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第32話 『外の世界の男』

 倉庫街の奥。


 薄暗い灯りの中に立っていたのは——


 一人の男だった。



「……」


 空気が変わる。


 今までとは違う緊張。



 男は二十代後半くらい。


 黒髪。


 ラフな格好。


 壁にもたれながら、こちらを見ている。



「へぇ」


 男は口角を上げた。


「マジで男いるんだな」


「……」


 その視線が俺に向く。


 品定めみたいに。


「珍しい」



「お前誰だ」


 俺が聞く。


「通りすがり」


「絶対違うだろ」


「まぁそうだな」


 あっさり認めた。



「その反応」


 男が笑う。


「追跡部隊に追われてる?」


「……」


「図星か」



 騎士が前へ出る。


「下がってください」


「怖い怖い」


 男は両手を軽く上げた。


「敵じゃない」


「信用できません」


「だろうな」



「でも」


 男は視線を少し横へ向ける。


 リゼ。


 看守長。


 騎士。


「その組み合わせは目立つ」


「……」


「しかも監獄側の匂いするし」



 看守長の目が細くなる。


「……何者?」


「情報屋」


「うわ、胡散臭い」


「ひどいな」



「名前は?」


 俺が聞く。


「カイン」


「本名?」


「さぁ?」


「怪しすぎるだろ」



 カインは少し笑ってから、俺を見る。


「で?」


「何だよ」


「なんで追われてる」


「……」


「監獄島絡み?」



 一瞬。


 空気が止まった。



「お」


 カインが笑う。


「その顔、正解か」


「……お前」


 俺は睨む。


「どこまで知ってる」



「そこそこ」


 軽く答える。


「監獄島」


「逃亡者」


「追跡部隊」


「あと——」


 少しだけ目を細めた。


「“特別個体”」



 リゼの肩が揺れる。



「……お前、誰だ」


 今度は低い声で聞いた。



「だから情報屋だって」


「それだけじゃないだろ」


「まぁな」


 壁から体を起こす。



「一応、元・研究側」


「……!」



 騎士が剣に手をかけた。


「警戒してください」


「待て待て」


 カインが笑う。


「今は関係ない」


「“今は”?」


「抜けたんだよ」


「……」


「嫌になって」



 看守長がじっと見ている。


「……本当っぽいわね」


「分かるのか?」


「目」


「目?」


「研究側の人間って、だいたい死んでる目してるのよ」


「偏見強いな」


「事実よ」



「で?」


 カインが言う。


「これからどうする」


「……」


 考えてなかった。


 逃げることしか。



「まぁそうなるよな」


 カインが苦笑する。


「逃げた直後って、だいたい目的地ないし」


「……うるせぇ」


「図星か」



「なら提案」


「?」


「隠れ家、使う?」



 沈黙。



「怪しい」


 騎士が即答。


「でしょ?」


 カインが笑う。


「でも他にある?」


「……」


 ない。



「追跡部隊は街を封鎖する」


 カインが言う。


「普通に動けば捕まる」


「……」


「しかも」


 ちらっとリゼを見る。


「その子、かなり重要だろ」



「……なんで分かる」


「見れば分かる」


「何が」


「周囲の反応」


 淡々としていた。


「監獄側が本気出す対象って、大体決まってる」



 カインは少しだけ真面目な顔になる。


「外、思ってるよりヤバいぞ」


「……」


「監獄島だけが異常なんじゃない」


「どういう意味だ」



「男が少ない理由」


 カインが言った。


「知りたいか?」



 空気が止まる。



 今まで誰もちゃんと話さなかった。


 この世界の“根本”。



「……知ってるのか」


 俺が聞く。



 カインは少しだけ笑った。


「まぁな」



「だから言ったろ」


「外は——」



「監獄島より、ずっとヤバいって」

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