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オールゼロの英傑継承者〜魔導学園で「期待外れ」皇子は、すべてを亜空間で無効化(ミュート)する〜  作者: はる吉
第2章:黒耀の影

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外法と加護

静寂が、第一演習場を支配していた。

結界を外したデスゲーム。その凄惨な舞台の幕引きは、黒耀騎士団の主力たるゲオルグとヴァルターが、無傷な一回生たちの前に無惨にへし折られ、沈黙するというあまりにも一方的な大惨敗であった。

貴賓席の最上段から、皇帝・応心(おうしん)の冷徹極まりない視線が、次男・烈真(れつま)へと突き刺さる。その全身から放たれる「皇帝覇気」の絶対的な威圧感に、烈真は冷や汗を流し、ガタガタと膝を震わせるしかなかった。

「——烈真」

皇帝の重厚な声が響く。

「これが、お前の言う「正しい試練」の結末か。我が孫たち学生相手に、万一にも負けることは許されぬと、あれほど言い含めたはずだ。皇国屈指の実戦経験を誇ると豪語したお前の私兵が、一回生の付け焼き刃の術式(ダメージ緩和術式)すら突破できずに全滅するとは……。この失態、どのような言い訳で贖(あがな)うつもりだ?」

「ひ、陛下……! これは、何かの間違いにございます……! あの餓鬼どもが、これほどの練度にあるなど——」

烈真が顔を土気色に変えて弁明を並べ立てようとした、その時。

救護席から、抜群のプロポーションを誇る「大賢(たいけん)」エミール・ノエルが、美しい衣装を翻して中央へと歩み出てきた。その手には、最初にノアの重砲撃によって吹き飛ばされ、昏倒していた黒耀騎士の懐から、彼女の治癒のついでに回収された(至高の治癒術により清められた)一枚の禍々しい呪符が握られていた。

「皇帝陛下。救護の折、不穏な「気」の揺らぎを感じて回収いたしました。」

ノエルは、世界の真理に最も近いとされる天災規模の魔道を操る大賢だ。彼女の光の気が呪符の欺瞞を暴き、その本質を白日の下に晒す。

「これは、かつて東の玄関口でメディチス財閥が引き起こした汚染事件の折に使用された……あの「魔獣召喚符」の技術をさらに悪質に発展させた、禁忌の「身体強化用の外法の呪符」にございます。黒耀騎士団が、この呪物を隠し持っておりましたわ」

「なっ……!?」

周囲の教師や宮廷府の役人たちから、驚愕と戦慄の悲鳴が上がった。

メディチス財閥から取り寄せた外法技術。それは、国家転覆すら意味しかねない明確な禁忌。それが皇帝の目の前で、ノエルの絶対的な証言とともに突きつけられたのだ。

「烈真。……弁明は、宮廷府の地下深くで聞こうではないか」

皇帝・応心の瞳に、完全な決別と怒りの光が宿った。

完全に退路を断たれ、破滅の奈落へと突き落とされた烈真。彼の脳裏に、焦燥と絶望、そして狂気が混ざり合った、その時、どす黒い「何者か」の声が直接響き渡った。

(——今だ。今この場は、すべての安全結界が外れている。皇帝も、邪魔な蒼真も、焔光も風花も、全員が一堂に会している。……今ここで、すべてを排除すれば、玉座はお前のもの——)

「……ああ、そうだ。そうだとも……!!」

烈真の瞳が、血走った狂気の赤へと染まる。


「——死ねぇえええええええええええッ!!」

烈真が咆哮すると同時に、彼のギフト「機」が最悪の形で暴走した。

表向きは1属性のギフトでありながら、財閥の資金力と外法技術、さらには自身の肉体に埋め込まれた魔導兵器を極限まで駆動させた「外法工廠(ダーク・ワークス)」が発動する。

その体内から、火、水、土、木、風、雷の一般属性すべてを疑似的に再現した、歪んだ七色の高出力熱線が、一直線に蒼真(そうま)とその背後にいる皇帝を目がけて放たれた。

ズガァアアアンッ!!!

その一撃は、あらゆる暗殺や呪術を無効化するはずの、皇帝・応心の展開した「皇帝の聖域」の光の障壁すらも、物理的な質量と異常な呪力によって強引に突き破り、激しい衝撃波を巻き起こした。

「ちっ……隣国(エイシン)の外法技術の気の痕跡…呪か……!聖域範囲をねじ曲げるとは…」

応心が眉をひそめる。皇帝覇気すら強引に歪める、国家侵略の禍々しい技術がそこにはあった。

しかし、その破滅の熱線を真っ向から受け止めたのは、瞬時に前に飛び出した蒼真であった。

「風神の加護ッ!!」

蒼真が叫ぶと同時に、彼の傍らに立つ妻のシルフ——西の辺境伯家出身の強き風の力——が完全に共鳴した。夫婦の気の繋がりが、戦場に絶縁・減衰の暴風障壁を顕現させる。

烈真の放ったすべての一般属性を疑似的に混ぜ合わせた歪んだ熱線が、蒼真夫婦の展開した鉄壁の暴風障壁に激突し、激しい火花を散らしながら四方に吹き飛ばされて無に還っていった。

