジ色に発光していた。エミリの「機」のギフトは、これら人形を通じて、自身に優しくしてくれた者の気の残滓を閉じ込め、その者たちの微細な「気」の揺らぎを遠隔で感知し、色の発光で大まかに状態を把握する能力を持っていた。

「……お兄様、お姉様。恵海里(エミリ)の蟻さん、元気が、ないの」

恵海里(エミリ)は瞳に大粒の涙を溜め、部屋を訪れていた焔光と風花を見上げた。胸元には、いつも抱きしめているからくり人形をぎゅっと握りしめている。

「恵海里(エミリ)? どうしたの?」

焔光がいつものようにのんびりとした声をかけ、その小さな頭を優しく撫でる。その足元では、聖獣・仙(せん)が「キュイ……」と心配そうに鳴いて恵海里(エミリ)の足首にモフモフの身体を擦り付けていた。

「あのね……臥龍(ガルシア)が産まれる頃までは、海流(カイル)お兄様も、星羅(セレナ)お姉様も、恵海里(エミリ)にとても優しかったの。でも、臥龍(ガルシア)が産まれてから、お母様(シェイラ)は変わっちゃった。お母様、烈真お父様がいない間に、怖くて格好いい男の人(ランバルト)とお部屋で何度も、ドロドロの気でお話ししてたの。臥龍(ガルシア)は、その男の人の子供だって……恵海里(エミリ)、知ってた。それから、お兄様もお姉様も、お母様から「臥龍(ガルシア)の為に兄として姉として行動しなさい」って毎日プレッシャーをかけられて、気の形がどんどん歪んでいっちゃったの」

恵海里(エミリ)は小さな身体を震わせ、焔光の衣服の裾を強く掴んだ。

「今ね、お兄様とお姉様の蟻さんから流れてくる「気」が、死んじゃいそうなくらい弱まってる。お母様は、お兄様たちをお父様みたいにきっと、「外法の生け贄」にする気なの……! お願い、焔光お兄様、風花お姉様……! 海流(カイル)お兄様と星羅(セレナ)お姉様を、助けて……! 恵海里(エミリ)の大切な家族を、助けてください……!」

幼き少女の悲痛な懇願。それを聞いた風花の瞳が、氷のように張り詰めた。

「……実の子供迄を道具の様に使い、恵海里(エミリ)をここまで怯えさせるとは。メディチスやシェイラ叔母様の毒牙、どこまで浅ましいのでしょう。お兄様、これは看過できませんわ」

「うん、そうだね。恵海里(エミリ)の優しいお兄様とお姉様を取り戻しに行こう」

焔光の瞳の奥で、平凡な「ラッキー皇子」の枠を超えた、勇帝と聖なる巫女の血脈が静かに、しかし絶対的な覇気を伴って目覚めようとしていた。

そこに、朧から孔明に届いたジークからの報告を持ち孔明が現れて状況を説明する。

「ん。ちょっと時間がないかな。このまま後宮に飛ぶよ。風花、実は師匠(英傑)達から隠すように言われてるんだけど、僕の亜空間でも転移可能なんだ。今は時間が無いから、何も言わずについてきてくれるね?」

「……はい。いつでもお兄様を信じてます…」

焔光は頷き、「伯母様、恵海里(エミリ)とローゼを頼みます」と織姫の「風」に伝言を託すと、「いくよ。風花、ミーナ、孔明。」転移用に亜空間を開いたのだった。


同時期、皇宮の後宮。

「――蒼天碧流騎士団(そうてんへきりゅうきしだん)、前へ! 逆賊シェイラ・フォン・アウグストを国家反逆および不法侵入の容疑で捕縛する!」

蒼真の命を受けた団長ジーク・シルフィードが、神速の青嵐の気を全身に滾らせ、精鋭騎士たちを率いて後宮のシェイラの客宮を取り囲んでいた。まさに一触即発の、怒号と緊張感が響き渡る真っ只中。

ドガァン!!!

客宮の正面扉が、内側から激しく吹き飛ばされた。

突入してきたのは、ジークたちだけではない。学園から転移し、一瞬で駆けつけた焔光、風花、そして専属侍女ミーナと専属執事孔明の四人だった。

「焔光殿下!? なぜこちらへ!」

驚愕するジークをシレッと手で制し、焔光は奥へと進む。

そこは、すでに地獄のような修羅場と化していた。

「烈真……、海流(カイル)、星羅(セレナ)……! 私は、私はどこまで愚かだったというの……!」

部屋の床に崩れ落ち、髪を振り乱して涙を流していたのは、皇帝妃カトリーヌだった。

彼女はたった今、蒼真からシェイラの真の出自――隣国支配者・聖リュウホウの実娘であり、メディチス財閥を後ろ盾とした皇国乗っ取りの工作員であるという事実を突きつけられていた。さらに、我が子烈真を狂わせ、孫である海流(カイル)や星羅(セレナ)すらも「皇帝覇気を破るための生体兵器・道具」として使い潰そうとしているシェイラの冷酷な本性を、その身を以て知らされたのだ。

「カトリーヌ妃殿下(おばあさま)、海流(カイル)と星羅(セレナ)はどこにいるの?」

焔光が静かに尋ねると、カトリーヌは弾かれたように顔を上げ、焔光の打算のない瞳に縋り付いた。

「焔光……! シェイラは、あの女はメディチスの為ではなく、エイシン国の為に動く、エイシンの放った怪物だったわ! 我が孫たちを、奥の「次元結界の隠し脱出ルート」にて連れ去ろうとしている! 早く……早くあの子たちを救って! 財閥の流通網を悪用した、後宮の地下水道へと続く隠し扉よ!」

