闇の暴走と光の制御
2つにわけるのも、なんなんで、少し長いです。
朧と孔明が展開した「外法遮断の特級暗黒結界」の内部は、音も、光も、気配すらも完全に外と遮断された空間と化した。外からはエドガーのトラップ大暴発の黒煙にしか見えず、関係者以外には、この中で一体何が起きているのかを窺い知る術は完全に断たれていた。
隣国の外法呪符を身に宿した烈真と黒耀騎士団の面々は、血管を黒く浮かび上がらせた異形の姿の烈真と黒耀騎士団の面々が、邪気を滾らせて咆哮を上げながら暴れ狂っている。
「がははは! 四大英傑の領域にすら迫るこの力から、煙幕を張って逃げ隠れするつもりか! 無駄だ、この溢れる外法の力の前には、いかなる結界も塵に等しいわ!」ヴァルターが溶岩の気を狂暴に爆ぜさせ、ゲオルグが紫電の茨を蠢かせて暗闇を威嚇する。
だが、その混沌の中心で、焔光は一切の動揺を見せず、至って平然と指を鳴らした。自身の亜空間ギフトの繋がりの一部を応用し、この結界の内部へと「三人の怪物」を音もなく引き寄せた。
空間が微かに歪み、姿を現したのは、当代の力の頂点に君臨する【剣聖】一ノ瀬瞬、【鍛神】千手破岩、そして【大賢】エミール・ノエルの三英傑であった。
「なんだ、焔光。この程度、お前自分だけで片付けるんじゃなかったのか?」
破岩が退屈そうに首の骨を鳴らし、筋骨隆々の腕を組んで烈真たちを見据えた。
「わざわざ俺たちをこの闇の中に引っ張り出すとはな。何か新しい悪巧み(作戦)か?」
瞬も静かに剣の柄に手を置き、愛弟子の意図を先読みするように目を細める。ノエルだけは「焔光くん、私をこんなに近くに呼んでくれるなんて……!❤」と胸をときめかせ、豊満な果実を揺らして熱い視線を送っていた。
焔光は、困ったように眉を下げ頭を掻きながら、シレッと言い放つ。
「いやあ、師匠。あっちの騎士団、人数が多いですし、今回は烈真叔父上の国家反逆に繋がる、隣国の「外法技術の証拠」を確実に残すために、なるべく絶技で消し去ったりせず、死なない一歩手前で生け捕りにしたくて。それだと少し手加減の調整が面倒なのと……何より「世間からは平凡を装え」というのが、師匠たちの容赦ない仰せだったじゃないですか」
「ふっ、お前が平凡を装うために、俺たちに手柄を押し付けようってわけか」
瞬の口元が微かに吊り上がる。
焔光はいたずらっぽく微笑み、
「そういうことです。この外法の黒耀騎士団を完膚なきまでに討伐したのは、たまたま学園に立ち会っていた「三英傑がやった」ということにさせてください。……ノエル様、戦闘中、申し訳ないのですが、僕たちが倒した騎士たちを、その至高の光で呪いから清めつつ、死亡手前のギリギリのラインで命だけは取り留めるように、随時回復と浄化をお願いできますか?」
その言葉に、三英傑はそれぞれ呆れたような、しかし深く満足したような笑みを浮かべ、言葉を返した。
「ガハハ! なるほどな! 自分は平凡を装ったまま、泥仕事と美味しい手柄は全部俺たちに押し付けると。相変わらずお前は、俺たちの力を都合良く使うのが上手ぇなぁ、焔光!」
破岩が豪快に笑い、その「機」と「無(次元干渉)」の気を膨らませる。
「……ふっ、良いだろう。出来損ないの皇子という仮面を守るためだ、我らの名をいくらでも使うがいい。瞬き一つの間に、あの異形の群れを「寸止め」で切り刻んでやろう」
瞬が静かに剣を抜き放つ。その刃から放たれるのは、一般属性を極限まで乗せた前線最強の戦士の威圧だ。
「もう、焔光くんの頼みなら、どんなことでもお安い御用よ!」
ノエルは頬を薔薇色に染め、豊満な胸を弾ませながら快諾し、その膨大な光の気が闇の中で静かに脈動し始めた。
