裏社会の目的
会場は静まり返っていた。
給仕の男は、アイリスの問いに何も答えない。
ただ俯き、拳を強く握りしめている。
アイリスはそんな男をじっと見つめていた。
「……では、続きを話しましょう」
「…………」
「あなたたち裏社会の目的は――」
アイリスは会場を見渡す。
そこには、親睦会へ参加している多くの生徒たち。
王子家の跡取りや、大企業の子息、名家の令嬢。
それぞれが将来、大きな組織や家を背負う可能性を持っている。
「この生徒たちです」
「……!」
リリアが息を呑む。
「まさか……」
「えぇ」
アイリスは頷いた。
「生徒を攫うこと。それがあなたたちの目的ですね」
会場から悲鳴が上がる。
「私たちを……?」
「攫うってどういうこと!?」
「落ち着いて!」
リリアが周囲へ呼びかける。
一方、アイリスは冷静だった。
「この親睦会は、あなたたちにとって非常に都合のいい場所です」
アイリスは続ける。
「王子家が主催しているため、多くの有力者の子供たちが集まる。さらに、普段とは違う環境で大勢が一つの場所に集まっている」
「そして飲み物や料理が自由に運ばれる」
アイリスは目の前の紅茶を見る。
「睡眠薬を混ぜるには、これ以上ない環境です」
男の顔が強張る。
「全員を眠らせ、その混乱に乗じて生徒たちを連れ出す」
「……違う」
男が小さく呟いた。
「違う?」
「俺は……そんな……」
「では、なぜ紅茶に薬を入れたのです?」
男は答えられない。
アイリスは静かに続ける。
「殺すことが目的なら、睡眠薬を使う必要はありません」
「金品を盗むことが目的なら、これほど大規模な準備も必要ない」
「ならば――」
アイリスの瞳が鋭くなる。
「目的は人間そのもの」
「そして、この親睦会に集められた生徒たちは、その条件に当てはまる」
その時だった。
「……アイリス」
リリアが小声で呼ぶ。
「どうしたのです?」
「王子くんがいない」
「…………」
アイリスの表情が変わった。
先ほどまで確かに近くにいた王子正樹。
しかし、会場を見渡しても、その姿が見当たらない。
アイリスは周囲を確認する。
「……まさか」
そして――。
会場の入口を見る。
「リリア」
「うん」
「この事件、既に始まっているのかもしれません」
アイリスは静かに立ち上がった。
「生徒を攫う計画なら――」
その視線の先には、閉じられた大きな扉。
「最初の標的は、すでに連れ出されている可能性があります」
「アイリス……!」
アイリスはドレスの裾を軽く持ち上げる。
「行きますよ、リリア」
「えぇ!」
「まだ事件は終わっていません」
そして二人は、王子邸の奥へと走り出した。
必要であれば、次のことができます。




