第5話 『鎖の少女と王女の秘密』
翌日。
俺はまた連れてこられていた。
「……ここは?」
薄暗い地下通路。
他の場所より、明らかに空気が重い。
「特別区画よ」
看守長が答える。
「危険度の高い囚人がいる場所」
「……そんなとこに俺連れてきて大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないかもね」
「やめろ」
軽く言うな。
だが看守長は歩みを止めない。
やがて——
ひとつの扉の前で立ち止まった。
他と違う。
分厚い鉄扉。
複数の封印。
「ここよ」
「……誰がいるんだ?」
看守長は少しだけ間を置いて言った。
「“元王女”」
「……は?」
ガチャリ。
扉が開いた。
⸻
中は、想像と違った。
牢屋というより——
静かな部屋。
そして中央に——
一人の少女がいた。
長い金髪。
白い肌。
そして、手足に重い鎖。
「……誰?」
小さな声。
透き通るような目が、俺を見た。
「男よ」
看守長が言う。
その瞬間——
少女の目が、大きく見開かれた。
「……嘘」
震える声。
信じられない、という顔。
「ほんとに……?」
「ほんとだよ」
思わず答えた。
なぜか——
この子には、嘘をつきたくなかった。
少女はゆっくり立ち上がる。
鎖が鳴る。
カチャリ、と。
そして——
一歩、近づいた。
「……触っていい?」
「いやその流れやめろ」
「確認したいの」
真剣な顔だった。
騎士とも、看守長とも違う。
もっと純粋な——
“知らないものを見る目”。
「……軽くだぞ?」
俺が言うと、
少女はそっと手を伸ばした。
指先が触れる。
「……あったかい」
小さく呟いた。
「ほんとに……生きてる」
「幽霊じゃないからな」
「ふふ」
初めて笑った。
その笑顔は——
この場所には似合わないくらい、綺麗だった。
⸻
「ねぇ」
「ん?」
「外の世界って、どんな感じ?」
「……」
言葉に詰まる。
どう答えればいいのか分からない。
「男も、女も、普通にいるの?」
「ああ」
「一緒に暮らしてるの?」
「そうだな」
「……そっか」
少女は目を伏せた。
「いいなぁ」
「……」
「私、知らないんだ」
鎖が揺れる。
「ここから出たことないから」
「……なんでそんなことになってるんだ?」
看守長が答えた。
「国家機密よ」
「またそれかよ」
「この子はね」
少しだけ、声が低くなる。
「“特別すぎた”の」
「特別?」
「そう」
少女は微笑んだ。
どこか諦めたように。
「私はね」
一瞬、間を置いて——
「“男を生み出せる可能性がある存在”なの」
「……は?」
頭が追いつかない。
「だから隔離されてるの」
さらっと言う。
だが内容は重すぎる。
「じゃあ……お前は」
「うん」
少女は俺を見る。
「あなたと同じで」
「この世界の“バグ”」
⸻
沈黙。
重い空気。
だが——
「でもね」
少女は笑った。
「ちょっと嬉しい」
「……何が?」
「初めて、同じ側の人に会えた」
「……」
その言葉は、妙に刺さった。
「名前、教えて?」
「……ああ」
少し迷ってから、答える。
「俺は——」
「私はリゼ」
先に名乗られた。
「よろしくね」
「ああ……よろしく」
手を差し出される。
鎖のついた手。
それでも——
ちゃんと“握手”だった。
⸻
その時。
ぐいっと腕を引かれた。
「時間よ」
看守長だった。
「もう終わり」
「え、ちょっと待て」
「また来るから」
リゼは言った。
少しだけ寂しそうに。
「絶対だよ?」
「……ああ」
自然と頷いていた。
⸻
扉が閉まる。
ガチャリ、と重い音。
「……なんだよ今の」
思わず呟く。
「知ったでしょ?」
看守長が言う。
「この島の“本当の意味”」
「……」
ただの監獄じゃない。
ただの偶然でもない。
俺がここにいる理由。
そして——
あの少女。
⸻
これはもう、
ただのラブコメじゃ終わらない。
そんな予感がした。




