第31話 『街中逃走』
店の空気が、一瞬で凍った。
「この辺りで怪しい四人組を——」
黒いコートの女。
追跡部隊。
完全にこっちを探している。
⸻
「……」
誰も動かない。
動けない。
⸻
「おい」
店主が小声で言った。
「兄ちゃんら」
「……」
「知り合いか?」
⸻
どう答える。
否定?
誤魔化す?
⸻
「違います」
騎士が即答した。
表情一つ変えずに。
「私たちは旅人です」
「……」
追跡部隊の女が視線を向ける。
鋭い。
完全に疑ってる目だ。
⸻
「旅人にしては」
女が言う。
「随分と慌てているようですが」
「気のせいでは?」
騎士、強い。
全く顔に出てない。
⸻
「……」
女の視線が移動する。
俺。
看守長。
そして——
リゼ。
⸻
「……あなた」
リゼがぴくっと肩を震わせた。
「顔を見せてください」
⸻
まずい。
完全にロックオンされてる。
⸻
「……やばいな」
俺が小さく呟く。
「ええ」
看守長が笑った。
なんで笑ってんだこいつ。
⸻
「三」
「は?」
「二」
「おい待て」
「一」
⸻
「走るわよ!!」
「やっぱりかぁ!!」
⸻
ガタンッ!!
看守長が机を蹴り飛ばす。
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
店内が一気に混乱。
⸻
「止まれ!」
追跡部隊が動く。
「止まるか!!」
⸻
店を飛び出す。
夜の街。
石畳。
人混み。
⸻
「右です!」
騎士が先導する。
「細道へ!」
「了解!」
⸻
「待て!!」
後ろから追跡の声。
速い。
かなり速い。
「マジでしつこいな!?」
「仕事熱心なのよ!」
「嬉しくねぇ!」
⸻
角を曲がる。
狭い路地。
洗濯物。
積まれた木箱。
⸻
「リゼ!」
「うん!」
息は上がってる。
でも走れてる。
⸻
「前!」
騎士が叫ぶ。
「行き止まりです!」
「は!?」
⸻
壁。
完全に壁。
「終わった!?」
⸻
「終わってないわよ」
看守長が笑う。
壁を蹴る。
ガコン。
⸻
壁の一部が開いた。
「なんでだよ!!」
「裏路地は詳しいの」
「万能すぎるだろ!!」
⸻
「早く!」
中へ飛び込む。
暗い通路。
細い。
「……どこだここ」
「古い排水路」
「また水路かよ」
「縁があるわね」
⸻
後ろで声。
「逃がすな!」
「入ってきます!」
騎士が振り返る。
「追いつかれる!」
⸻
「なら——」
看守長が笑う。
嫌な予感。
「派手にいくわよ」
「何する気だ!?」
⸻
次の瞬間。
バチッ!!
看守長の指先から光。
「え」
⸻
ドォォォン!!
⸻
通路が崩れた。
「うおおおっ!?」
「ちょ、おま——」
「走って!!」
⸻
土煙。
崩落音。
追跡部隊の声。
「くっ……!」
「通路が——!」
⸻
「……魔法使えたのか」
俺が呆然と呟く。
「言ってなかった?」
「聞いてねぇよ!!」
⸻
「万能すぎます」
騎士まで引いていた。
「褒め言葉ね」
「違います」
⸻
走る。
さらに奥へ。
やがて——
出口の光。
⸻
外へ飛び出す。
「……ここは?」
少し開けた場所。
古い倉庫街だった。
⸻
「一旦撒いたわね」
看守長が息を吐く。
「……疲れた」
「俺もだ」
⸻
リゼが壁にもたれる。
「はぁ……」
「大丈夫か」
「うん……ちょっとだけ」
全然ちょっとじゃない顔。
⸻
「……でも」
リゼが小さく笑った。
「なんか」
「?」
「逃げてるって感じ」
「それ今さら?」
「うん」
少しだけ楽しそうだった。
⸻
「楽しむ余裕あるのすごいな」
「だって」
息を整えながら言う。
「外の世界、いっぱい動くから」
「……」
その感想なのか。
⸻
その時。
騎士の表情が変わった。
「……静かに」
「今度はなんだよ」
⸻
倉庫の奥。
人影。
⸻
「へぇ」
低い声。
「追われてると思ったら、本当に面白いの拾ってきたな」
⸻
知らない男だった。
外の世界で——
初めて出会う、“男”。




