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オールゼロの英傑継承者〜魔導学園で「期待外れ」皇子は、すべてを亜空間で無効化(ミュート)する〜  作者: はる吉
第2章:黒耀の影

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深海の会議と最恐の闖入者

黒耀騎士団による凄惨な一日目のレクチャーが終了し、日が完全に落ちた数時間後。学園の最深部に位置する大会議室には、重苦しい沈黙と、張り詰めた殺気が満ちていた。

長大な円卓の席につくのは、学園長であるオリヴィア・シルフィード(織姫)を筆頭に、代表教師のエドガー・レオンハート、九条朧(くじょう・おぼろ)。そして、ふんぞり返る次男・烈真(れつま)と、それを盲信する宮廷府の役員たち。そして——明日の結界なき模擬戦で、実質的に指名されたに等しい15歳の少年、焔光(こうえん)であった。

「結界の完全解除など、断じて認められません。生徒を何だと思っているのですか、烈真殿。これは教育の場であり、あなたの私兵の殺人欲求を満たす戦場ではない!」

織姫が激しく机を叩き、その【風】の気が室内を震わせる。エドガーも火のつかないクシャクシャの煙草を強く噛み締め、冷徹な視線を烈真へ向けた。

「元英傑候補や人殺しの戦闘狂を相手に、結界なしの生身で戦わせるなど、正気の沙汰じゃありませんよ。事故では済まない」

しかし、烈真は鼻で笑い、宮廷府の役人を手で制しながら主張を曲げない。

「甘いな。実戦経験がなければ、いざ他国や魔人が攻めてきた時に何の役にも立たん。生温かい揺り籠で育てられた雛など、戦場では一瞬で肉塊だ。宮廷府もこのレクチャーの有用性を認めている。異議は却下だ」

大人たちが鋭い火花を散らす中、それまで静かに紅茶を啜っていた焔光が、シレッとした顔で手を挙げ、烈真へと視線を向けた。

「烈真叔父上、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「何だ、無能な甥よ。命乞いなら今のうちだぞ?」

「いえ。明日の結界なき模擬戦ですが、さすがに生身の生徒では少々心許ないので、代表学生の衣類にだけ、せめて致命傷を避けるための「ダメージ緩和術式」を個人的に施したいのです。……まさか、皇国屈指の実戦経験を誇る黒耀騎士団の方々が、一回生の付け焼き刃の術式が有るからと、遅れを取ったり負けたりするなんてことは……絶対に無いですよね?」

焔光の声音は、どこまでも無垢で、純粋な煽(あお)りを含んでいた。

烈真の顔が傲慢に歪む。

「ふん、当然だ! 我が精鋭が、お前のような出来損ないの術式ごときに手こずるわけがなかろう。好きにしろ!」

烈真は焔光を一蹴すると、そのまま織姫へと向き直り、勝ち誇ったように暴言を吐き散らした。

「そもそも織姫叔母様、あなたの戦闘教育が生温いから学園が軟弱になるのだ。女の腐った統治など、皇国には不要——」


烈真がその傲慢な言葉を言い切るより先に、大会議室の空間が「傲然たる光」によって爆発的に引き裂かれた。

「——誰の統治が不要だと、烈真?」

突如として室内に吹き荒れた、次元を圧迫するほどの絶対的なプレッシャー。

まばゆい光の割れ目から姿を現したのは、現皇帝・応心(おうしん)であった。その全身からは、覇気にのまれた周囲のギフトを強制的に封印し、人類をひれ伏せさせる固有能力【皇帝覇気(光)】が渦巻いており、宮廷府の役人たちは悲鳴を上げてその場に平伏した。

皇帝の背後からは、三男の蒼真(そうま)、そして「フンス! フンス!」と凄まじい暴風の気を周囲に巻き散らす風花(ふうか)が続く。

さらに、空間の別の歪みから、規格外中の規格外——四大英傑の二人、【鍛神(たんしん)】千手破岩と、【剣聖(けんせい)】一ノ瀬瞬、そしてツインおだんご頭の天才少女ノア・メイリンまでが姿を現した。

