測定会と判定
【聖アウグスト皇立魔導武官学園】の大演習場をはじめとした、各施設は、交換留学生たちを迎えた「学園ギフト能力測定会」の熱気と緊張感に包まれていた。
最高責任者として不敵な笑みを浮かべる海流と、その傍らで冷酷な視線を送る星羅。彼らが裏で仕掛けようとしている「人工魔獣テロ」の秒読みが始まる中、着々と全校生徒と留学生たちの実力を測る四つの測定項目が幕を開けた。
第一項目:気流結界
特殊な魔導装置によって構築された、超高密度に圧縮された空間。内部に入ると肉体を押し潰すような「気の重圧」が全方位から襲いかかり、ギフトの根源たる気が弱い者、あるいは制御の甘い者から容赦なく外へと弾き出される。基準は「2分間耐えれば普通」とされる、精神と気の総量を試される過酷な測定。
「ふん、温室育ちの皇国貴族どもに、アカデミーの厳しい環境で練り上げた我が気が耐えられぬはずもないわ!」
デカマギア・アカデミーの4回生代表、エンホウ・ガロウが「烈火の暴風」の気を体表に纏い、猛然と結界内へ足を踏み入れる。凄まじい圧縮の重圧が襲いかかるが、彼は自身の爆発的な気の出力で強引に空間を押し返し、5分半の好記録を叩き出して傲慢に笑った。
一方、1回生クラスの番。
「お兄様、こんな退屈な空間、私たちが本気を出せば一瞬で霧散してしまいますわね」
風花・フォン・アウグストは、兄・焔光の隣でそっと寄り添いながら結界へ入る。彼女が本質に宿す狂信的な「風」の気が周囲をほんの少し歪ませただけで、結界の重圧は彼女の半径1メートルに近寄ることすらできず、涼しい顔で限界時間を悠々と超えてみせた。
「あはは、風花、あんまり気を張りすぎちゃダメだよ」
当の焔光はというと、「気流読み」で結界内の気の流れを完璧に看破していた。彼はわざと、重圧が最も薄くなる「気の隙間(安全地帯)」をシレッと見つけ出し、そこにただ立っているだけで、全く気力を消費することなく「2分13秒」という、実に平凡になるよう帳尻を合わせて結界の外へと力を使い切った演技をしながら、のんびり歩き出てきた。
第二項目:守舞台
結界で区切られた特殊な舞台の上で、一般七属性を模した凶悪な攻撃が等間隔で襲いかかってくるのを、自身のギフトで完全に防ぎ切る。例えば「機」属性なら、虚空から精緻に錬成された物理的な鋼鉄の剣が、超高速で雨あられと飛んでくる。
「私のヴァンダムの誇り、ここで見せますわ!」
1回生のシャーロット・ヴァンダムが舞台の中心に立つ。襲いかかってくるのは、猛烈な「火」の火球と、「風」の真空波。彼女は自身の「木」のギフトを最大に発動し、周囲に大量の鋼鉄と同等の硬度を持つ木の葉を発生させた。
「旋風葉陣!」
舞い散る新緑の刃が高速で旋回し、飛来する物理攻撃や魔法弾をすべて微細に切り刻んで相殺・防御してみせる。完璧な面制圧防衛に、客席からは大きな拍手が湧き起こった。
その様子を不愉快そうに睨みつける星羅の横で、焔光の番となる。
虚空から飛んでくるのは、無数の「機」の魔鋼剣。避ける素振りも見せない焔光に、周囲から悲鳴が上がるが――。
(ええと、攻撃術式がここにあるから……)
焔光は鷹の翼の装飾された短槍を構え、背後に「鷹炎光輪陣」のベクトル反らしの気を極小で発動。トコトコ歩いてるように見せながら、飛来するすべての剣の軌道を「たまたま、ギリギリのところで」わずかに逸らし続けた。
カン、カン、と頼りない音を立てて剣が床に刺さる光景に、観客は「またあのラッキー皇子の強運が発動した!」と拝み始めた。
第三項目:継続当て(けいぞくあて)