焔光は微笑み、鷹の翼が装飾された短槍を亜空間から静かに手元へと呼び出した。
「ありがとうございます。……それじゃあ、ゲオルグとヴァルターの気の出力が少しだけ他より高くて迷惑ですので、僕はそちらの二人を片付けたら、すぐにお父様(蒼真)たちの加勢に向かいます!残りの団員たちは、師匠方、適当にお願いしますね」
焔光が言い切ると同時に、彼の身体が神速の歩法によって闇の中へと溶けるように消え去った。
「ガハハ! よし、行くぞ瞬! 錆びついたプロの騎士どもに、本物の英傑の格って奴を教えてやろうじゃねぇか!」
破岩の豪快な咆哮とともに、暗闇の内部で、世界最強の怪物たちによる蹂躙劇の幕が上がった。
「う、うおぉおおおおッ!? なんだ、この気は……!? なぜ、英傑たちがここにいる!?」
破岩と瞬の圧倒的な神威に、外法で理性を失いかけていた黒耀騎士団の団員たちが、恐怖の悲鳴を上げた。
「莫迦な、結界の外のはず…」
「おいおい、自分達が閉じ込められたほうだってのがまだ分かってねぇようだな!」
「まあ、いいや——散れ、外法の家畜ども」
剣聖、一ノ瀬瞬が静かに呟いた瞬間、暗闇の中で無数の「属性を宿した剣閃」が爆発的に弾けた。
呪符によって異形化し、四大英傑並みの気を手に入れたと錯覚していた黒耀騎士団の団員たち。しかし、本物の英傑の領域は、そんな付け焼き刃の呪いなどで届く場所ではなかった。
瞬の放つ「火」「雷」風」を乗せた一太刀が、空間ごと騎士たちの頑強な肉体を切り刻む。しかし、その斬撃は驚異的な精密さで「急所」だけを完全に外していた。
「オラァッ! 次元ごと 圧し潰されろ!」
破岩の「鍛神」の力が連動する。魔鋼で気流を読み、騎士たちの歪んだギフトを完全に無効化しながら、次元の隙間へと彼らの四肢を叩きつけて骨を粉砕していく。
「すべてを清め、癒やし給え——」
二人の圧倒的な暴力のすぐ後ろで、大賢ノエルの至高の光が舞った。瞬と破岩によってボロボロにされ、肉体を裂かれた騎士たちの元へと光が降り注ぐ。
その光は、騎士たちの体内に巣食う隣国の禍々しい呪符の穢れを完璧に「清め(浄化)」ながら、同時に彼らの千切れた部位や致死の傷を、文字通り「死なない一歩手前の状態」でピタリと修復し、気絶させていった。
英傑三人による、一切の無駄がない蹂躙が始まる。
その乱戦の最中、異形の大男へと変貌し、黒い溶岩の気を狂暴に滾らせていたヴァルター。そして、全身から数万ボルトの紫電を狂ったように放ちながら、盲目的に暴れ回る戦闘狂ゲオルグ。
二人の最高出力の攻撃が空間を埋め尽くそうとしていたが、二人の前に、焔光が音もなく現れた。
焔光の手には、いつの間にか、鷹の翼の装飾が施された美しい「短槍」が握られていた。剣聖の一ノ瀬瞬直伝、そして焔光が使うことで四大英傑以上の領域へと達する「絶技」の具現だ。
「——ゲオルグさん。貴方の「迅雷の茨」、気流の読み方が、破岩師匠に比べたら雑なんだよね」
「なっ……!?」
ゲオルグが振り返るより早く、焔光の放った精密な光弾の雨が、彼の放っていた紫電の茨の「気の結節点」を寸分の狂いもなく正確に撃ち抜いた。
バチンッ! と気の流れが強制的に遮断され、ゲオルグのギフトが霧散する。
「ば、馬鹿な……僕の電撃が、完全に消され——」
ゲオルグの驚愕の言葉は、最後まで続かなかった。
焔光の短槍の柄が、ゲオルグの胸元へと超高速で叩き込まれたのだ。剣聖の剣技を完璧に乗せた一撃。ドゴォッ!! と重低音が響き、異形化していたゲオルグの巨体が、その一撃の衝撃だけで完全に気の供給を絶たれ、白目を剥いて地面へと崩れ落ちた。
間髪入れずに、焔光はもう一人の主力、ヴァルター・アズラエルへと視線を向けた。
