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オールゼロの英傑継承者〜魔導学園で「期待外れ」皇子は、すべてを亜空間で無効化(ミュート)する〜  作者: はる吉
第4章:アカデミー

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来訪と解放

【聖アウグスト皇立魔導武官学園】の白亜の正門前には、普段の厳格な空気を覆い隠すほどの、張り詰めた緊張感が漂っていた。

武術大会での敗北を経て、メディチス財閥の私立「デカマギア・アカデミー」から、皇立学園へ「交換留学生」が到着したのだ。その引率として馬車から降り立ったのは、失脚した皇族次男・烈真の妻であるシェイラ・フォン・アウグストだった。

彼女が引き連れてきた留学生の顔ぶれは、極めて歪で、かつ明確な敵意に満ちていた。

烈真の長男であり、烈真派閥の次世代筆頭である5回生の海流(カイル)。

その妹であり、長女の1回生の星羅(セレナ)。

武術大会でレイハルトを破った6回生代表、シンイー・ルオ。

4回生代表のエンホウ・ガロウ。2回生代表のゴウラン・バザル。

そして、3回生の姿はなく、1回生にもう一人、万象機甲を操るセド・カドス。

さらに彼らの影には、専属執事クライド・バロウ(5回生)彼は、かつて四大英傑候補になった、エイシン国最強の武人ランバルトの直弟子でもある。そして、衣装に鉄球を忍ばせる「筆頭侍女」シグネ・ヴァルア(5回生)、さらに双子の少女、リン・メイフォン&レン・メイフォン(1回生)が、冷徹な目を光らせて控えていた。

「――お母様……」

学園の出迎えの列の最前列、焔光の隣にいた七歳の少女・恵海里(エミリ)が、シェイラの姿を見た瞬間、小さな身体をビクリと強張らせた。胸元のからくり人形をぎゅっと抱きしめるその表情は、困惑と、実の母親に対する深い恐怖に染まっている。メディチス財閥の闇に怯え、家の不穏な空気に恐怖していた恵海里(エミリ)にとって、シェイラは恐怖の象徴そのものになっていた。

その恵海里(エミリ)の前に、焔光がシレッと一歩踏み出し、その小さな身体を庇うようにして視線を遮った。足元では聖獣・仙(せん)が、亜空間の隙間から「グルル……」と低く不気味な警告の気を漏らしている。

「あらあら、恵海里(エミリ)。随分と皇立学園に馴染んでいるようですわね」

シェイラが妖艶な笑みを浮かべて近づこうとした、その時。

「そこまでにしなさい、シェイラ。ここは我が学園の敷地内よ」

凛とした、しかし全貴族を畏怖させる絶対的な威厳を伴った声が響いた。学園長オリヴィア(織姫)が、その美麗な容姿の裏に強大な【風】のギフトの圧を潜ませて立ちはだかる。さらにその隣には、臨時の皇室顧問(特別視察官)として学園に乗り込んできた、第一皇女・紗夜が、優雅に扇を広げて微笑んでいた。織姫が挨拶する。

「デカマギア・アカデミーの皆様。交換留学は両学校の技術発展のためのもの。もし学園内で不穏な動きを見せ、問題を起こすようなことがあれば……我が学園の名に懸けて、即座に身柄を拘束し、問題次第では、宮廷府に引き渡し地下監獄へ送られる事も有りえますわ」

オリヴィアの言葉に、「風」の気配察知術式が学園全域を覆うように働き、留学生たちの背筋を凍らせる。

「ふふ、学園長のおっしゃる通りです。私の「神の天秤(ディバイン・スケール)」は、どのような小さな嘘や企みも、数分先の因果として完璧に予測いたしますの。メディチス財閥への国家正式調査も始まっている折、皆様、どうか賢明な判断をなさってくださいね?」

紗夜の美しい瞳の奥で、超高密度の因果予測の光が静かに収束する。その絶対的な威圧の前に、海流(カイル)や星羅(セレナ)は歯噛みし、シェイラもまた引きつった笑みを浮かべて一歩退くしかなかった。


交換留学生の到着から翌日。

学園の生徒会室へと続く、薄暗い北回廊。

「――クラリス・ヴァルハイト。少々、お話をよろしいかしら?」

現生徒会長である5回生のクラリス・ヴァルハイトの前に、海流(カイル)と星羅(セレナ)が、専属執事クライドを伴って姿を現した。

「カイル殿下、セレナ殿下……。生徒会へ何かご用ですか?」

クラリスは内心の動揺を隠し、凛とした態度で応じる。だが、実家のヴァルハイト家が烈真派閥に深く傾倒し、失脚したアルベールを溺愛する義母エレノアからの重圧に悩まされている彼女にとって、この二人の接近は不吉でしかなかった。

「簡単な要求だよ、クラリス」

海流(カイル)が、クライドの放つ「嵐」の凶悪な気の威圧を背景に、冷酷な書状を突きつけた。そこには、ヴァルハイト家の当主ゲオルグの署名が入った、メディチス財閥への「完全な協力」を命じる文面が記されていた。

「次回の学園公式行事である「学園ギフト能力測定会」の運営、および警備の最高責任者に、皇族である焔光と風花の二人を強引に指名しなさい。生徒会長の権限を使えば、容易いことだろう?」

星羅(セレナ)が、狡猾な瞳を輝かせて囁く。

「なっ……!? 1回生の二人に、測定会の警備責任者を任せるなど、前代未聞ですわ! 理由が立ちません!」

「理由は「皇族としての義務」とでも言っておけばいいわ。それにね、クラリス……。あの「大賢」ノエル様が、なぜあのような「期待外れ」の無能皇子を溺愛しているか、気に入らないのでしょう? あの男さえ失脚すれば、ノエル様の眼も覚めるというものよ」

