第9話 『脱出という無理ゲー』
リゼの「外に出たい」という言葉。
軽く受け流せる話じゃなかった。
「……で、どうするんだよ」
俺は看守長を睨んだ。
「どうもしないわよ?」
「お前な」
「現実を知るのも大事でしょ」
肩をすくめる。
「この島、そんなにヤバいのか?」
「見せてあげる」
「やめろ嫌な予感しかしない」
「来なさい」
⸻
連れてこられたのは——外壁。
高い。
いや、高すぎる。
「……は?」
石の壁が、空まで続いている。
「これが第一層」
「第一って何だよ」
「外に出るには、これを越える必要がある」
「無理だろ」
「でしょ?」
あっさり言うな。
⸻
「で、終わりじゃないわ」
看守長は指をさした。
壁の上。
見張り塔。
複数。
そして——
「……あれ何」
光っている。
何かが。
「あれは結界装置」
「結界?」
「この島全体を覆ってる」
「……ファンタジー全開かよ」
「触れたらどうなると思う?」
「……」
「試してみる?」
「やめろ!」
笑っている。
絶対試させる気だっただろ。
⸻
「さらに」
看守長は続ける。
「外は海よ」
「それは知ってる」
「普通の海じゃないけどね」
「どういう意味だよ」
「魔物がいる」
「はい詰み」
即終了だった。
「泳いで脱出は?」
「途中で食べられる」
「無理ゲーすぎるだろ!!」
⸻
「まとめるわね」
指を折りながら言う。
「高い壁」
「結界」
「監視塔」
「魔物の海」
「……」
「脱出成功率、ほぼゼロ」
「ゼロって言えよもう」
「夢はある方がいいでしょ?」
「そのレベルじゃねぇよ!」
⸻
沈黙。
現実を突きつけられた。
無理だ。
どう考えても。
「……やっぱ無理か」
思わず呟いた。
「そうね」
看守長はあっさり頷く。
「普通なら」
「普通じゃない方法があるのか?」
「さぁ?」
「あるんだな?」
ニヤッと笑う。
こいつ絶対何か知ってる。
⸻
「ただ」
看守長は少しだけ真面目な顔になる。
「一つだけ可能性があるとすれば」
「……なんだよ」
「内部からの突破」
「内部?」
「鍵は中にあるってこと」
「……分かりにくい」
「考えなさい」
「ヒント少なすぎるだろ」
だが——
完全にゼロじゃない。
それだけは分かった。
⸻
その帰り。
俺はリゼのところに寄った。
「……どうだった?」
不安そうな顔。
そりゃそうだ。
「……無理ゲー」
「そっか」
小さく笑う。
でも——
落ち込んではいなかった。
「でもね」
「ん?」
「来てくれたでしょ」
「まぁな」
「それだけで十分」
「いやよくないだろ」
「ふふ」
笑う。
強いなこいつ。
「……一応な」
「?」
「ゼロじゃないっぽい」
「え?」
「可能性はあるらしい」
「ほんとに!?」
顔が一気に明るくなる。
「ただし——」
「うん」
「めちゃくちゃ無理ゲー」
「それでもいい」
即答だった。
「少しでもあるなら」
「……」
「やりたい」
まっすぐすぎる。
逃げ場ないなこれ。
「……分かったよ」
「うん」
「やるなら本気でやる」
「……!」
手を取られる。
ぎゅっと。
「ありがとう」
「だからまだ何もしてない」
「それでも」
笑う。
やっぱり——
ずるい笑顔だ。
⸻
その時。
「……危険です」
騎士の声。
「分かってるって」
「分かってません」
「なんでだよ」
「この流れ、絶対無茶します」
「バレてるな」
「止めます」
「無理だな」
「……」
騎士は少しだけ黙った。
そして——
「……なら」
「ん?」
「私も同行します」
「え?」
「監視として」
「それ絶対違うだろ」
「職務です」
「絶対違う」
⸻
「いいじゃない」
看守長が言う。
「面白くなってきたし」
「お前は黙ってろって!」
「研究対象が動くと楽しいのよ」
「マジで研究者だな」
⸻
こうして。
無理ゲーと分かっていながら——
俺たちは動き始めた。
この監獄島から。
外へ出るために。




