第7話 『距離の取り合いと見えない線引き』
その日の夜。
俺は——囲まれていた。
「……なんでこうなる」
右に銀髪の騎士。
左に黒髪の看守長。
目の前に——リゼ。
三方向からの視線。
逃げ場ゼロ。
「定期観察よ」
看守長が言う。
「合同でやる必要ある?」
「効率がいいから」
「絶対違うだろ」
騎士は腕を組んだまま、じっと俺を見ている。
「……距離を保ってください」
「誰に言ってんの?」
リゼがすぐ返す。
「この人に決まってるでしょ」
「私は問題ないよ?」
「問題あります」
「どこが?」
「全部です」
会話が噛み合ってない。
そして——
全員、距離が近い。
「ちょっと全員離れろ」
「なんで?」
「なんでって!」
リゼが一歩近づく。
「こうしてると安心するって言ったよね?」
「言ったけど今は状況が違う!」
さらに、騎士が前に出る。
「それは私も同じです」
「お前もか!」
「見ていないと落ち着きません」
「なんなんだこの島は!」
⸻
「じゃあこうしましょう」
看守長が言った。
「順番制」
「は?」
「一人ずつ観察するの」
「それのどこが解決なんだよ!」
「公平でしょ?」
「違うだろ!」
だが二人は少し考え——
「……合理的です」
「まぁ、それなら」
「乗るな!!」
勝手に決まった。
⸻
「まずは私から」
騎士が一歩前に出る。
「え、ちょ」
「大丈夫です」
「何が!?」
ぐいっと腕を掴まれる。
距離が近い。
また近い。
「……確認します」
「だから何を!」
「昨日より、慣れているかどうか」
「そんなの分かるか!」
だが騎士は真剣だった。
じっと見つめてくる。
距離、近い。
めちゃくちゃ近い。
「……どうですか」
「何がだよ!」
「落ち着きませんか」
「落ち着くわけないだろ!」
「そうですか……」
少しだけ残念そうな顔。
なんだその反応。
「じゃあ次は私」
リゼがすぐ入ってくる。
「おい順番早いな!」
手を取られる。
自然に。
当たり前のように。
「こうするのが一番いいよね」
「何がだよ」
「ほら」
ぐっと近づく。
さっきよりも近い。
「……おい」
「ん?」
「近い」
「だめ?」
「だめじゃないけど!」
いやダメだろ。
でも——
嫌じゃないのがまずい。
「……やっぱり安心する」
小さく呟く。
そのまま、少しだけ寄りかかってくる。
「ちょっと待て」
「静かに」
「なんで!?」
「今いいところだから」
「何の!?」
⸻
「最後は私ね」
看守長が近づく。
「いやお前は一番ダメなやつだろ」
「失礼ね」
そう言いながら——
耳元に近づく。
「ちゃんと耐えられるかしら」
「何に!?」
「この状況に」
「もう無理なんだよ!!」
くすっと笑う。
「顔、真っ赤よ?」
「そりゃそうなるわ!」
「可愛い反応」
「やめろ!」
⸻
三人の距離が、また詰まる。
完全に囲まれた。
「……結論」
騎士が言う。
「この距離は危険です」
「今さら!?」
「でも離れたくない」
リゼが言う。
「それもどうなんだよ!」
「つまり——」
看守長がまとめる。
「このままでいいってことね」
「よくねぇよ!!」
⸻
その日。
俺は確信した。
この島では——
“距離”という概念が壊れている。
そして——
その中心にいるのは、間違いなく俺だった。