星羅(セレナ)の言葉は、クラリスが胸の奥に秘めていた嫉妬心と独占欲を正確に突き刺した。

メディチス側の真の計画は、裏で人工的に発生させた「魔獣テロ」を引き起こし、そのすべての責任を運営責任者である焔光と風花に押し付けること。蒼真家の次世代の評価を失墜させると同時に、混乱の中で焔光の隠された真の能力(ギフトの本質)を強制的に暴き、引きずり出すという卑劣な陰謀だった。

「ヴァルハイトの道具として、実家の命令に従うか……それとも、実家もろとも、ここで全てを失うか。選びなさい、クラリス」

カイルの冷徹な脅迫に、クラリスは唇を噛み締め、絶望の中で頷くしかなかった。

しかし、その胸の奥では、焔光が自分を「ヴァルハイトの道具」ではなく「クラリス個人」として見つめてくれた、あの優しい器の大きさが思い返され、激しい罪悪感と小さな疼きが、彼女の心を狂わせそうになっていた。


また、別の日。

学園の裏手にある、静かな新緑の並木道。

「あの……焔光殿下、でしょうか……?」

のんびりと歩いていた焔光の前に、二人の少女が、怯えたように肩を寄せ合って立ちはだかった。

交換留学生としてやってきた1回生の双子、リン・メイフォンとレン・メイフォンだった。

「ええと、デカマギアの留学生で、星羅(セレナ)の侍女の……リンさんと、レンさん、だよね? どうしたの?」

焔光がいつものように気の抜けた声で尋ねると、双子はボロボロと大粒の涙を流し、その場に崩れ落ちるようにしてひれ伏した。

「お、お願いです、助けてください……! 私たち、実家をメディチス財閥に人質にとられて、無理やり学園へ送り込まれたのです……!」

「カイル殿下やセレナ殿下に、焔光殿下を騙して陥れろと命令されて……でも、私たち、そんな恐ろしいこと出来ません……! 逆らえば、故郷の家族が皆殺しにされてしまうのです……!」

涙ながらに、身を震わせて悲劇のヒロインを演じる双子。

これこそが、シェイラとメディチスが仕掛けたもう一つの罠――「財閥に脅されている哀れな被害者」を演じて焔光の懐に飛び込み、色仕掛けによって彼を完全に籠絡し、裏の情報を引き出すか、あるいは籠絡するためのハニートラップだった。

双子は、衣服の胸元をわざと大きくはだけさせ、艶めかしい視線で焔光の腕にすがりつこうと、じりじりと距離を詰めていく。リンの「水」とレンの「火」のギフトが裏で微細に練り上げられ、相手を軽いトランス状態に陥れる「高熱の魅了毒霧」が、誰にも見えない薄い陽炎となって放たれようとしていた。

だが――。

(……うぅわぁ、気の流れがドロドロだなぁ。嘘のつき方が、メディチスの大人のそれと全く同じだ)

焔光の「気流読み」は、二人の体内で練り上げられている邪悪な殺意と、ハニートラップ用の魔力の気流を、最初から完璧に看破していた。

「そっか、それは大変だね。でも――」

焔光がシレッと手をかざした、その瞬間だった。

「キュイィィィィンッ!!!!」

空間の隙間から、まるで臨界点を突破した天災のような鳴き声と共に、真っ白なモフモフの塊――聖獣・仙(せん)が、物凄い勢いで飛び出してきた。

センは、焔光に色仕掛けを仕掛けようとしていた双子の顔面の目の前に、突如として超高密度の「亜空間結界」をベタッと展開した。

「ひゃうんっ!?」

「な、なにこれぇっ!?」

双子が放とうとしていた「高熱の魅了毒霧」の術式は、センの展開した絶対防御結界に触れた瞬間、吸い込まれ、焔光がシレッと展開した亜空間から、そのまま出力し強制反転させられた形となる。

自分たちが放った魅了の毒霧と、センが嫌がらせで成形した無数の「星形光弾」が、双子の顔面へとコツン、コツン、と容赦なく叩き込まれた。

「あ、熱っ!? なんで私たちの術が跳ね返って――」

「顔が、顔が星形で痛いっ!? ひえぇぇぇんっ!!」

自分たちの術の暴発と星形光弾の連続ヒットにより、双子は色仕掛けどころか、顔面を真っ赤にして涙目になり、髪をクシャクシャに乱してその場に転がった。

「ありゃあ、大変だ。僕の聖獣が、君たちの悲しいお話に涙して結界を出したら、君たちの魔力が暴発しちゃったみたいだね。ゴメンね。大丈夫かな?今度は紗夜叔母様(おねえさま)に相談しよう。そうだ、お近づきの印に、シャーロットさんから貰ったお菓子でもあげるから、元気出してね」

焔光は打算のまったくない「心配そうな顔」で微笑みかけ、トコトコと去っていった。

床に転がったままのリンとレンは、焔光のあまりの「打算のなさ(と、シレッと仕掛けられた完璧な無力化)」の器の大きさに、恐怖を通り越して、胸の奥がじんわりと別の意味で疼き始めるのを覚え、呆然とその後ろ姿を見送るしかなかった。

交換留学生という、アカデミーからの新たな毒牙。しかし、そのすべての陰謀の気流は、平凡な「ラッキーぷりんす」の枠の中で、シレッと無へと還されていくのだった。

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