推理は貴方をいい方向へ導くかも
「推理は――貴方をいい方向へ導くかもしれませんよ」
アイリスは静かにそう告げた。
会場の空気が張り詰める。
先ほどまで談笑していた生徒たちも、今は誰一人として声を発しない。
給仕の男は俯いたまま、何も答えなかった。
その額には汗が滲んでいる。
「…………」
「随分と静かですね」
アイリスは男を見つめる。
「先ほどまでの爽やかな笑顔はどこへ行ったのでしょう?」
男は答えない。
「まあ、いいでしょう」
アイリスはテーブルの上に置かれた紅茶へ視線を落とした。
「あなたは、この親睦会に最初から何か目的があって入り込んでいた」
「…………」
「そして、その目的を達成するために、私たちへ紅茶を飲ませようとした」
男の指が僅かに震える。
「ですが、一つ誤算がありました」
アイリスは自分の鼻先へ指を添える。
「私が紅茶の香りに敏感だったことです」
「…………」
「普通の人間なら気づかない程度の違いだったのでしょう」
アイリスは紅茶を見つめる。
「しかし、私は違う。茶葉ごとの香り、甘さ、渋み、後味……紅茶に関する情報は、ある程度記憶しています」
そして、ゆっくりと男へ視線を戻した。
「だから気づいた」
「この紅茶には、何かが混ぜられている」
男の表情が強張る。
「そして――」
アイリスの声が低くなる。
「あなたは裏社会と繋がりがありますね」
「……!」
会場がざわついた。
「裏社会……?」
「どういうこと?」
「アイリス、そこまで分かるの?」
リリアも驚いた表情を浮かべる。
しかしアイリスは動じない。
「この紅茶に含まれていた薬品」
アイリスは一拍置いた。
「これは、一般的に簡単に入手できるものではないのでしょう?」
男は黙ったままだ。
「あなたの反応を見る限り、私の推測は間違っていないようですね」
「…………」
「この薬品は――」
アイリスは男の目を真っ直ぐ見つめた。
「裏社会で取引されているものですね」
男の顔から、完全に笑みが消えた。
「…………」
「沈黙は肯定、と受け取っても?」
「違う……」
初めて男が口を開いた。
しかし、その声には明らかな動揺があった。
「私は……何も……」
「何も知らない人間は、あんな反応をしませんよ」
アイリスは冷静に言い切る。
「あなたは私が紅茶を飲まないと分かった瞬間から、明らかに焦っている」
「そして私があなた自身に飲むよう要求した時――」
アイリスは男の手を指差す。
「あなたの右手は震えていました」
男は反射的に右手を隠す。
「……!」
「図星ですね」
アイリスは小さく息を吐く。
「さて……ここからが本当の推理です」
会場にいる全員が息を呑む。
アイリスは静かに告げた。
「あなたは誰から、この薬品を受け取ったのか」
「なぜ王子家の親睦会を狙ったのか」
「そして――」
鋭い瞳が男を捉える。
「あなたの背後にいる人物は誰なのか」
男は答えない。
ただ、俯いたまま拳を握りしめていた。
その反応を見たアイリスは、ほんの僅かに目を細めた。
「……なるほど」
「どうしたの、アイリス?」
「いえ」
アイリスは小さく笑う。
「どうやら、この事件」
「ただの睡眠薬混入事件ではなさそうです」
必要であれば、次のことができます。




