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オールゼロの英傑継承者〜魔導学園で「期待外れ」皇子は、すべてを亜空間で無効化(ミュート)する〜  作者: はる吉
第4章:アカデミー

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策略の黒と白

「――学園ギフト能力測定会、ですか?」

数日後、生徒会室に呼び出された焔光と風花の前に、生徒会長クラリス・ヴァルハイトは、どこか強張った面持ちで立っていた。その手にある書類は、昨日海流(カイル)と星羅(セレナ)から逃げ場のない脅迫と共に突きつけられたものだ。

クラリスは胸の奥をキリキリと痛ませ、焔光の打算のない優しい瞳を直視できないまま、あらかじめ用意していたセリフを絞り出した。

「ええ。今回の測定会は、デカマギア・アカデミーからの交換留学生を迎えて行う、極めて重要な公式行事です。そこで、生徒会としては……皇族の模範、そして次世代の評価を背負う者として、1回生の焔光殿下、ならびに風花様に、当日の会場運営と警備責任者の大任をお願いしたいのです。これは『皇族としての義務』でもありますわ」

その瞬間、風花の美しい瞳が氷のように冷たく据わった。お兄様を利用しようとする実家(ヴァルハイト家)や次男派閥のドロドロとした気の思惑を察知し、その周囲に衣服をズタズタにしかねない暴風の気がピキピキと練り上げられていく。

「……1回生の私たちに責任を押し付けようなんて、随分と面白い冗談を仰るのですね、生徒会長?」

「待ちなさい、風花。クラリス様の言葉にも一理ありますわ」

修羅場の一歩手前で空間を割るようにして現れたのは、特別視察官の正装に身を包んだ第一皇女・紗夜と、学園長オリヴィア(織姫)だった。紗夜の瞳の奥では、『神の天秤(ディバイン・スケール)』による因果予測の光が静かに、しかし全てを見通すように回っている。

「紗夜様、学園長……!」

クラリスの顔から血の気が引く。

紗夜は怯えるクラリスの肩にそっと手を置き、優雅に扇を広げて微笑んだ。

「皇族が責任を果たすのは当然のこと。ですが、いくら優秀とはいえ1回生の二人に全ての責任を負わせるのは、あまりにも酷というもの。そうでしょう、織姫叔母様?」

「ええ、その通りよ」

学園長オリヴィアが、冷徹な戦術眼を秘めた瞳で書類を一瞥する。学園長の【風】の気配察知は、カイルたちが裏で仕掛けようとしている「人工魔獣テロ」の悪質な気流を、すでに完璧に察知し始めていた。

「ですから、こうしましょう。交換留学生との交流を深める行事なのですから、同じく皇族の血を引き、我が学園に転入してきた5回生の海流(カイル)と、1回生の星羅(セレナ)の二人も、この警備・運営組織に一緒に入れなさい」

「え……?」

クラリスが呆然と声を漏らす。

オリヴィアはフッと不敵な笑みを浮かべ、決定的な言葉を告げた。

「当然、最年長であり、次男家の次世代筆頭を自称する5回生の海流(カイル)を『最高責任者』として実施させます。焔光と風花は、その下で補佐として動けば十分でしょう。皇族の義務と言うのであれば、カイルも断る理由は無いはずよ」

それは、次男派閥が仕掛けようとした罠を、そのまま「責任の丸投げ」という形でカイルの首元へと突き返す、完璧なカウンターだった。何か問題(テロ)が起きれば、すべての責任は最高責任者であるカイルに突き刺さる。

「では、そのように書類を書き換えなさい、クラリス」

紗夜の優しい、しかし逃げ場のない声に、クラリスは深く息を吐き出し、胸のつかえが取れたように「……はい、かしこまりましたわ」と頭を垂れた。

カイルたちの脅迫と、焔光への罪悪感の狭間で激しく揺れ動いていたクラリスは、最高責任者がカイルにすり替わったことで、最悪の破滅(焔光の一方的な失脚)だけは免れたのだと、胸の奥で少しだけホッと安堵するのだった。

