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アイリスの事件簿  作者: 白雪刀花
探偵が進む道
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3/11

美術の世界

さぁ事件の幕開けですアイリスホームズの推理力そしてあるキーホルダーとは


私たちは、悲鳴の聞こえた方へ向かって走った。

そして辿り着いた場所は――美術室。

扉を開けた瞬間、鼻を突く鉄のような臭いがした。

「……!」

美術室の中央。

一人の男子生徒が、血だらけになって倒れていた。

そのすぐ隣には――。

血に濡れた金属バットが転がっている。

一瞬で、状況を理解した。

これは事故なんかじゃない。

――殺人事件だ。

私の目が、鋭くなる。

「リリア!」

「うん!」

「調査を開始します」

「了解!」

リリアはすぐに周囲の生徒たちへ指示を飛ばす。

「生徒の皆さんは美術室の外へ! ここから先には入らないで!」

騒然とする生徒たちを外へ誘導する一方、私は手袋を取り出して装着した。

倒れている男子生徒のもとへしゃがみ込む。

まずは脈。

……ない。

続いて体温を確認する。

「……体も冷たくなっている」

私は遺体を慎重に観察する。

「死亡してから、そこそこの時間が経っていますね」

「そんな……」

周囲から、息を呑む声が聞こえた。

その時だった。

「そこにいるのは誰だ!」

廊下から慌ただしい足音が近づいてくる。

現れたのは一人の男性教師。

美術部顧問――藤岡先生。

美術の指導者として有名で、数々の著名な画家とも交流がある教師だ。

「警察には今、連絡した!」

藤岡先生は倒れている生徒を見て顔をしかめる。

「生徒は全員、教室へ戻りなさい!」

そして私たちへ視線を向けた。

「君たちもそこで何をしている! 早く教室へ戻りなさい!」

しかし――。

私たちは、その言葉を無視した。

今は事件の調査が最優先だ。

「……」

私は現場の状況を確認し続ける。

そして、藤岡先生へ振り返った。

「現在は調査の最中です」

「君……」

「それに、この事件――警察だけでは解決できないかと」

「なに?」

それだけを告げると、私は再び現場へ視線を戻した。

捜査を続ける。

リリアも私の意図を理解している。

しばらくして、リリアが何かに気づいた。

「アイリス?」

「なんです?」

「このバット。指紋検査をしてみるのはどう?」

リリアが血に濡れた金属バットを指差す。

私は即座に答えた。

「意味がありませんよ」

「え?」

「そちらのゴミ箱を見てください」

リリアが視線を向ける。

ゴミ箱の中には、美術で使用する手袋のゴミが捨てられていた。

「手袋のゴミがあるでしょう?」

「……!」

「犯行に使ったのであれば、犯人は当然、指紋が残らないように手袋を使用するはずです」

私はさらに周囲を見渡す。

「それに、あのゴミ袋もです」

「ゴミ袋?」

「美術部が日常的に使用しているものなのでしょう。定期的に補充されているはずです」

私はバットへ視線を戻す。

「このバットから生徒たちの指紋は出るでしょう。ですが――犯人の指紋が出るとは限りません」

「なるほど……」

リリアは納得したように頷いた。

そして、手元の資料を確認する。

「アイリス。被害者の名前が分かったよ」

「お願いします」

「黒崎一輝さん。三年生で、美術部の部長」

リリアは次々と情報を読み上げていく。

「二年生の時にコンクールを受賞していて、美術系大学から推薦も来ているみたい」

「なるほど」

「それと……この美術部なんだけど、少し不思議な点があるの」

「……」

私はリリアを見る。

「部費ですね」

「……さすがね」

リリアは苦笑した。

「その通り。部費の分配が明らかにおかしいの。この美術部に配られている費用が、他の部と比べても少なすぎる」

「やはり」

私は美術室を見渡す。

大量の絵画。

キャンバス。

絵の具。

筆。

そして、制作に必要となる様々な道具。

「コンクールに出品するには、ある程度の費用が必要になります」

「うん」

「その費用を捻出するために――何かを持ち出す必要があった」

「何かって……」

私は美術室に飾られた絵画へ視線を向ける。