「感謝します、カトリーヌ妃殿下(おばあさま)、孔明、ミーナ、風花、行くよ!」

焔光たちが奥の隠し扉へと突入した瞬間、視界が開け、不気味な魔導の光が揺らめく地下空間へと辿り着いた。そこには、まさに隣国の工作員たちを引き連れて皇国からの脱出を図ろうとするシェイラ、そして虚ろな瞳で縛り付けられている海流(カイル)と星羅(セレナ)の姿があった。

彼らの前に立ち塞がったのは、メディチスが誇る最凶の護衛陣だった。

「――おやおや、期待外れ皇子が、わざわざネズミのように飛び込んできましたか」

専属執事クライド・バロウが、ランバルト仕込みの「嵐」の気を爆発的に解放し、地下空間の全域を暴風で圧し潰す。その隣では、筆頭侍女シグネ・ヴァルアが、衣装から数十個の鉄球を滑り落とし、一瞬で鋭利な暗殺剣や巨大ハンマーへと錬成させていた。さらに、双子侍女であり暗殺者でもある、リン・メイフォン&レン・メイフォンが、高熱の魅了毒霧を発生させながら、殺意に満ちた瞳で立ちはだかる。

「お兄様、この虫ケラどもは私たちが片付けますわ。一歩も近づかせません」

風花の不可視の暴風が地下空間の空気を一瞬で覆い、クライドの「嵐」の暴風を押し返す。

「シグネ。貴女の鉄球の「機」の制御、私の「木」の身体強化で全て叩き潰してあげますわ!」

専属侍女ミーナが、植物の生命力を肉体に転化し、騎士すら太刀打ちできない圧倒的な身体能力でシグネの魔鋼ハンマーへと正面から突撃した。ギィィィン!! と、鋼鉄と木の本質がぶつかり合う凄まじい衝撃音が地下に響き渡る。

「リン、レン。貴様らの浅ましい暗殺術など、我が師・朧直伝の影の前に霧散しろ」

孔明の「闇」のギフトが発動し、双子が放った高熱の毒霧を「闇の壁(ブラック・ウォール)」で完全に遮断。影に潜む隠遁術で二人の死角へと瞬時に回り込み、双子の身動きを完全に封じ込めて睨み合った。

「チッ、役立たずどもが! ならば俺が直接、その首を刎ねてやる!」

護衛たちが分断されるなか、専属執事クライドが激昂。彼が放ったのは、四大英傑候補だったランバルト直伝の絶技――「雷」と「風」を融合させた、全てを粉砕する「嵐の剛雷(ストーム・ボルテックス)」だった。凄まじい電撃の嵐が、無防備に佇む焔光へと一直線に牙を剥く。

「お兄様っ!!」

風花が叫ぶが、焔光はシレッと、懐から「皇后の古いスクロールの残骸(言い訳)」を取り出しながら、右手を軽く前にかざした。

彼の「気流読み」が、クライドの放った嵐の気の根源的な流れを、一瞬で看破していた。

(――はい、ここが気の結び目だね。)

焔光が指先をほんの少し動かした瞬間。

クライドが放った絶対的な破壊力を持つはずの「嵐の剛雷」の術式(気流)は、焔光の無属性の絶技によって、その根源の流れを完全に「遮断・無効化」された。

シュゥゥゥゥ……。

「な……に……!?」

クライドが驚愕に目を見開く、自分が全力を込めて放ったはずの「嵐」の電撃が、焔光の手前に触れるよりも早く、まるで最初から何もなかったかのように、ただの優しい微風となって「シレッと消滅」したのだ。英傑クラスの気を操るはずのクライドにとって、目の前で起きた現象は、恐怖を通り越して理解不能の怪異だった。

「ありゃあ、クライドさん。君の気の練り方、ちょっと過負荷で暴発しちゃったみたいだね。」

焔光はいつもの呑気な笑みを浮かべながら、短槍を一閃。

その次元刀を応用した気流の刃によって、海流(カイル)と星羅(セレナ)を縛り付けていた魔鋼の枷を綺麗に切断してみせた。

「ありゃ、壊せちゃった。この枷は欠陥品ですかね?さて、海流(カイル)兄上、星羅(セレナ)。恵海里(エミリ)が待ってるよ。学園に帰ろう」

「あ……、あ、焔光……、お前、なぜ……」

絶望の底で自我を失いかけていた海流(カイル)と星羅(セレナ)は、自分たちを「道具」としてではなく、ただの「従兄妹」として救い出しにきた焔光の圧倒的な器の大きさに魂を撃ち抜かれ、涙を流しながらその場に崩れ落ちた。

「チッ……、ここまでですか! シェイラ様、脱出を!」

クライドが悔しさに顔を歪め、残った隣国の工作員たちと共に、奥の隠し地下水道の次元歪みへと滑り込んだ。

「ふふ、焔光殿下。我が臥龍(ガルシア)が玉座を奪うその日まで、精々その強運を楽しんでいるが良いわ」

シェイラは冷酷な妖艶な笑みを残し、次元の隙間へと消え去っていった。

シェイラたち隣国の核心勢力には逃げられたものの、一番の目的であった海流(カイル)と星羅(セレナ)の奪還は成功した。

地下空間に静寂が戻るなか、ジーク率いる蒼天碧流騎士団(そうてんへきりゅうきしだん)が合流し、残された工作員たちの身柄を拘束していく。

焔光は、泣きじゃくる海流(カイル)と星羅(セレナ)の肩を優しく叩きながら、短槍を亜空間に戻し、夕暮れの後宮を後にするのだった。恵海里(エミリ)の待つ、風のよく通る安全な学園へと帰るために。

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