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アイリスの事件簿  作者: 白雪刀花
探偵が進む道
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4/11

「真実の指輪」

この事件の終わりです

藤岡先生――いや、藤岡正信の表情から、徐々に余裕が消えていく。

先ほどまでの冷静さは、もうどこにもなかった。

私はそんな彼を見ながら、腰に付けたキーホルダーへ手を伸ばす。

そして、その中から小さな指輪を二つ取り出した。

一見すれば、何の変哲もない指輪。

しかし――これは私にとって、ただのアクセサリーではない。

「な、なんなんだ、それは!」

藤岡先生が声を荒らげる。

「学校には必要な物以外は持ち込むことは禁止されているぞ!」

私は呆れたように小さく息を吐いた。

すると、隣にいたリリアが私の顔を覗き込む。

「アイリス、溜息つくと幸せ逃げるよ~」

「……余計なお世話です」

私は冷静に言い返す。

そして、藤岡先生へ向き直った。

「確かに、学校生活においては必要ありませんね」

「なら――」

「ですが」

私は指輪を掲げる。

「探偵にとっては必需品です」

そして、淡々と続けた。

「教師からも使用の許可は得ています。したがって、校則上も何の問題もありません」

「……」

藤岡先生は何も言い返せない。

私はそのまま、倒れている黒崎先輩のもとへ向かった。

しゃがみ込み、その手にそっと触れる。

「黒崎先輩」

返事はない。

当然だ。

彼はもう、この世にはいない。

「真実を得るために――あなたに協力していただきます」

私は黒崎先輩の指へ、二つの指輪のうち一つをゆっくりとはめた。

その様子を見ていた響さんが、驚いたように目を見開く。

「……それが、噂の探偵の七つ道具の一つか?」

「はい」

私は頷く。

「これが私の探偵の七つ道具――」

指輪が淡い光を放つ。

「『真実の指輪』です」

「真実の……指輪?」

リリアが呟く。

私は説明を続けた。

「この指輪は、対象となった人間が目にしたものや、耳にしたものをホログラムとして再現する魔法具です」

「対象者は――」

私は黒崎先輩を見る。

「死者であっても構いません」

響さんの表情が変わる。

「死者でも……?」

「実体さえ残っていれば可能です」

私は指輪を見つめる。

「これから再現するのは、黒崎先輩が最後に見たもの」

「そして、聞いたもの」

「相手が放った言葉も、その行動も――」

私は藤岡先生へ視線を向ける。

「すべてです」

藤岡先生の額から、汗が流れ落ちた。

しかし――この道具には、一つだけ問題がある。

「ただし……代償もあります」

「代償?」

リリアが心配そうに聞く。

「ええ」

私は自分の胸元へ手を当てた。

「この七つ道具は、長時間使用すると使用者の精神と身体に大きな負担を与えます」

「だったら……」

「短時間であれば問題ありません」

私は立ち上がる。

「少なくとも、今回の事件を解決するには十分です」

そして、黒崎先輩の手を取った。

もう一つの指輪を、自分の指にはめる。

その手を自分の胸元へと当てる。

「黒崎先輩」

静かに目を閉じる。

「いきますよ」

指輪が、さらに強い光を放つ。

「――真実を解き明かし」

「その時見たものを示せ」

瞬間。

私と黒崎先輩の周囲が、淡い光に包まれた。

そして――。

空中に、一つの映像が浮かび上がる。

ホログラム。

そこに映し出されたのは――事件が起こる直前の美術室だった。

「……!」

誰もが息を呑む。

そこには――。

藤岡先生と、黒崎先輩がいた。

『藤岡先生……その絵画、どうするつもりですか?』

黒崎先輩が、一枚の絵画を指差す。

藤岡先生は何食わぬ顔で答えた。

『あぁ……とある絵画会に展示したいと連絡をもらってね。今から運ぶところだ』

しかし、黒崎先輩は納得しなかった。

『絵画会などに絵画を持ち出す場合は、生徒全員の承諾と印鑑が必要なはずです』

『……』

『それに、その絵画は一枚で三百万円はする代物です』

黒崎先輩は藤岡先生を真っ直ぐ見つめる。

『元の場所へ返してください』

そして――。

『私は先生に報告してきます』

黒崎先輩が背を向けた。

その瞬間だった。

藤岡先生が近くに置かれていた金属バットを掴む。

「――!」

振り上げる。

そして――。

ガッ!

