第10話 『洗濯場と濡れたヒント』
「今日は“生活観察”よ」
朝一番、看守長に呼び出された。
「そのワードもう信用してない」
「安心しなさい、今日は健全よ」
「それが一番怪しい」
連れてこられたのは——
「……洗濯場?」
大きな石の水槽が並ぶ、屋外のスペース。
洗濯物が干されている。
そして——
そこにも、当然のように女性たち。
「なんでここに俺連れてきた」
「生活動線の確認」
「ほんとか?」
「半分くらいは」
「残り半分は?」
「面白そうだから」
「やっぱりな」
⸻
「ねぇ看守長〜」
奥から声。
「その人、例の?」
「ええ、そうよ」
やめろその言い方。
数人の女性が近づいてくる。
「へぇ〜これが」
「ほんとに男なんだ」
「近くで見ていい?」
「ダメだって言ってるだろ!」
だがもう遅い。
囲まれる。
距離が近い。
いつも通りだ。
「ちょっと離れろ!」
「なんで?」
「なんででも!」
⸻
「……やっぱり危険です」
騎士が間に入る。
「距離を保ってください」
「またそれか!」
「大事なことです」
だがその隙を縫って——
「こっち来て」
腕を引かれた。
「え?」
リゼだった。
「少しだけ離れよう」
「助かる……!」
人の少ない場所へ移動する。
やっと呼吸できる。
「大丈夫?」
「なんとか」
「ふふ、人気者だね」
「嬉しくねぇよ」
⸻
「ねぇ」
リゼが水槽を覗き込む。
「これ、どうやって動いてるのかな」
「動いてる?」
よく見ると——
水が、自然に流れている。
ポンプも何もないのに。
「ほんとだな」
「魔法かな」
「多分な」
その時。
リゼが足を滑らせた。
「っ!」
「危ない!」
反射的に腕を掴む。
ぐいっと引き寄せる。
——近い。
めちゃくちゃ近い。
「……あ」
「……」
顔が近い。
水滴が頬にかかる。
息がかかる距離。
「……離れる?」
「……離れろ」
「だよね」
でも——
一瞬だけ、動かなかった。
⸻
「何してるんですか」
低い声。
振り向くと、騎士。
「違うこれは事故だ!」
「……事故にしては距離が近すぎます」
「仕方ないだろ!」
「……」
じっと見てくる。
不機嫌そうだ。
「……私も確認します」
「何を!?」
ぐいっと近づく。
「だから近いって!!」
⸻
「いいデータね」
さらに看守長。
「全員集まるな!!」
「反応が面白いのよ」
「見世物じゃねぇ!」
⸻
その時——
ふと気づいた。
「……なぁ」
「何?」
リゼに小声で聞く。
「この水、ずっと流れてるよな」
「うん」
「止まったことある?」
「ないと思う」
「……」
つまり——
どこかに“制御してる場所”がある。
水の流れを管理してる何か。
「どうしたの?」
「いや……ちょっとな」
頭の中で、何かが繋がる。
小さいけど——
確実に“ヒント”だった。
⸻
「……やっぱり危険です」
騎士が呟く。
「何がだよ」
「この人といると」
「だからどこが!」
「思考が変な方向にいきます」
「知らねぇよ!」
⸻
その日。
俺は一つ学んだ。
この島は——
ただ閉じ込めるだけの場所じゃない。
ちゃんと“動いている”。
水も。
仕組みも。
そして——
俺たちの状況も。
少しずつ、変わり始めていた。




