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オールゼロの英傑継承者〜魔導学園で「期待外れ」皇子は、すべてを亜空間で無効化(ミュート)する〜  作者: はる吉
第2章:黒耀の影

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ラッキーぷりんすと暴走乙女

黒耀騎士団による「結界なき模擬戦」の劇的な結末から数日。聖アウグスト皇立魔導武官学園の廊下を歩く焔光(こうえん)は、数日前とは明らかに異質な、しかし極めて熱烈な視線の数々に包まれていた。

「——おい、見ろよ。あのお方が……至高の兄君、焔光様だ」

「あの一大決戦の渦中にあって、皇后陛下のスクロール一枚で無傷で生還されるとは、やはりただの強運ではない。神に愛されし奇跡、すなわち「ラッキーぷりんす」の異名は伊達じゃないな……!」

「力無くとも、焔光様を拝めばラッキーパワーで救われると、噂だぞ!」

「静かにしろ! もし焔光様に失礼な口を利いてみろ、あの風花様と大賢ノエル様に、存在ごと風と光の塵にされるぞ!」

すれ違う男子生徒たちが、神を崇めるかのような悲壮なまでの敬意を込めて一礼し、そそくさと退散していく。先の事件の折、生存本能に基づいた「命がけの勘違い」を起こした風花様親衛隊(非公認)の面々は、いまや焔光を「実力を隠した至高の兄君」、又の名を、人知を超えた幸運を操る『ラッキーぷりんす』として過剰に崇拝し始めていた。

(ラッキーぷりんす、って一体誰が言い出したんだろう……。変な注目浴びてるんだけど……いや、無能だと思われていた方が色々とシレッと行動しやすかったんだけどなあ〜、変に敬われるのは本当に苦慮するなぁ……)

焔光が心の中で深い溜息をつきながらいつも通りのシレッとした顔で歩いていると、突風とともに衣服を震わせる凄まじい「気」が背後から迫ってきた。

「お兄ちゃんんんんっ! ほら、今日の購買の特製サンドイッチですわ! 私が風の身体強化で最速で勝ち取って参りました!」

亜麻色の髪を揺らし、琥珀色の瞳を爛々と輝かせた双子の妹、風花(ふうか)が猛烈な勢いで焔光の左腕を抱きしめた。

「ちょっと待って。風花ちゃん! 焔光くんの健康管理は、このお姉さんが至高の治癒術を応用して作った、特製薬膳ハニーサンドでするのです!」

右側から割り込んできたのは、「大賢」のエミール・ノエルだ。焔光を激愛し過ぎる彼女は、右側から焔光の腕を自身の豊満な果実へと引き込む。

「ノエル様! またお兄ちゃんを狙う泥棒猫〜(※世界最強クラス)止めて! 離れてください!」

「あら、これは大賢としての正当な「気の同調管理」よ?至高の治療術なの!」

最強の二人による、焔光を挟んだ壮絶な引っ張り合い。その凄まじい風と光の火花に、廊下のガラス窓がピキピキと音を立てる。

「あ、あの……! 焔光様、風花様、ノエル様……っ」

そこへ、顔を林檎のように真っ赤にした1回生のシャーロット・ヴァンダムが、おずおずと、しかし必死の面持ちで手作りのクッキー缶を差し出してきた。「ヴァンダム新興商会の、新作の試供品でして……っ。もし、もしよろしければ、焔光様に召し上がっていただきたく……っ!」

当初の打算を失い、完全にピュアなガチ恋乙女へと変化したシャーロット。すかさず風花が「フンス! 泥棒猫予備軍がまた!」と鋭い視線を向けるが、シャーロットは「ひぇっ……!」と素の悲鳴を上げつつも、今や焔光への恋心のために一歩も引かない構えを見せていた。焔光はいつも通りの笑顔で「ありがとう、シャーロットさん。後でみんなで食べようね」と受け取り、凄まじい争奪戦の熱量をマイペースに受け流すのだった。


「おいおい、なんだあそこだけ世界の終わりみたいな気の密度は。あの中に放り込まれて平然としてる焔光の奴、実は色んな意味で規格外じゃねぇの?」

中庭の木陰、光の屈折を利用して自身の気配を完全に遮断する無属性ギフト「狐の欺瞞(フォックス・イリュージョン)」を展開しながら、その修羅場を呆れ顔で眺めている男がいた。

この日、特例として17才で有りながら、1回生に転入してきたフォックス・シルフィードである。

癖のある金茶色の髪に、少し吊り上がった琥珀色の瞳。いつも飄々としていて掴みどころがなく、一見すると不真面目なチャラ男。それが彼の表の顔だ。だがその真の正体は、シルフの従兄弟の子である。過去に西辺境伯家を襲った「宗教組織の呪術による全滅危機」で親族が激減したため、当主の弟(故人)の息子(フェルナン・シルフィード)の養子としてシルフィード家に迎えられた、最年少の精鋭隠密であった。

大叔母である学園長・オリヴィア(織姫)と実家からの極秘任務。それは「皇族三男家・蒼真家の希望である風花と、期待外れと噂される焔光の護衛」だ。(叔母様が必死に育てた、ギフトの出力が平凡な可哀想な「期待外れ」と言われている従弟……。あんな美少女怪獣どもに毎日挟まれてりゃ、護衛する前に精神が摩耗しちまうな。よし、ここは兄貴分の俺が、裏表なく大切に扱って、学園の悪い虫から守ってやらねぇとな)

