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オールゼロの英傑継承者〜魔導学園で「期待外れ」皇子は、すべてを亜空間で無効化(ミュート)する〜  作者: はる吉
第4章:アカデミー

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学園、各々とほのぼの

ここは、かつてない熱量と不穏な気配に包まれている、「聖アウグスト皇立魔導武官学園」の白亜の校舎。

東方領や聖域での公務を終えた、焔光(こうえん)・フォン・アウグストが、ついに学園へと帰還する。その一報が駆け巡った瞬間、学園に居残っていた者たちの歯車が一斉に、そして爆発的に回り始めた。


「お兄ちゃんが……お兄ちゃんが、やっと帰ってくる……!」

一回生の女子寮の一室で、風花(ふうか)は拳を握りしめ、目を爛々と輝かせていた。

聖域への旅路に自分だけ同行できなかった寂しさ(ストレス)は、すでに臨界点を遥かに突破している。

「公務で疲れたお兄ちゃんを癒すのは、留守を任された私の当然の義務だわ。師匠や泥棒猫達に奪われる訳には行かない。お兄ちゃんの隣は私が死守するんだから……フンス!」

風花の背後から、膨大な「風」と「無」の気が暴風となって噴き出し、部屋のカーテンを激しくなびかせていた。

同じ頃、5回生奥の教室では、「大賢」エミール・ノエルが、豊満に実らせた胸と共に、妖艶な笑みを浮かべていた。

「ふふ……焔光くん、やっと戻ってくるのね。もう、どれだけ待たせるのかしら。寂しくて死んじゃうところだったわ。……学園での焔光くんの甘やかし役は、この私の特権なんだから。焔光くんに怪我がないかチェックして…公務でストレスたまってないかチェックして…気の流れをチェックして…」

彼女の胸の成長と共に、焔光への恋心も完全にカンストしている彼女の焔光独占チェック計画案は続く、手元の書類を放り出し、今すぐにでも港へ飛び出していきそうな勢いで、そわそわと美しい指先を震わせていた。

一方、一回生のクラスでは、シャーロット・ヴァンダムが顔を真っ赤にして、熱烈な歓迎プロットがびっしりと書かれたメモ帳を爆発的な妄想と共に練り直していた。

メディチス財閥の一部失脚により、実家からの「皇子を籠絡せよ」という打算のプレッシャーから解放された彼女は、今や純度100%の「ガチ恋乙女」。

「挨拶は……そう、お帰りなさいませ、焔光様! で、手を握って……いえ、そんなの恥ずかしすぎますわ! でも、少しでも距離を縮めるチャンスなのよ。そうだ。ヴァンダム商会がお役に立てているか会話を振ろうかしら、私だけの特権だし…うかうかしてると、あの恐ろしい風花様や大賢様にチャンスを消されてしまうわ……ひえっ!」

妄想の途中で風花やノエルのガチな威圧を思い出し、ガタガタと震えながらも、ライトグリーンの髪から新緑のような爽やかな香りを漂わせ、そわそわと時計を見つめるのだった。

校門の前では、焔光の帰還をいち早く察知した専属侍女のミーナと、専属執事の孔明(こうめい)が姿勢を正して待機していた。

ミーナは「木」の生命力を身体強化に転化させ、いつでも主の荷物を一瞬で運び、有象無象の接近を物理的に阻止できるよう完璧なメイドの構えを見せている。

その隣で、孔明は焔光からコソッとプレゼントされた「無音の腕輪」を愛おしげになぞっていた。

(日頃の感謝、と主は仰られた。期待外れと蔑まれようとも、あの圧倒的な器と優しさ……やはり私の命を捧げるべきお方は、焔光様、貴方しかおられない)

孔明の忠誠度はすでに限界を突破し、影に潜む隠遁術の気配を極限まで鋭く凪がせていた。

そんな彼らの少し後ろで、剣聖の一番弟子である四回生の一ノ瀬蓮(れん)が、愛刀の柄に手をかけて神速の気をピリピリと放っていた。

「焔光の弟弟子が、聖域で本家の親父(迅徹)に鍛えられたに違いない。一ノ瀬の剣技に磨きがかかったはず……。戻ったらすぐにでも、俺の「光と風」の神速の剣技で手合わせを願いたいものだな」

戦いたくてウズウズしている蓮の隣で、鍛神の弟子であるノア・メイリンが、ツインおだんご頭を揺らしながら、改造した制服のポケットから魔鋼製のミニゴーレムを取り出して弄んでいた。

「蓮さん、焔光の兄様に無理言って、あんまり困らせちゃダメだぞ!ああ、早く「焔光の兄様」に会って、この特製のゴーレムを見てもらいたいなぁ」

ノアは活動的な琥珀色の瞳を輝かせ、誰よりも純粋に焔光の帰還を心待ちにしていた。

中庭のベンチでは、西辺境伯家の最年少精鋭隠密、フォックス・シルフィードが、癖のある金茶色の髪をかき上げながら、不真面目なチャラ男の笑みを浮かべていた。

「やれやれ、従兄弟(焔光)殿がやっと戻るか。あいつ、座学は完璧なのにギフトが石礫程度だから、学園の上級生たちにまた舐められちまう。俺が裏で「風の糸」を張り巡らせて、チャラっと盾になって守ってやらねぇとな!」