「な、何故……!? なぜ父上や英傑たちがここに……!?」

烈真が驚愕のあまり椅子から転げ落ちそうになる。皇宮にいるはずの皇帝が、なぜ一瞬で学園の会議室に現れるのか。

その理由は、焔光が裏で仕組んだ「恐るべき転送リレー」にあった。

数時間前、烈真の暴論を聞いた焔光は、即座に専属執事・孔明の闇の隠遁術を使い、風花を隠密裏に皇宮の蒼真の元へと送り届けた。(因みに許可無い皇宮への転移は重罪。いざとなれば皇后の許可を取っている事にしている。)そして、お兄ちゃんや学園への侮辱に激怒する風花が蒼真を動かし、蒼真の「風・水」の気から親子である皇帝の「光」への繋がりで「気」を共鳴させ、学園へと一瞬で「皇帝ごと(孔明が蒼真と応心の力を借りて)複数人の超長距離転移」させてみせたのだ。

さらに、焔光はノアを鍛神・千手破岩の元へ送り、いざという場合の安全装置として、自身で次元転移能力を持つ鍛神に「剣聖も連れて学園へ立ち会ってほしい」と要請していたのである。

「いやぁ、焔光の頼みじゃなきゃ動かねぇよ。まったく、面白いことになってるじゃねぇか」

鍛神・破岩が退屈そうに耳を掻き、剣聖・一ノ瀬瞬はヴァルターの悪評を聞いていたのか、冷徹に目を細めている。

「我が弟子(焔光)にちょっかいを出す遠縁がいると聞いてな。今回は子供(ガキ)の喧嘩じゃ片付かないし、見届けさせてもらうぞ、烈真」


「烈真。お前の織姫への不敬、そして学園への暴言、全てこの耳で聞いたぞ」

皇帝・応心の重厚な声が会議室に響き渡る。その「皇帝の聖域」のオーラが、烈真の「外法工廠」の歪んだ気を完全に押し潰していた。

「ひっ、陛下(ちちうえ)……! 私はただ、皇国の次世代のために、実戦の厳しさを……!」

烈真が冷や汗を流しながら言い訳を並べ立てようとするが、応心はそれを冷酷に遮った。

「黙れ。結界を外しての模擬戦、良いだろう。お前がそこまで実戦を説くのであれば、我が認めよう。だが——」

皇帝の鋭い眼光が、烈真を射抜く。

「これほどの無礼を働き、英傑や我が前で大口を叩いたのだ。黒耀騎士団が、万一にも我が孫たち学生相手に「負ける」などということは、天地がひっくり返っても許されん。もし万が一にでも不覚を取れば……烈真、お前と黒耀騎士団の立場がどうなるか、分かっているな?」

「ッ……!?」

烈真の顔が、一瞬にして土気色へと変わった。

焔光が先ほど仕掛けた「まさか騎士団が負けるなんて無いでしょ?」という言葉が、皇帝の御前で完璧な「退路を断つ罠」として成立してしまったのだ。ダメージ緩和術式を施された学生を相手に、黒耀騎士団は「絶対に負けられない」という異常な重圧を背負わされることになった。

さらに焔光は、「皇帝陛下(おじいさま)の降臨とは、ビックリ致しました。…皇族として、ひとつお願いが御座います。結界なき戦闘だと、黒耀騎士団が幾ら手加減して頂いても、周りへの影響が心配です。ここは、エドガー先生に周辺を防御頂いておくのはどうでしょうか?」

応心は、焔光を見て厳しい顔を、孫をみる優しい祖父の顔になり「おお、そうであるな。良く気がついた。採に値する。エドガーと検討せよ」と優しく許可を出したのだった。

さらに応心は、宮廷府の役員たちを見て「お前らは何をしておったのだ?烈真の非礼や行動を正すのが役割だろうが。烈真の言いなりなら、お前らは要らん。烈真の周りの宮廷府関係者は、見直しが必要だな。」それを聞いた役員たちは、顔色をさらに青から白に変色させるのだった。

(よしよし、これで舞台は整ったね。明日、ヴァルターたちが僕の術式をナメてかかって自滅してくれれば、楽に全てを偶然のせいにして「シレッと解決」できる。あとはエドガー先生の防御施設暴走と、他の代表生徒の手柄としちゃえば完璧だ)

ふっと、焔光がエドガーを見ると、エドガーが苦笑いしていた。

皇帝や英傑が集う修羅場の中心で、あくまで「平凡」を装う、チート皇子・焔光だけが、いつも通りのシレッとした顔で、完璧なハメ技の完成に内心で満足げな笑みを浮かべていた。

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