「次、ヴァルターさん。……剣聖の弟子をナメないでほしいな」
「クソ餓鬼があああああッ!!」
ヴァルターはゲオルグが一瞬で沈んだことに狂乱し、周囲の空間ごとすべてを溶かし尽くさんとする超高熱の土石流「溶爆城壁」を全方位に向け最大出力て大爆発させた。
超高熱の土石流が焔光へと迫る。
しかし、焔光は短槍を軽く一振りした。
「光弾——黒孔弾」
焔光の放った数発の光弾が、空中で歪み、小さな漆黒の球体——勇帝(黎真)と同じギフト「無」のブラックホールへと変化した。
その極小の重力の渦は、ヴァルターが全生命力をかけて放った猛烈な溶岩の津波を、触れた瞬間に、跡形もなく亜空間へと超圧縮して完全に吸い込み、消し去ってしまったのだ。
「ひ……う、嘘だ……! 勇帝の、ブラックホール……!? なぜお前がそれを作れるゥウウッ!?」
ヴァルターが絶望の悲鳴を上げる。だが、その顔面に、焔光の短槍の柄が容赦なく叩き込まれた。
ズガァンッ!! と脳を揺らされたヴァルターは、かつて剣聖に敗れた時以上の、圧倒的な絶望をその魂に刻み込まれながら、崩れるように意識を失って昏倒した。
「よし、二人は片付いたね。ノエル様、後はお任せします!」
「ええ、任せて、焔光くん!」
気絶した二人の元へノエルの至高の浄化の光が降り注ぐのを確認し、焔光は短槍を亜空間へと格納すると、七色の熱線を放ち続けている烈真の正面へと向かって、瞬時に転移した。
暗黒結界の最深部。そこでは、三男・蒼真と妻のシルフが、決死の面持ちで烈真の猛攻を受け止めていた。
「ハハハハハ! 死ね、死ね、蒼真! お前さえいなければ、三男家さえいなければ、我が皇国の頂点に立てたのだァアアッ!!」
烈真の全身からは、火、水、土、木、風、雷のすべてを歪に融合させた、禍々しい七色の熱線が、間断なく放たれていた。肉体に埋め込まれた隣国の外法技術と、胸に貼り付けた「身体強化用の外法の呪符」が、彼の理性を完全に焼き尽くし、ただの破壊の怪物へと変えさせている。
「くっ……! なんという異常な気の総量だ……!」
蒼真は歯を食いしばり、シルフとともに「風神の加護」の暴風障壁を全力で維持していた。シルフの西辺境伯家の風の力と共鳴し、本来なら烈真のいかなる電撃や魔導兵器をも防ぐ鉄壁の障壁。だが、外法の呪符によって限界を超えて跳ね上がった烈真の「外法工廠」の連射力の前に、その暴風の壁にはジワジワと亀裂が入り始め、徐々に押し込まれ、シルフの美しい顔にも、多大な負荷による疲労の汗が滲む。
「蒼真様……! このままでは、障壁が保ちません……!」
「分かっている、だが引くわけにはいかない! 後ろには皇帝と子供たちがいるんだ!」
蒼真が悲壮な決意を固め、気のすべてを風の壁へと注ぎ込こんで行く。
「がははは! 持ちこたえられまい、蒼真! お前たちの綺麗な風など、我が外法の炎で焼き尽くしてくれるわ!」
烈真が勝ち誇り、さらに熱線の出力を上げようとした、その瞬間。
「——お父様、お母様。そのまま、その風神の加護を維持してください」
二人の背後から、至って緊張感のない、しかし底知れない安心感を伴った少年の声が響いた。
シレッと現れた焔光は、懐から「古ぼけた魔法スクロール」をわざとらしく取り出し、蒼真たちの目の前に掲げて見せた。
「今から、お祖母様(皇后ベアトリス)から賜った、この特別な防御スクロールの力でお父様たちの防御を強化します。大丈夫、絶対に防げますから」
(……さて、ここからは僕の絶技、光の亜空間を使った「絶対防御障壁」の出番だ。お父様の風神の加護の気流を精密に読み取り、その暴風の網目に、僕の攻撃吸収の次元の隙間を完璧に溶け込ませて…リンクさせる……!)