「烈真兄上!!」

蒼真が暴風の中から、不可視の風の矢を周囲に構えながら、怒りの声を張り上げた。

「この期に及んで、我が家族、そして皇帝陛下へと牙を向くか! その異常な力と(外法技術の)気!やはり隣国「エイシン国」に魂を売ったのだな! 真偽を問いただす、答えよ、烈真兄上!!」

「黙れ、黙れ、黙れぇ!! 勝てば官軍、すべては我が手の中に墜ちるのだ!!」

もはや正気の一線を踏み越えた烈真は、懐から数枚の禍々しい黒い呪符を取り出し、自身の胸へと叩きつけた。

「我が黒耀の騎士たちよ! 禁忌の力を解放せよ! 皇国を我が手に塗り替えるのだ!!」

バリバリバリッ!!! と、演習場全体に不快な断裂音が響き渡る。

「身体強化用の外法の呪符」が、烈真と、倒れ伏していたはずのヴァルターやゲオルグを含む黒耀騎士団の全員の肉体へと融解するように吸い込まれていった。

次の瞬間、彼らの肉体が異様に肥大化し、血管が黒く浮かび上がる。気の総量が爆発的に跳ね上がり、ヴァルターやゲオルグに限っては、四大英傑の領域にすら迫るほどの、圧倒的な暴力の波動が演習場を埋め尽くした。


外法の怪物と化した黒耀騎士団が、一斉に咆哮を上げる。「うおぉおおおおおん!!」

その異形のプレッシャーに、観客席の下級生たちが失神し、演習場は地獄絵図と化そうとしていた。

だが、その混乱の最中、至って平然とした顔で顎に手を当てていたのは、焔光(こうえん)だった。

(うん、やっぱり烈真叔父上、メディチスから取り寄せた呪符をヤケクソで発動させたね。いくら同じ失敗はしないと思っていても、追い詰められた小物(叔父上、失礼)の行動なんて想定内過ぎる。昨日の食堂の作戦会議(シナリオ)通りになったなあ。面倒だけど…さあ、ここからは大人の出番(汚れ仕事)だよ、エドガー先生)

焔光が視線で合図を送った、まさにその瞬間。

エドガー・レオンハートが、口元のクシャクシャの煙草をガリッと噛み潰し、わざとらしく、演習場全体に響き渡る大声を張り上げた。

「——うわぁあああっと大変だぁあああ!! 騎士団のあまりの気の衝撃で、俺が演習場の周囲に仕掛けておいた「防衛用の自動近代重トラップ」が〜!術式壊れて大暴走しちまったぞォオオオッ!!」

完璧なまでの、棒読みの大根役者の演技。

しかし、その叫びと同時に、エドガーの「土」と「機」のギフトが真価を発揮した。彼が事前に地面へと構築していた精緻なトラップが、意図的な術式エラーモドキを起こし、演習場全体の地面を爆発的にせり上げ、凄まじい衝撃波と爆煙の嵐を巻き起こしたのだ。

ドガァアアアンッ!!! と激しい偽装の爆音。

「皇帝陛下をお護りせよ!!」

そのエドガーの「大暴発」を合図に、訓練された皇帝近衛騎士団が即座に動き、皇帝・応心の周囲へと完璧な集団防御障壁を展開した。

「周りの一般生徒、および周囲の施設への被害を防ぐのだ!」

ジーク・シルフィード率いる「蒼天碧流騎士団」も一斉に連動し、観客席の生徒たちを風と水の防壁で完全に包み込み、避難経路を確保する。

そして——エドガーの術式暴発による凄まじい煙と光が演習場を満たした、その一瞬の隙。

「——「神の因果を遮断せよ」。……孔明。」

「御意にございます、朧様」

闇の中で、九条朧と専属執事の孔明の二人の「闇」と「無(因果遮断)」のギフトが、極限まで発動された。

エドガーの起こした爆煙を核(触媒)として、演習場の空間そのものが、墨を流したかのような漆黒の闇によって完全に包まれていく。

光を吸い込み、音を消し去り、気配を無に還し、外からの「予知能力や神託」すらも完全にシャットアウトする、ブラックボックス——「外法遮断の特級暗黒結界」が、演習場の中央へと完璧に展開された。

外から見れば、ただエドガーのトラップが術式ミスで大暴発し、濃密な魔導の煙で中が何も見えなくなったようにしか思えない。関係者以外には、中で一体何が起きているのか、どのような外法の怪物が暴れているのか、全く判別がつかない。

完璧な隔離。完璧な、暗闇の舞台の完成。

呪符によって異形の力を得て勝ち誇る烈真たちの前に、漆黒の闇の中から、一人の少年が、いつも通りのシレッとした足取りで歩み出てくる。

「師匠達〜出番です〜」といきなり英傑を呼ぶ、焔光。

安全装置を外された暗闇の結界の内部。ここから始まるのは、世界最強のチート能力を隠し持つ焔光による、誰の目にも触れない、圧倒的で、残酷な「本当のお仕置き(シレッと解決)」の時間であった。

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