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オールゼロの英傑継承者〜魔導学園で「期待外れ」皇子は、すべてを亜空間で無効化(ミュート)する〜  作者: はる吉
第1章:入学

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出陣式と、虚飾な演説

学園の正面大広場。

そこには、メディチス財閥から提出された「ウォーター・ゾンビ討伐依頼」に向けて、選び抜かれた学園の精鋭たちが居並んでいた。周囲では、担任のエドガー・レオンハートをはじめとする教員たちが、タバコを噛みながら、あるいは冷徹な視線でその様子を見守っている。

今回の校外実技は、財閥の息がかかった6回生のアルベール・ヴァルハイトが財閥のパーティーでの虚栄の末に引き受けてきたものだ。だが、学園長オリヴィア(織姫)の裏の意図もあり、編成されたのは単なる一クラスの枠を超えた、冗談のような超一級の精鋭部隊であった。

「――ほう。まさか校外実技で、君と肩を並べることになるとはね」

腕を組み、冷ややかな、だが確かな闘志を宿した瞳で焔光(こうえん)を見つめたのは、学園3回生の筆頭にして、四大英傑の一人「剣聖」一ノ瀬瞬の弟子であり、焔光の姉弟子――神楽(かぐら) 凍華(とうか)であった。

彼女は、焔光の亡き実母である「聖なる巫女」の従姉妹にあたる血筋だ。もちろん、皇宮の隠蔽工作により、目の前の頼りなげな弟弟子が、その巫女の遺児であることまでは知らない。だが、凍華が12歳から14歳までの3年間、二大英傑に焔光が修行をつけられていた時期に寝食と地獄の鍛錬を共にしてきた同門として、凍華は焔光の内に秘められた「規格外の本質(チート)」を完璧に察していた。

「あはは……。凍華姉さん(姉弟子)が一緒なら、僕は後ろで石礫(光弾)でも投げていれば良さそうだね。心強いよ」

「ふん、相変わらずヘラヘラと……。世間の「期待外れ皇子」なんて噂を流した奴らの目を、一度くり抜いてやりたいものだわ」(まあ、流したのは自分の師匠達ではあるんだが。)

凍華は呆れたように息を吐きつつも、その美しい横顔には、焔光への深い信頼と愛着が滲んでいた。

遠征部隊は、まさに異例の構成だった。

最高学年であり、教師の補助役としても機能する6回生精鋭6名。その筆頭がアルベールである。

続いて、実戦部隊の要となる3回生精鋭5名。ここには剣聖の弟子である凍華が含まれている。

そして最年少ながら、常識外れの戦闘力を誇る1回生精鋭6名。

焔光、その双子の妹である風花、影の絶対防衛を担う専属執事の孔明、身体強化の猛獣である専属侍女のミーナ。さらに、周囲に鋭利な鋼鉄の刃と同等の木の葉を旋回・射出する『面制圧能力』をエドガーから高く評価され、選出されたシャーロット・ヴァンダム。そして、鍛神の弟子であり、14歳の飛び級天才少女である、超高火力の可変式重兵器を亜空間から呼び出すノア・メイリンの6名だ。

そんな錚々たるメンバーを前に、拡声の魔導具を手にしたアルベール・ヴァルハイトが、大広場の壇上でこれ以上ないほど傲然と胸を張った。

「――下級生諸君! よくぞ集まってくれた!」

アルベールの声が広場に響き渡る。その顔には、今までの失態を帳消しにし、今度こそ自分の偉大さを知らしめてやろうという、歪んだ野心がみなぎっていた。

見送りには、焔光のことが心配でたまらない5回生の大賢ノエル、そして生徒会長であるクラリスも同席していた。

「今回の任務は、メディチス財閥の魔鋼工場に仇なす低級の魔獣、ウォーター・ゾンビの約50体程の討伐である!雑魚相手に 騎士団を動かすまでもなく、たかだか泥人形どもの掃除に過ぎん! 我がヴァルハイト家は、東のアズラエル辺境伯家で高い地位を頂き、四大英傑の一人「剣聖」様とは、極めて深い血縁・後ろ盾関係にある名門中の名門! その高貴なる家系出身のこの俺が引率する以上、貴様たちに敗北など万に一つもあり得ん!」

アルベールが「剣聖の後ろ盾」を勝手に誇大妄想して語り始めた瞬間、3回生の列にいた神楽 凍華の周囲の空気が、ピキッ……と凍りついた。

(……あの男、また私の師(剣聖)の名前を勝手に使っているのね。ただの遠縁の叔母の家の息子というだけの薄い関係のくせに、愛弟子の私と焔光の前でよくもまあ、あそこまで不愉快な大口を叩けるものだわ)

凍華の瞳から放たれる殺人級の眼光に、周囲の3回生たちが「ひっ……!」と青ざめて距離を取る。

しかし、本当に恐ろしいのはそこではなかった。アルベールの演説は、最悪の地雷を踏み抜く。

「特に1回生! 「期待外れ」と噂される焔光を筆頭に、実戦経験の浅いガキどもだ! 足手まといにならぬよう、俺の背中を見て、一般属性最強たる【雷】の圧倒的な破壊力をその目に焼き付けるがいい!」