焔光の瞳の奥が、神の如き精密な制御能力によって煌めいた。
彼が施した、亜空間へ攻撃エネルギーそのものを吸収させ無に還す無敵の障壁。それが、蒼真とシルフの展開していた「風神の加護」の暴風の壁と、寸分の狂いもなく、完璧な気流の同調を果たす。
「無能皇子も来たか。丁度言い、纏めて始末してやるわ〜」
次の瞬間、烈真の放った最大出力の歪んだ熱線が、蒼真の「風神の加護」へと激突した。
しかし、激しい衝撃音も、障壁が砕ける音も響かなかった。
シュゥウウウ……、と、まるで熱した鉄を水に突っ込んだかのような奇妙な消滅音とともに、烈真の放った全一般属性の熱線エネルギーが、風の壁に触れた瞬間にことごとく亜空間へと「吸収」され、完全に無へと還元されて消え去ってしまったのだ。
「な……に……ッ!?」
烈真の狂った笑みが、瞬時に凍りついた。
「防がれた……!? いや、違う、俺の攻撃が……消された!?な、 莫迦な、そんなことがあってたまるか! お前たちの風に、なぜ俺の力が届かないんだァアアッ!!」
どれだけ出力を上げても、そのエネルギーは蒼真の風の壁に触れた瞬間に、まるで最初から存在しなかったかのように吸い込まれて消えていく。生まれて初めて体感する「絶対的な無力」の前に、烈真は冷や汗を流し、その歪んだチート能力の気流を激しく乱し始めた。
「今です、お父様」
焔光はシレッとした顔のまま、蒼真の背中をポンと叩いた。
「お父様の「風の矢」を、叔父上に向けて放ってください。僕も光弾撃ちます、必ず通りますから」
「あ、ああ……! 分かった!」
蒼真は焔光の言葉に宿る、奇妙なまでの絶対的な確信に背中を押され、自身の「風」のギフトを最大に練り上げた。精密に制御された不可視の風の矢が、蒼真の周囲に数十発、同時に構築されていく。
「——行けッ!! 風の矢!!」
蒼真の鋭い声と供に、不可視の風の矢が一斉に烈真目がけて射出された。
「ハハハ! そんな生温かい風の矢など、我が外法の装甲で弾き返して——」
烈真は余裕の表情を浮かべ、自身の疑似属性の障壁を展開しようとした。
しかし、その風の矢が射出された瞬間、焔光は自らの手のひらから、か細い光弾を複数、蒼真の風の矢の軌道へと完璧に同調させて放っていた。
一見すれば、ただ無能な皇子が石礫程度の光弾を風の矢に付随させて放っただけの、無駄な足掻きに見える。だが、その光弾の内部には、先ほどヴァルターの溶岩を消し去った「鍛神」の絶技——「相手のギフトの気流を読み、その発動を根本から無効化する能力」が、精密な操作によって完璧に付与されていた。
蒼真の風の矢と、焔光の光弾が融合し、温かな光で明滅しながら烈真の元へと肉薄する。
烈真の展開した疑似属性の防御障壁に、その矢が触れた——まさにその瞬間。
パリン、とガラスが砕けるような、あまりにも呆気ない音が響いた。
焔光の付与した無効化の権能によって、烈真が財閥の資金と隣国の技術で作り上げた自慢の「外法工廠」の気流が、その構造を根底から読み切られ、完全に崩壊させられたのだ。防御障壁だけでなく、烈真の全身を覆っていた外法の気の鎧までもが、一瞬にして四散し、霧のように消え去っていく。
「我が……我が「外法工廠」が……飛散した……!? 嘘だ、嘘だ、嘘だァアアアッ!!」
ギフトそのものを強制的に機能停止させられ、完全な生身の無防備な状態へと引きずり降ろされた烈真。
そこへ、遮るもののなくなった蒼真の不可視の風の矢の嵐が、容赦なく突き刺さった。
ドババババババッ!!! と、激しい衝撃音が演習場に木霊する。
「ぎゃあああああああああああッ!!」
烈真は悲鳴を上げ派手に血を吹き出し、その肉体に埋め込まれていた魔導兵器ごと完全に破壊され、地面へと無様に転がり落ちて激しくのたうち回った。外法の呪符による過剰な身体強化の反動も一気に押し寄せ、彼の五体は内部から崩壊しかけていた。
「う、あ……あ……我が、我が、王座への、夢が……」
烈真は血の海のなかでガタガタと震え、そのまま事切れるかのように白目を剥いた。
「——させませんよ、叔父上。まだ宮廷府の地下で、たっぷりと取り調べを受けてもらわなければ困りますからね」
焔光はシレッと、烈真の傍らへ移動し、彼の胸元へと優しく手をかざした。
発動したのは、大賢ノエルとの気の共鳴によって自身の無属性ギフト(絶技)へと完全に昇華された、至高の治療術である。
温かい聖なる光が烈真の身体を包み込み、内部の隣国の外法技術を体内から焼き切り、微かな痕跡だけを残し、彼の命の灯火だけは絶対に消えない状態へと、精密なコントロールで強制的に縫い留めていった。
「よし、これで命だけは失ってない状態にできました。お父様、お母様、お怪我はありませんか?」
焔光は何事もなかったかのように立ち上がり、衣服の埃を払いながら振り返った。
そこには、今しがた国家転覆級の危機を、たった一枚のスクロールと石礫程度の光弾(という名のチート無効化)で完璧に片付けてみせた息子を前に、開いた口が塞がらない蒼真とシルフの姿があった。
「あ、ああ……。私たちは無事だが……焔光、お前というやつは、本当に……」
蒼真が感嘆を通り越して苦笑いをもらす。
周囲を見渡せば、破岩や瞬、ノエルの手によって、黒耀騎士団の全員が完璧に死亡手前の状態で清められ、ゴミのように転がっていた。
こうして、安全装置を外された演習場のブラックボックス内部で、烈真派閥が仕掛けた最悪の謀略は、チート皇子・焔光の完璧なハメ技のシナリオ通り、誰の目にも触れることなく、完全に、そしてシレッと制圧されたのであった。




