孤高の一匹狼
2話で推理に持っていくため1話では推理が始まる手前で止めます
私たちが通う学園――結城学園。
ここは、国内でも名門と呼ばれる由緒ある高校だ。
一枚で何百万円もの価値がつく絵画を生み出す画家。
プロの世界へ進み、第一線で活躍するスポーツ選手。
様々な分野で才能を開花させた生徒たちを、数多く輩出してきた。
そんな学園の教室で――。
周囲の視線を一身に集める、一人の少女がいた。
「ねえ、あの子だよね?」
「うん。数々の難事件を優雅に解決したっていう……」
「名探偵アイリス・ホームズ」
「しかも噂じゃ、闇組織の人間を追ってるとか……」
……あぁ。
また私の噂ですか。
闇組織の人間を追っている。
それ自体は間違いではない。
むしろ、私が探偵を続けている理由の一つでもある。
けれど――私はそんな周囲の声を気にすることなく、自分の席へ向かった。
まあ、私が人気者ではないのは当然でしょうね。
何せ、入学して最初の自己紹介で――。
私は、クラスメイト全員にこう言い放ったのだから。
*
「アイリス・ホームズです」
教室中の視線が私へ集まる。
私は教壇に立ったまま、淡々と言葉を続けた。
「最初に一つ、言っておきます」
ざわついていた教室が静かになる。
「私は、あなたたちと馴れ合うつもりはありません」
何人かの生徒が目を丸くした。
「私が首席なのも、この状況も……すべて私のシナリオ通りです」
教室の空気が、少しずつ変わっていく。
けれど、私は構わず続けた。
「私は事件を解決するために探偵をしています」
そして、最後にこう付け加えた。
「もし困ったことや、事件性のある出来事があれば、私を尋ねてください」
一拍置いて――。
「ですが、それ以外であなた方と子供のように馴れ合うつもりはありませんので」
そう言って、私は教壇を降りた。
……今思えば。
もう少し言い方というものがあったのかもしれません。
しかし、私は後悔していない。
その結果――。
私の周囲には、巨大な壁ができあがった。
私の容姿に惹かれて近づいてきた男子生徒もいた。
けれど、彼らが私に向けてきた軽い言葉は、私の言葉責めによって次々と心を折られていった。
まだ入学して数週間。
それなのに――。
私の周囲には、誰も近づかなくなっていた。
まさに、孤高の一匹狼。
……まあ、それでいい。
私は友達を作るために、この学園へ来たわけではないのだから。
そんな私のもとへ――。
たった一人だけ。
何の躊躇もなく近づいてくる少女がいた。
「アイリス、これ。今日のお弁当ね」
「リリア」
彼女の名前は、リリア・ノートン。
私の幼馴染であり――。
私の助手。
そして、私の身の回りの世話までしてくれる、完璧なサポーターでもある。
「いつもありがとうございます。助かります」
「はいはい」
リリアは呆れたように私を見る。
「アイリスは私がいないと紅茶しか飲まないでしょ」
「……」
「考え始めると、すぐ食事を抜くし」
「話し始めると、私の文句しか言いませんね。リリアは」
「誰のために言ってると思ってるのよ!」
そんなやり取りをしていると、リリアがふと私を睨んだ。
そして――。
「……アイリス」
「なんです?」
「私、昨日言ったよね?」
嫌な予感がする。
「何をです?」
「――あの山積みの本、片付けてって」
「……」
「今日、事務所に行ったらどうなってたと思う?」
「さあ?」
「昨日のまま」
「……」
「それどころか、昨日より酷い状況になってた」
「…………」
「なんで?」
リリアの目が笑っていない。
私は少しだけ視線を逸らした。
「さあ……何故でしょう」
そして、真顔で言う。
「これは私にも解決できない難事件のようですね……」
「ふざけないで!」
リリアの声が教室に響く。
そう。
アイリス・ホームズ。
私は、推理なら何でもできる。
難事件も。
複雑な暗号も。
人間の心理を読むことも。
けれど――。
家事全般。
それだけは、壊滅的だった。
特に私が何かに没頭すると、周囲のことが一切見えなくなる。
気づけば机の上には本が積み上がり、資料が散乱し、飲み終わった紅茶のカップが放置されている。
だからリリアは、常に私のそばにいる。
助手として。
そして――私の生活を維持するために。
「今日、片付けるからね!」
「気が向いたらします」
「それ、一昨日も聞いた」
「……」
「いいから、今日するの。分かった?」
私は黙り込む。
リリアがじっと私を見る。
「い・い・わ・ね?」
「……」
数秒の沈黙。
私は小さくため息をついた。
「……わかりましたわ」
「よし」
ようやくリリアが満足そうに笑った。
そんなやり取りをしながら、私たちは昼食を取っていた。
――その時だった。
「キャーーーーーーッ!」
突然、女子生徒の悲鳴が校内に響き渡った。
私は箸を止める。
リリアも同時に顔を上げた。
私たちは互いの顔を見る。
言葉は必要なかった。
私はすぐに立ち上がった。
「リリア」
「うん!」
私たちは悲鳴の聞こえた方向へ駆け出す。
そして私は、口元に小さな笑みを浮かべた。
これは――。
結城学園で、私が解決することになる最初の事件。
そして。
この事件をきっかけに、私たちは学園に潜む様々な謎へと巻き込まれていくことになる。
私は走りながら、リリアへ告げた。
「行きますよ、リリア」
「うん!」
そして――。
「推理の時間です」
この後の展開めっちゃ楽しみです