フォックスは冷徹な戦術眼をチャラ男の仮面の裏に隠し、空間に張り巡らせた極限まで細く鋭い「風の糸(ウィンド・ワイヤー)」をじわりと解除した。近づく敵の微細な振動を察知する索敵の糸をいつでも展開できるよう備えつつ、彼はわざとらしく軽い足取りで、修羅場の中心へと歩み出していった。

「よぉ、風花! 久しぶり。それにそっちの可愛いお嬢さんたちも! 俺、今日からこのクラスに転入してきたフォックス・シルフィードってんだ。よろしくな、焔光、なにか 困ったことがあったら、この格好良い兄貴に何でも相談しな!」

ウインクを飛ばしながら飘々と割り込んできたフォックスに、風花は「あ、フォックス義兄様。邪魔ですわ、今お兄ちゃんとお話ししているのですから!」と一蹴する。しかし、フォックスは「手厳しいねぇ!」と笑いながらも、その鋭い瞳で焔光の周囲を冷徹に観察し、いつでも彼の盾となる覚悟を完了させていた。彼が守ろうとしているその従弟が、実は世界最強のチート能力を秘めているとも知らずに。


フォックスの転入に湧く1回生の教室の入り口から、もう一人、冷徹な知性を湛えた少年が音もなく足を踏み入れていた。

ギルバート・ケッセル(15歳)。ヴァンダム新興商会の幹部の子息であり、商会が秘密裏に開発した最新鋭のからくり人形を、自身の「木」と「機」のギフトによる生命力強化で操る、天才人形師だ。

彼がこの学園に送り込まれた真の目的は、シャーロットの「監視」であった。

商会にとって最優先のゴールは、あくまで「シャーロットが皇族の焔光を籠絡し、商会の操り人形にすること」。しかし、メディチス財閥の一部失脚により皇族三男・蒼真家が大勝利を収めた今、商会は方針を転換しつつも、シャーロットが本来の「取り込み(コントロール)」という目的を見失い、ただの純粋なガチ恋に落ちている現状を危惧していた。もし籠絡が不可能であれば、彼女を家に連れ戻し、他の皇室分家への輿入れという保険(スペア)に回す。それがギルバートに課された冷酷な任務だった。

「——やれやれ、お嬢様。ずいぶんと無防備に顔を赤くされている。商会の利益のための策略だというのに、これでは完全に形無しですね」

ギルバートは衣服の裏に忍ばせた、手乗りサイズの精密な魔鋼製のからくり人形の歯車をカチリと動かしながら、シャーロットがガチ恋で使い物にならないのであれば、力尽くで引き離すか。……いや、待て。

(もし、シャーロットお嬢様がこのまま焔光殿下を「結果的に」でもコントロールできる兆しを見せる、あるいは三男・蒼真家との強固なパイプを作れるのであれば……ここで私が手助けをする方が、商会にとって最大の利益(リターン)になる)

ギルバートは一瞬で損得勘定を弾き出すと、眼鏡の位置を指先で直し、不敵な笑みを浮かべた。

「お初にお目にかかります、焔光殿下。私はヴァンダム新興商会のギルバート・ケッセル。シャーロットお嬢様とは幼馴染のようなものでして。」

ギルバートは焔光の前へと進み出ると、完璧な商人の礼を取りながら、背後でオロオロしているシャーロットの背中を、そっと前に押し出した。

「我が商会のシャーロットお嬢様は、少々不器用ですが、焔光殿下を慕う気持ちは本物にございます。彼女の手作りクッキー、ぜひ毎日でも受け取ってやってください。必要であれば、私が二人の仲を「アシスト」させていただきますよ?」

「ちょっと、ギルバート……!?」

シャーロットが顔から火が出るほど赤面して狼狽するが、ギルバートは「二人の間を取り持つ」という極めて打算的なアシストの姿勢を崩さない。

(へぇ……。ヴァンダム新興商会の監視役か。僕を操り人形にしたいみたいだけど、シャーロットさんを都合よく利用して上手く立ち回ろうとしてるんだね)

焔光は、ギルバートの腹の底にある狡猾な企みを、その精密な気の分析から一瞬で見抜いていた。

(まぁ、どんな打算的なアシストをされようとも、僕はただの「期待外れ皇子」を演じつつ、シャーロットさんのクッキーを美味しくいただいて、何か起きたらまたシレッと無かった事にするだけだけどね)

「ギルバートさん、宜しくね。ヴァンダム新興商会には、今後の皇国の為にも躍進期待してるよ。」

「……」なんとも知れない焔光の「気」を感じ取り、ギルバートは困惑気味になるのだった。

狂信的な愛を注ぐ風花、激愛し過ぎる大賢ノエル、純度100%のガチ恋乙女シャーロット。そして、焔光を「期待外れ」と信じて全力で空回り護衛を始めるチャラ男隠密フォックスに、商会の利益のために狡猾に立ち回ろうとする天才人形師ギルバート。

一癖も二重癖もある新たな顔ぶれが揃った学園で、「期待外れ」の規格外チート皇子・焔光の、賑やかな日常(ハメ技舞台)が、戻って来たようだ。

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