一定時間、動き回る魔導の「的」に対して自身のギフトによる攻撃を正確に当て続け、出力の持久力と、寸分の狂いもない精密なコントロール能力を測る。
「大賢の力、とくとご覧なさい」
5回生筆頭の「大賢」エミール・ノエルが、美しいプロポーションを揺らしながら測定に臨む。彼女が指先を向けると、火、水、土、木、風、雷の一般属性が次々と切り替わり、的がどれだけ不規則に動こうとも、天災規模の魔道が一筋のレーザーのように精密に的に着弾し続けた。掲示板のカウントスコアが測定不能の限界値を叩き出し、アカデミー側の留学生たちは恐怖で顔を青くした。
「次は私ですわ。お兄様に、私の成長を見ていただかなくては」
風花が舞台に上がる。彼女の「風の矢」が発動。精密に制御された不可視の風の矢が、同時に十数発放たれ、生き物のように軌道をコントロールしながら動く的のド真ん中を、一秒の狂いもなく正確に撃ち抜き続けた。
対する焔光は、本来なら複数の光弾を精密に射出・軌道コントロールできるチート能力を持つが、ここは「隠蔽スタイル」。彼は石礫程度の威力の小さな光弾を、あえて「数秒に一発」だけ、必死に狙いを定めているようなポーズを演じながら、的にコツコツと当て続けた。スコアは下から数えた方が早いものだったが、彼にとって「目立たない事」こそが最大の成果だった。
第四項目:人形対戦
学園が誇る最新鋭の、硬強な魔鋼で作られた戦闘用ゴーレムと直接対峙し、その動きを完全に止める、あるいは破壊するまでの戦闘能力・応用力を測る最終測定。
「ふん、学園が作ったゴーレムなど、「万象機甲」の敵ではないわ!」
1回生のアカデミー代表、セド・カドスが禍々しい魔導アーマーを駆動させ、腕の魔導砲から超高火力の雷撃を放つ。ドガァァン! と、凄まじい爆発と共に魔鋼ゴーレムの片腕が吹き飛び、その圧倒的な破壊力を見せつけた。
「……私の、お人形の方が、何倍も、強い」
続いて舞台に上がったのは、特別参加のわずか七歳の少女、恵海里だった。彼女は胸元の古びた人形をそっと掲げ、自身の「機」のギフトを発動させる。
カチ、カチ、カチ!
地脈から溢れる霊木と、演習場に転がっていた魔鋼の残骸が恵海里の気の制御によって一瞬で吸い寄せられ、象型の超巨大な木鋼ゴーレムへと瞬時に生成・変形した。
「いけ、エレファン!」
恵海里の操る巨大ゴーレムが、地響きを立てて学園のゴーレムへと突撃し、その強大な足の一撃で学園側のゴーレムを完全にスクラップへと変えてみせた。圧倒的な天才人形師としての才能の顕現に、ノアが「負けてられないです!」と目を輝かせ、シャーロットも優しく微笑んだ。
一方、歩み出た焔光は、鷹の翼の装飾された短槍を構えながら、光弾を展開、走り回りながらゴーレムに光弾を当てるが、全く動きを止めないゴーレム。遂にゴーレムに近づかれゴーレムからパンチが繰り出される、それを短槍で受けるが、衝撃で短槍から手が離れ、クルクルと回転した短槍がゴーレムの膝関節にたまたま刺さった瞬間に光弾が同じ場所に着弾した。バキ!と音がした瞬間にゴーレムが停止したのだった。「いやぁ~ラッキー」と言いながら退場する焔光だった。
海流と星羅は、すべての生徒が体力を消耗し、測定会が最高潮に達したこの瞬間を待っていた。
「くくく、全生徒が疲弊し、油断している今こそ、極上の絶望を味合わせてやる……!」
カイルが最高責任者としての傲慢な笑みを浮かべ、裏で待機する工作員シグネたちへ、人工魔獣を解き放つ合図を送ろうと手を掲げた、まさにその時だった。
演習場の地下から、不気味な地鳴りのような、ドロドロとした最悪の「気」が立ち上り始めた。