当の焔光は、足元でセンが『キュイン♪』と呑気に鳴くのを眺めながら、短槍を肩に担いで「カイル兄様が最高責任者なら、僕はサボってても大丈夫そうだね」と、シレッと普段通りの呑気な笑みを浮かべていた。


「――何だと!? 俺が、能力測定会の最高責任者だ、と!?」

生徒会室から戻ったクラリス・ヴァルハイトがもたらした決定事項を聞いた瞬間、海流(カイル)・フォン・アウグストは、端正な顔を激しい怒りと焦燥で歪ませ、机を凄まじい力で叩きつけた。彼の【火】のギフトが感情に呼応して暴発しかけ、室内の空気が一瞬にして焦げ付いたような熱を帯びる。

「どういうことだ、クラリス! 貴様、俺たちの脅迫を無視して、あの出来損ない(焔光)の肩を持ったのか!?」

「ち、違います、カイル様……!」

カイルの背後に控える専属執事クライド・バロウが、ランバルト仕込みの『嵐』の気の圧をじりじりと膨らませてクラリスを威圧する。その冷酷な視線に、クラリスは恐怖で身体を震わせながらも、必死に弁明の言葉を口にした。

「紗夜様と学園長が直接、生徒会室へ介入して来られたのです……! 皇族の義務を名目にするならば、最上級生であり次男家の筆頭であるカイル様が指揮を執るのが筋だと。あのお二人の決定を覆す権限など、私にはありませんわ……!」

「チッ……、あの女狐どもめ……!」

カイルは忌々しげに髪をかきむしった。

本来の計画では、警備責任者の座を焔光と風花に押し付け、裏で「人工魔獣テロ」を起こして二人を無様に失脚させるはずだった。しかし、自分が最高責任者になってしまえば、テロが起きた際の「警備不備」の全責任は、カイル自身に真っ直ぐ突き刺さることになる。

「お兄様、落ち着きになって」

激昂するカイルの隣で、ソファに優雅に腰掛けたまま、1回生の星羅(セレナ)が冷徹な手つきで紅茶を口に運んでいた。そのエメラルド格調の瞳には、カイルのような短気な焦りはなく、むしろどこか楽しげな毒が宿っている。

「最高責任者の座を押し付けられたからといって、今更引き下がるわけにはいかないでしょう? 皇立学園の全貴族や、財閥の監視役であるシグネたちが、お兄様の『器』を見定めているのです。ここで『責任が重いからやめる』などと弱音を吐けば、それこそ次世代筆頭の座は失墜しますわ」

「……分かっている! だが、これではテロが起きた時に、俺の責任に――」

「逆にとらえれば、これは好機ですわ」

セレナは不敵な笑みを浮かべ、薄紅色の唇を吊り上げた。

「テロが起きた際、お兄様の指揮のもとで我がアカデミーの精鋭たちが迅速に魔獣を鎮圧し、逆に警備補佐である焔光と風花が恐怖で何も出来ずに醜態を晒した……というシナリオに書き換えれば良いだけのこと。そうすれば、お兄様の評価は『危機を救った英雄』として跳ね上がり、三男家は『役立たず』として完全に失脚します」

セレナの狡猾な盤面の書き換えに、カイルはハッと目を見開いた。

「……なるほど。事前に魔獣の出現位置とタイミングが分かっているのは、俺たちだけだからな。俺たちの手でマッチポンプを完璧に演じ切ればいいわけか」

「ええ。それに、あの双子(リン、レン)の色仕掛けは不発に終わったようですが……、あの期待外れ皇子が、センとかいう魔獣の結界に依存しているだけの無能であることは確認できましたわ。測定会当日、徹底的にあの男の『本質』を暴き、絶望を教えてあげましょう」

セレナは、自分の張り巡らせた蜘蛛の巣に獲物が嵌まる瞬間を想像し、愉悦に瞳を細めた。

引き下がる選択肢を完全に絶たれ、傲慢なプライドと焦燥の狭間で「英雄の座」への野心を膨らませるカイル。そして、裏で糸を引くシェイラの操り人形として冷酷に微笑むセレナ。

二人の思惑を乗せたまま、学園ギフト能力測定会という名の「破滅の罠」は、着々とその幕を開けようとしていた。

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