その瞬間、見送りの列にいた5回生の大賢ノエルの笑顔が、ぴたりと静止した。

彼女の美しい顔(かんばせ)から一瞬で血の気が引き、代わりに世界を数回は滅ぼせそうな、天災規模の魔道(魔法)の暗い『気』が、地を這うように広場全体へと膨れ上がり始める。ノエルにとって、最愛の焔光を「足手まとい」「期待外れ」と侮辱することは、自身の逆鱗を素手で引きちぎられるに等しい暴挙だった。

「――ちょっと、あの6回生、今なんと言ったかしら?」

ピキピキと空間が軋む音が聞こえる。ノエルの指先から漏れ出る光の治癒術すら、部位欠損の呪いを清めるどころか、すべてを消滅させる奇跡の破壊エネルギーへと変質しかけていた。

「(お、お兄様ァァァァァッ!! 何を仰言っていますのよあの馬鹿者は〜!?)」

その隣にいた生徒会長のクラリスは、心臓が口から飛び出そうなほどの恐怖で、顔面を真っ白に染めてハラハラ、ガタガタと震えていた。

ノエル様が本気で怒れば、兄のアルベールはおろか、この広場、ひいてはヴァルハイト家ごと大災害級の魔道に飲み込まれて世界の真理の彼方へ消し去られる。クラリスは必死にノエルの袖を掴み、「ノ、ノエル様、落ち着いてくださいまし! 公式の出陣式ですわ!」と涙目で笑顔の圧を宥めるのに全精力を注ぐ羽目になった。

当の1回生チームはといえば。

「お兄ちゃんを足手まとい呼ばわりしたあの男、林に着いたら風の糸で細切れにして、ウォーター・ゾンビの餌にして差し上げますわ……」と風花がフンスフンスと激しい気の刃を研いでおり、「主、あの男の影を今すぐ引き裂いて、林の肥やしにしておきますか?」と孔明が静かに腕輪をさすっている。ミーナに関しては、身体強化済で焔光の合図した瞬間にアルベールを屠る準備済だった。

「ふん、兄様の足元にも及ばない雑魚が、よく吠えるよね。魔導大槌で頭をカキーンって消し飛ばしてあげようか?」とノアも呆れ果てていた。

シャーロットだけは、隣に立つ焔光の私服姿(遠征用戦闘服)の格好良さに、「はぅ……こ、焔光様の戦闘服姿、素敵すぎますわ……っ❤」と、完全にガチ恋の妄想で顔を真っ赤に染めていた。

「じゃ、行くぞお前ら。ダラダラすんな、馬車が待ってる」

エドガーがダルそうに声をかけ、ノエルの超重圧が弾ける寸前で何とか出陣の合図を下した。クラリスは、兄がギリギリのところで即死を免れたことに、本日一番の深い、深い安堵のため息をつくのだった。


学園を出発した精鋭部隊は、財閥が手配した大型の魔導馬車に分乗し、帝都の東方に位置する魔鋼工場へと向かった。

車中、焔光は窓の外を流れる景色を静かに眺めていた。

(ウォーター・ゾンビ、か。エドガー先生の話だと、ただの自然発生じゃない不穏な気の揺らぎがあるみたいだね。……まぁ、アルベール先輩が何かやらかすつもりなんだろうけど、風花やクラスのみんなに怪我がないように、今回も「シレッと」裏で片付けちゃおう)

数時間の移動を経て、魔導馬車はついに目的地へと到着した。

そこは、重々しい煙を上げる巨大な魔鋼工場の裏手に広がる、異常なほどに鬱蒼とした暗い林だった。

昼間であるにもかかわらず、木々が光を遮り、地面はぬかるんだ泥水に覆われている。そして何より、空間を満たすのは、鼻を突くような腐敗臭と、不自然なまでに淀んだ「水と呪いの気」であった。

「――着いたぞ、下級生諸君」

馬車から降りたアルベールが、腰の剣に手をかけ、林の奥を見つめて不敵に笑う。

その懐には、実家からメディチス財閥の意向として押し付けられた、禁忌の【魔獣召喚符】が静かに眠っている。

「ここが泥人形どもの巣窟だ。一般属性最強たる俺の「雷」が、この陰気な林ごとすべてを照らし出してやる。……おい、焔光、風花。絶対に俺から離れるなよ? 泣いて命乞いをする準備だけは、あらかじめしておけ!」

自らの破滅へ向かって突き進む男の、あまりにも滑稽な虚勢。

その背後で、神楽 凍華が、そして専属主従の孔明とミーナが、いつでもその首を刎ねられる冷徹な視線をアルベールへと固定する中、焔光はいつもの頼りなげな笑みを浮かべ、シレッと一歩を踏み出すのだった。

巨大な財閥の思惑と、陰謀が蠢く不穏な林。

期待外れ皇子の、本格的な「シレっと無双」の幕が、ついに上がろうとしていた。

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