「この学園には、数百万円を超える価値を持つ絵画が複数あります」

リリアの表情が変わった。

「まさか……」

「ええ」

私は一枚の絵を見つめながら言った。

「事件の発端は、おそらく部費です」

「さすがアイリス……もうそこまで推理を進めているのね」

その時――。

「お待たせしました!」

廊下から声が響いた。

続いて、複数の警察官が美術室へ入ってくる。

その先頭に立っていたのは――。

一人の女性警察官だった。

「はぁ~……来てみれば、既にお前が調査開始ってか」

響奏(ひびきかなで)。

警察内部でも名の知れたエース刑事。

そして、私とリリアが過去に何度か事件を解決した際、顔を合わせている人物でもある。

「……あら」

私は奏さんへ振り返った。

「響さんでしたか」

「お前以外に誰がこんな現場で勝手に捜査してると思ってんだ」

「既に調査はほぼ終わっていますよ」

私は小さく笑みを浮かべた。

「よし」

奏さんは呆れたように肩をすくめる。

「なら、ある程度の情報と話を聞かせてもらおうか」

そして、私を指差す。

「名探偵様よ」

「ええ。もちろんです」

私は一歩前へ出た。

「この事件は――部費を手に入れるために、この学園に存在する数百万円を超える価値を持つ絵画を売却しようとしたことから始まった事件です」

美術室にいる全員が、私へ注目する。

「犯人は絵画を持ち出そうとした」

「しかし――」

私は倒れている黒崎先輩を見る。

「その現場を黒崎先輩に見つかった」

「そして犯人は、デッサンなどで使用されていた金属バットを手に取った」

「黒崎先輩の後頭部を――何度も殴打した」

室内の空気が重くなる。

「バットから犯人の指紋が出ない理由も簡単です」

私はゴミ箱を指差す。

「犯人は手袋をしていた」

「そして、犯行後にその手袋を処分した」

奏さんが腕を組む。

「そこまでは分かった。だが――」

「ええ」

私は頷く。

「問題は、犯人がどうやって絵画を持ち出そうとしたのか」

私は壁に掛けられた絵へ視線を向ける。

「そこで犯人は、ある方法を使った」

「カモフラージュです」

「……カモフラージュ?」

リリアが呟く。

「本物の絵を持ち出し、その代わりに――本物そっくりの偽物を残した」

奏さんの目が鋭くなる。

「つまり、絵画の偽造か」

「そうです」

私は頷いた。

「しかし、それほど精巧な偽物を描くには、相当な技術が必要です」

そして――。

私は、この美術室にいる人物たちを見渡した。

「技術的には一級品」

「そして、カモフラージュとして本物に似せた絵画を制作できる人物」

一人しかいない。

「この学園で――そんなことができる人物は一人しかいません」

私の視線が、一人の教師へ向く。

「数々の生徒たちに美術の才を教え、美学においてこの学園では右に出る者はいない」

「そして、著名な画家たちとも交流がある人物」

私は、その人物の名前を口にした。

「藤岡先生」

「……」

藤岡先生の表情がわずかに変化する。

「――あなたです」

美術室に沈黙が落ちた。

しかし――。

藤岡先生は焦らなかった。

冷静に、そして慎重に口を開く。

「そんなもの……私になんのメリットがある?」

「……」

「もっと決定的な証拠を出せ」

藤岡先生は私を睨みつける。

「でなければ、私が犯人に繋がるわけがないだろう」

そして、倒れている黒崎先輩へ視線を向ける。

「それに黒崎は、私が育ててきた一級の生徒なんだ」

「そんな大事な教え子を……私が殺すなんて、できるわけがないだろ」

私は黙って藤岡先生を見つめた。

……なるほど。

なかなか慎重ですね。

けれど――。

私は小さく息を吐いた。

「……仕方ありませんね」

そう呟きながら、腰に付けているキーホルダーの一つへ手を伸ばす。

「なら――」

カチャリ。

キーホルダーが、私の手の中で小さく音を立てた。

「これからお見せしましょう」

私は顔を上げる。

そして、藤岡先生を真っ直ぐ見据えた。

「真実を導き出し――犯人を特定する瞬間を」

口元に、僅かな笑みを浮かべる。

「この推理は、既にクライマックスですよ」

――名探偵アイリス・ホームズ。

その推理が、今始まる。

さぁ真実を示す時間です次話に期待を

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