第33話 『男が消えた世界』
倉庫街の奥。
古びたランプの灯りだけが揺れている。
「……男が少ない理由」
俺はカインを見る。
「知ってるんだな」
「知ってる」
軽い口調。
でも目は笑ってなかった。
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「先に言っとく」
カインが壁にもたれる。
「聞いたら戻れないぞ」
「今さらだろ」
「それもそうか」
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リゼが小さく聞く。
「……外って」
「そんなに変なの?」
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カインは少しだけ黙った。
そして——
「この世界な」
静かに言う。
「昔は普通だったんだよ」
「……普通?」
「男女比も」
「街も」
「国も」
「全部な」
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「でも、ある時から壊れた」
「何が起きた」
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「“魔力汚染”」
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聞いたことない単語だった。
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「空気中の魔力濃度が、急激に変異した」
「……」
「原因は不明」
「隕石説」
「実験事故説」
「神話級存在の覚醒説」
「色々ある」
「……」
「でも結果だけは同じだった」
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「男が適応できなかった」
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空気が止まる。
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「……は?」
「正確には」
カインは指を立てる。
「“男の魔力回路が壊れやすかった”」
「……」
「発狂」
「暴走」
「突然変異」
「死亡」
「症状は様々」
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「結果」
「男は激減した」
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リゼが小さく息を呑む。
騎士も黙っている。
看守長だけが静かだった。
知ってた顔だ。
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「じゃあ俺は」
喉が少し乾く。
「なんで平気なんだ」
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カインが笑った。
「そこ」
「?」
「だから監獄島がある」
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「……」
「適応個体」
「特異個体」
「観察対象」
「呼び方は色々」
「でもやってることは同じ」
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「“生き残れる男”の研究」
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沈黙。
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「……ふざけんな」
自然と声が漏れた。
「まぁそう思うよな」
カインは淡々としている。
「でも世界側は必死なんだよ」
「必死?」
「男が減りすぎた」
「国家維持も」
「出生率も」
「魔力技術も」
「全部崩れかけた」
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「だから探した」
「壊れない男を」
「適応する男を」
「……それが俺?」
「たぶんな」
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頭が痛い。
情報量が多すぎる。
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「……リゼたちは」
俺は呟く。
「その研究対象だったのか」
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「半分正解」
カインが言う。
「リゼみたいなタイプは“観測側”だ」
「観測?」
「適応個体と共鳴しやすい」
「……」
「だから監獄島では価値が高い」
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リゼが少し俯く。
「……だから」
「追われてる」
「そう」
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「……最低」
リゼが小さく言った。
初めて聞く声だった。
怒ってる。
本気で。
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「まぁな」
カインは否定しない。
「でももっと最低なのは——」
「?」
「外の世界の方」
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「……どういう意味だ」
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「男が少ないってことは」
カインが言う。
「奪い合いが起きる」
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空気が少し冷えた。
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「国」
「組織」
「研究機関」
「貴族」
「企業」
「全部、“適応男”を欲しがる」
「……」
「特にお前みたいなのはな」
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「……俺?」
「監獄島から脱出した時点でヤバい」
「なんで」
「生存能力が証明されたから」
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背筋が寒くなる。
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「つまり」
騎士が低く言う。
「追跡部隊以外にも狙われる可能性がある」
「大アリ」
カインは即答した。
「むしろここからが本番」
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「……最悪だな」
俺が呟く。
「だから言ったろ」
カインが笑う。
「監獄島の方が平和だったって」
「笑えねぇよ」
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沈黙。
重い。
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でも。
その時。
「……それでも」
リゼが言った。
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全員が見る。
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「私は」
小さく。
でもはっきり。
「外へ来れてよかった」
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「……リゼ」
「怖いよ?」
「うん」
「でも」
空を見る。
遠くを。
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「知らないまま閉じ込められるより」
「今の方がいい」
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静かな声だった。
でも——
強かった。
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「……そうか」
俺は少し笑う。
「なら、やること決まったな」
「?」
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「逃げ切る」
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看守長が吹き出した。
「シンプルねぇ」
「シンプルが一番だろ」
「嫌いじゃないわ」
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カインも笑う。
「いいね」
「そういうの」
「ただ——」
少しだけ真顔になる。
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「追手、もう来てるぞ」
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次の瞬間。
外から爆音。
ドォン!!
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「見つけました!!」
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追跡部隊の声。
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休む時間は——
まだない。