黒崎先輩の後頭部へ、バットが叩きつけられた。

「……!」

映像を見ていたリリアが息を呑む。

黒崎先輩はその場に倒れ込む。

それでも、意識はまだ残っていた。

『こ……んな……こと……許され……』

「お前のせいで……!」

藤岡先生の声が響く。

『……?』

「俺の計画が台無しじゃないか!」

そして――。

ガッ!

ガッ!

ガッ!

何度も。

何度も。

金属バットが振り下ろされる。

やがて――。

黒崎先輩は動かなくなった。

息もしていない。

映像がそこで途切れた。

静寂。

誰も言葉を発することができなかった。

私はゆっくりと息を吐く。

「……っ」

頭に鋭い痛みが走った。

私は思わず額を押さえる。

「アイリス!」

リリアがすぐに私の身体を支えた。

「大丈夫!?」

「問題ありません……」

私は少し苦しそうに息を吐く。

「少し休めば大丈夫です」

そして、藤岡先生へ視線を向ける。

「……そんなことより」

「これが――真実です」

藤岡先生は、何も答えなかった。

ただ、全身から汗を流している。

その顔には、もう先ほどまでの余裕など一切残っていない。

「……」

やがて藤岡先生の身体が震え始めた。

「……くそ」

小さな声。

そして――。

「くそぉぉぉぉっ!」

突然、藤岡先生が走り出した。

「お前みたいな探偵がいなければ!」

拳を振り上げる。

「俺の計画も……全部成功していたのに!」

「アイリス!」

しかし――。

私は動じなかった。

振り下ろされた拳を避ける。

続く二撃目も。

三撃目も。

すべて紙一重でかわしていく。

「残念ですが――」

藤岡先生の腕を掴む。

そのまま身体を捻り――。

「力による制圧は、既に想定内です」

ドンッ!

藤岡先生の身体を床へ押さえつける。

「ぐっ……!」

私はそのまま動きを封じた。

そして響さんへ視線を向ける。

「あなたの罪は、償うべきものです」

「響さん」

「ああ、任せろ」

響さんが藤岡先生へ近づく。

カチャリ。

手錠が掛けられた。

「13時23分」

響さんは、藤岡先生を見下ろす。

「藤岡正信。殺人及び窃盗の容疑で逮捕する」

「……」

藤岡先生は、何も言い返せなかった。

事件は――終わった。

私は再び頭を押さえる。

「……っ」

すると、リリアが私の身体をしっかりと支えてくれた。

「お疲れ様、アイリス」

「えぇ……」

私はリリアに身体を預ける。

「しばらく、支えていただけると幸いです」

「もちろん」

「やはり……七つ道具は、精神的にもダメージが大きいようですね……」

「だから無理しちゃダメだって言ってるでしょ」

リリアに小言を言われながら、私は小さく笑った。

そこへ響さんが歩いてくる。

「お疲れさんだな、お二人さん」

そして、いつものように笑う。

「さすがは名探偵ってところか」

「……ありがとうございます」

「お前たちには、また事件についての詳細やら、色々と聞くことがあるだろうが――」

響さんは私を見る。

「今は休んでくれや」

「えぇ」

私は頷いた。

「次にお会いする時には、事件の資料をまとめてお渡しいたします」

「頼んだぜ」

響さんは背を向ける。

そして、片手を上げた。

「じゃあな、名探偵」

「はい。また」

響さんの背中を見送りながら、私は目を閉じる。

こうして――。

結城学園の美術室で起きた殺人事件は、幕を閉じた。

私はまた一つ、事件を解決した。

けれど――。

この時の私は、まだ知らなかった。

この学園には。

今回の事件以上に複雑で――。

そして、私自身の過去へと繋がる事件が待ち受けていることを。

探偵アイリス・ホームズの物語は、まだ始まったばかりだった。

もう少し内容考えられたかも

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