第11話 『水路の先にあるもの』
「……あそこ、怪しくないか」
俺は小声で言った。
洗濯場の端。
石壁の隙間から、水が流れ込んでいる。
「確かに」
リゼが頷く。
「でも立入禁止っぽい」
「だよな」
縄が張られている。
明らかに“関係者以外立ち入り禁止”。
「どうするの?」
「……どうするも何も」
俺はため息をついた。
「入るしかないだろ」
「ふふ、やっぱり」
「止めろその楽しそうな顔」
⸻
「無謀です」
横から騎士の声。
「100%バレます」
「0%じゃないならいける」
「理屈がおかしいです」
「でも」
リゼが言う。
「やるんでしょ?」
「……やる」
即答だった。
「なら、私も行く」
「いやお前は危な——」
「一人で行く方が危ないよ?」
「……それはそう」
ぐうの音も出ない。
⸻
「面白そうね」
後ろから声。
看守長だった。
「お前は来るな!」
「見てるだけよ」
「一番信用できないやつ!」
だが——
止めても無駄だと分かっている。
「……勝手にしろ」
「ええ、勝手にするわ」
ニヤリと笑う。
絶対楽しんでる。
⸻
タイミングを見て——
縄をくぐる。
中に入る。
ひんやりとした空気。
「……雰囲気変わったな」
「うん」
リゼが小さく頷く。
狭い通路。
足元を水が流れている。
カツン、と足音が響く。
「……静かに」
騎士が囁く。
「見回りが来る可能性があります」
「マジかよ」
「当たり前です」
⸻
少し進むと——
分岐。
水の流れが二つに分かれている。
「どっちだ」
「流れが強い方かな」
リゼが言う。
「制御してるなら、大きい流れの先にありそう」
「なるほど」
「意外と頭いいだろ」
「自分で言うな」
⸻
進む。
さらに奥へ。
そして——
「……あれ」
扉があった。
鉄製。
そして——
鍵がかかっていない。
「……ガバすぎない?」
「それとも——」
リゼが呟く。
「中が問題なのかも」
「やめろ怖い」
⸻
ゆっくり開ける。
ギィ、と音が鳴る。
中は——
「……なんだこれ」
広い空間。
中央に大きな装置。
水が流れ込み、回転している。
まるで——
巨大なポンプのような。
「すごい……」
リゼが目を輝かせる。
「これが水を動かしてるの?」
「多分な」
近づく。
装置を観察する。
複雑な構造。
だが——
「……これ、止められそうじゃね?」
「え?」
よく見ると、制御レバーのようなものがある。
「これ動かしたら——」
「待ってください」
騎士が止める。
「不用意に触るのは危険です」
「でもさ」
「最悪、全体が止まります」
「それって——」
「騒ぎになります」
「……」
つまり。
バレる。
確実に。
⸻
「でも」
リゼが言う。
「使い方が分かれば」
「応用できるな」
「うん」
脱出に使える可能性。
確実にある。
⸻
その時——
「……誰か来る」
騎士が呟いた。
「マジか」
足音。
遠くから。
でも確実に近づいている。
「隠れて」
即座に動く。
装置の影へ。
息を殺す。
足音が近づく。
カツン、カツン——
⸻
「……異常なし」
低い声。
見回りだ。
数秒。
いや、数十秒。
長い。
めちゃくちゃ長い。
⸻
やがて——
足音が遠ざかる。
「……はぁ」
一斉に息を吐いた。
「心臓止まるかと思った」
「止まってません」
「そういう問題じゃない!」
⸻
「でも」
リゼが笑う。
「来てよかったね」
「ああ」
間違いない。
これは——
“当たり”だ。
「……使える」
「うん」
「やり方考えれば」
「いけるかも」
小さく頷く。
⸻
その時。
「ほんとにやる気なのね」
後ろから声。
「うわぁ!!」
振り向くと——
看守長。
「驚きすぎよ」
「お前心臓に悪いわ!!」
「いいデータね」
「だからデータにするな!」
⸻
その日。
俺たちは初めて——
“脱出に繋がる何か”を見つけた。
まだ小さい。
でも確実な一歩。
そして——
引き返せない一歩でもあった。