焔光の真の実力(世界最強チート)を一切知らないフォックスは、持ち前の兄貴肌で、今回もやる気満々で護衛の算段を立てている。

その隣で、商会のエリート狡猾少年、ギルバート・ケッセルが、最新鋭の蜘蛛型からくり人形の関節をカチカチと調整しながら冷ややかな目を向けていた。

「フォックス、あんまり無茶をしてお嬢様(シャーロット)の邪魔をするなよ。僕の任務は、お嬢様が焔光殿下に無事にお近づきになる事……まあ、お嬢様がただのガチ恋ポエム乙女になってる時点で、計画も何もないんだけどね」

二人は息の合った犬猿のコンビらしく、文句を言い合いながらも、焔光の周囲に害をなそうとするアズラエル派閥の上級生等がいないか、鋭く視線を光らせていた。

そして、学園の広場では、最もおかしな変化が起きていた。

「皆の者、集え! 我らが「ラッキーぷりんす」、幸運の奇跡を操る焔光殿下が間もなく帰還されるぞ〜!」

風花様親衛隊(非公認)の面々が、生存本能による「命がけの勘違い」の末、焔光を至高の兄君、あるいは歩くパワースポットとして過剰な崇拝は、静まる事なく、順調に?高まっていた。

「焔光殿下を拝むと、不思議と運が良くなり戦場を生き抜けるらしい! さあ、歓迎の準備……極上の貢物を用意するんだ!」

「ラッキーぷりんす、万歳!」

広場では、焔光を幸運の神として拝むための怪しげな列ができ始めており、帰還直後に焔光が困惑する未来が確定していた。


学園内が日常と修羅場、そして勘違いの熱量で爆発寸前となる中、正門に向けて、皇国の象徴たる豪華な馬車の列が、厳重な正規騎士団の護衛を伴って威風堂々と進んできていた。

その馬車から降り立ったのは、全貴族・国民から絶大な人気を誇る、皇国第一皇女――紗夜(さよ)・フォン・アウグスト(22歳)であった。

筆頭分家である竜王家との強力なパイプを持ち、非常に高い知性と、見る者を平伏させる気品あふれる美貌を持つ才女。彼女は、未婚のまま、甥である焔光と姪である風花を実の子のように深く愛している。

そして、彼女は自身のギフト「無(因果予測・神託)」によって、焔光が「出来損ない」などではなく、規格外のチート能力を秘めていることを完璧に見抜いている人物でもある。

「――ごきげんよう、皆様」

紗夜が馬車から一歩踏み出すと、周囲の空気が一瞬にして皇族の絶対的な気品によって支配された。

シェイラにより、海流(カイル)や星羅(セレナ)、そしてメディチス財閥が中央での烈真の失脚を受けて学園の焔光や風花を狙って不穏な動きを見せ、「デカマギア・アカデミー」という罠を仕掛けてきた。その報告を受け彼女は、愛する子供たちを守るため、自ら「学園の特別視察官(臨日の皇室顧問)」という絶対的な権限を引っ提げて、この学園へ乗り込んできたのだ。

「お久しぶりね、オリヴィア(織姫)叔母様。エドガー先生も、お変わりなくて何よりだわ」

出迎えた学園長・織姫と、頭を抱えるエドガーに対し、紗夜は不敵に、そして美しく微笑んだ。

「烈真兄様派閥の残党、隣国の狐たちも一緒に学園で不穏な動きを画策してると聞きました。皇室顧問として、これより私が直接、この学園の風通しを良く(査察)させていただきますわ。……それと、可愛い焔光と風花にも、早く会いたくてたまらないの」

紗夜が「特別視察官」として学園に現れたことにより、シェイラの交換留学という名の焔光への計画は、一気に行動を制限されることとなる。

同時に、生徒会室から飛び出してきた大賢ノエルと、紗夜の視線がぶつかり合った。

「あら、紗夜殿下、学園の査察、ご苦労様です。でも、焔光くんのお世話は、五回生の私が完璧に行っていますので、ご心配なく。」

「ふふ、エミール(ノエル)。貴女がうちの可愛い焔光に、少し「過保護」が過ぎるのではないかと心配で来てあげたのよ?」

「……チッ」

紗夜が微笑を浮かべるなか、

「紗夜叔母様(おばさま)。いらっしゃい。」風花が紗夜に挨拶する。

「風花。私が来た限り2人と学園は私と織姫叔母上(おばうえ)で守るわ。」

愛と打算、勘違いの崇拝、そして隣国エイシン国の冷酷な謀略が複雑に絡み合う学園の正門へ、「カタナ」と「次元刀」と言う新たな力を手に入れ、亜空間にモフモフの新相棒「セン」を潜ませた焔光を乗せた馬車が、今、静かに到着するのだった。

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