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第30話 『初めての街』

 森を抜けた先。


 石畳の道を少し進むと——


「……すご」


 リゼが立ち止まった。


⸻


 夜の街。


 灯り。


 人の声。


 店先から漂う匂い。


 笑い声。


⸻


 全部が——


 監獄島にはなかったものだった。


⸻


「人……いっぱい……」


 リゼが呟く。


「まぁ街だからな」


「みんな普通に歩いてる……」


「それも普通だ」


「ほんとに?」


「お前の“普通”基準どうなってんだよ」


⸻


 きょろきょろしている。


 完全に観光客だ。


「落ち着け」


「だ、だって……!」


「目立つぞ」


「……あ」


 慌てて口を押さえる。


 でももう遅い。


⸻


 周囲の視線。


 結構集まっていた。


「……なんか見られてないか」


「そりゃそうよ」


 看守長が呆れたように言う。


「美女三人連れてる怪我人なんて目立つに決まってるでしょ」


「そこ!?」


「そこよ」


⸻


「あと」


 騎士が低く言う。


「リゼが浮かれすぎです」


「うぅ……」


 しゅん、とした。


⸻


「まぁでも」


 俺は少し笑う。


「初めてなら仕方ないか」


「……うん」


「見たいものあるか?」


⸻


 その瞬間。


 リゼの目が、ぱっと輝いた。


「全部!」


「元気だな!?」


⸻


「見て見て!」


 腕を引っ張られる。


「なんだよ」


「あれ!」


⸻


 店先。


 焼き串。


 煙。


 香ばしい匂い。


⸻


「……食べ物か」


「いい匂い……」


 完全に釘付けだった。


⸻


「腹減ってんだな」


「……ちょっとだけ」


 腹の音でバレてる。


⸻


「とりあえず何か食うか」


「ほんと!?」


「声デカい」


「……っ」


 また口を押さえた。


 忙しいやつだな。


⸻


 店に入る。


 小さな食堂。


「いらっしゃ——」


 店主が固まった。


「……おぉ」


 視線。


 こっち。


 特に——リゼたち。


⸻


「なんだあの美人集団……」


「しかも一人男いるぞ」


「珍しいな」


 ヒソヒソ声。


「……やっぱ目立ってる」


「言ったでしょ」


 看守長が笑う。


⸻


「座れ座れ!」


 店主はいい人だった。


「兄ちゃん怪我してんじゃねぇか!」


「まぁちょっと」


「水持ってこい!」


 店の娘らしき子が慌てて動く。


⸻


「……なんか普通だな」


 俺が呟く。


「?」


 リゼが首をかしげる。


「いや、もっと外って殺伐としてんのかと」


「そんな場所ばかりじゃないわよ」


 看守長が言う。


「監獄島基準で考えすぎ」


「……それもそうか」


⸻


 料理が運ばれてくる。


 肉。


 パン。


 スープ。


⸻


「……!」


 リゼの目が、完全に輝いた。


「すごい……!」


「普通の飯だぞ」


「普通ってすごいんだね……」


「……」


 その言葉。


 ちょっと重い。


⸻


「食べていい?」


「誰も止めねぇよ」


「いただきます!」


⸻


 一口。


 そして——


 固まった。


⸻


「……おい?」


「……おいしい……」


 小さく呟く。


 次の瞬間。


「おいしい!!」


「声デカい!」


⸻


 でも止まらない。


「すごい!」


「温かい!」


「柔らかい!」


「語彙力死んでるぞ!」


⸻


 周囲の客が笑い始める。


「なんだ嬢ちゃん、初めてか?」


「は、はい!」


「田舎育ちか?」


「そんな感じです!」


 嘘ではない。


 多分。


⸻


「……よかったですね」


 騎士が小さく言う。


「……ああ」


 自然と頷いていた。


⸻


 その時。


「——失礼」


⸻


 店の空気が変わった。


⸻


 入口。


 黒いコートの女。


 長身。


 鋭い目。


⸻


「この辺りで」


 静かな声。


「怪しい四人組を見ませんでしたか?」


⸻


 空気が凍る。


⸻


 追跡部隊。


⸻


 しかも——


 もう街まで来ている。

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