第6話 『再訪と鎖越しの距離』
その日、俺は落ち着かなかった。
「……なんでこんなに気になるんだよ」
頭に浮かぶのは——
鎖に繋がれた少女。
リゼの顔だった。
「行きたいなら行けば?」
背後から声。
振り向くと、看守長がいた。
「……顔に出てた?」
「丸出しよ」
「マジか」
「特別に許可してあげる」
「条件は?」
「あとで“調査”に付き合うこと」
「絶対ロクでもないやつだろ」
「さぁ?」
にやりと笑う。
……でも。
「……行く」
気づけば、即答していた。
⸻
再び、地下区画。
あの重い扉の前。
ガチャリ。
扉が開く。
「……来た」
中で、リゼが微笑んだ。
少しだけ嬉しそうに。
「ちゃんと来てくれたんだ」
「約束したからな」
「ふふ、真面目」
鎖が揺れる。
カチャリ、と小さな音。
「今日はね」
リゼは言った。
「少しだけ近くに来てほしい」
「……鎖、大丈夫なのか?」
「ここまでは来れるよ」
一歩。
また一歩。
ゆっくりと距離を詰める。
そして——
手が届く位置で止まった。
「……ほんとだ」
「でしょ?」
リゼは手を差し出す。
昨日より、自然に。
「いい?」
「ああ」
俺も手を出す。
触れる。
指先が絡む。
温かい。
「……やっぱり変な感じ」
リゼが呟く。
「何が?」
「安心する」
「……」
「ここだとね」
少しだけ視線を落とす。
「みんな怖がるか、遠ざけるかだから」
「……そりゃあな」
“特別すぎる”存在。
簡単に近づけるものじゃない。
「でも君は違う」
「まぁ……俺も似たようなもんだしな」
「うん」
小さく頷く。
「だからかな」
ぎゅっと、手に力が入る。
「離したくないって思う」
「……おい」
「だめ?」
見上げてくる。
距離が近い。
かなり近い。
昨日より明らかに。
「……だめって言っても離さないだろ」
「バレた?」
「顔に出てる」
くすっと笑う。
そのまま——
さらに一歩。
距離が縮まる。
「ちょっと待て」
「何?」
「近い」
「これくらい普通だよ?」
「この島の“普通”信用してないんだよ!」
「でも」
リゼは首をかしげる。
「こうしてると、落ち着く」
「……」
言葉に詰まる。
なんだこれ。
ラッキースケベっていうより——
普通にドキドキするやつだ。
⸻
その時。
「……何してるんですか」
低い声。
振り向くと——
銀髪の騎士が立っていた。
「え、なんでいるんだよ」
「見回りです」
明らかに不機嫌だった。
視線は——
俺たちの“繋いだ手”。
「離れてください」
「え?」
「その距離は危険です」
「何が!?」
「色々とです」
いや分からん。
だが騎士は近づいてくる。
ズイッと。
「……」
リゼは手を離さない。
むしろ——
少しだけ強く握る。
「……嫌です」
「え?」
「今、いいところなの」
「いいところって何!?」
空気がピリつく。
なんだこれ。
さっきまでの空気どこいった。
「……あなたこそ、何しに来たの?」
リゼの声が少し変わる。
柔らかさの中に、棘。
「職務です」
「へぇ」
「危険管理の一環として——」
「この人が危険に見える?」
「それは……」
騎士が言葉に詰まる。
そして俺を見る。
数秒。
視線が合う。
「……危険です」
「だからどこが!?」
「見てると落ち着かないので危険です」
「それただの個人の問題だろ!!」
⸻
沈黙。
そして——
看守長の声。
「面白いことになってるわね」
「見てたのかよ!」
「もちろん」
全員の視線が集まる。
看守長は満足そうに頷いた。
「いいデータが取れそう」
「だからデータにするな!!」
⸻
その日。
俺は理解した。
この島の問題は——
距離感だけじゃない。
感情も、距離も、
全部が一気に近づきすぎる。
そしてそれは——
確実に、何かを壊し始めていた。




