第29話 『滝の先の世界』
「マジで死ぬってぇぇぇぇ!!」
叫びながら——
俺たちは滝へ突っ込んだ。
⸻
落下。
浮遊感。
水しぶき。
何も見えない。
「うわあああああっ!!」
⸻
ドォォォン!!
⸻
全身に衝撃。
肺の空気が一気に抜ける。
「っ……!!」
沈む。
深い。
冷たい。
⸻
必死に腕を動かす。
上へ。
上へ。
⸻
「——ぷはっ!!」
水面へ飛び出す。
「はぁっ……! はぁっ……!」
生きてる。
なんとか。
⸻
「リゼ!!」
「ここ!」
少し先。
リゼも浮かんでいた。
「無事か!?」
「なんとか……!」
「騎士!」
「問題ありません!」
「看守長!」
「死ぬかと思ったわ」
「全員生きてるな!?」
⸻
その瞬間。
グラッ。
「……っ」
脇腹に激痛。
「おい!?」
リゼが近づく。
「血、増えてる!」
「マジか……」
川でぶつけたところ。
思ったより深い。
⸻
「岸へ!」
騎士が指差す。
流れが少し緩くなっている。
「急いでください!」
⸻
なんとか泳ぐ。
腕が重い。
でも止まれない。
⸻
ザバッ。
ようやく岸へ這い上がった。
「……はぁ……」
全身が重い。
地面が冷たい。
でも——
安心した。
⸻
「怪我見せて」
リゼがしゃがみ込む。
「いや大したこと——」
「見せて」
「……はい」
圧が強い。
⸻
服を少しめくる。
「うわ」
リゼが顔をしかめた。
「結構切れてる」
「マジかよ……」
⸻
「消毒いるわね」
看守長も覗き込む。
「痛そう」
「他人事だな」
「他人だもの」
「お前な」
⸻
「……動けますか」
騎士が周囲を警戒しながら聞く。
「動ける」
「無理しないでください」
「無理しないと死ぬ状況だろ」
「それはそうです」
⸻
その時。
リゼがふと顔を上げた。
「……見て」
「ん?」
⸻
森が切れている。
その先。
遠くに見えたのは——
灯り。
⸻
「……街?」
俺が呟く。
「たぶん」
リゼが目を輝かせる。
「初めて見る……」
⸻
小さな光が、夜の中に並んでいる。
監獄島にはなかった景色。
「……綺麗」
リゼが呟いた。
ほんとに嬉しそうに。
⸻
「でも問題はそこじゃないわね」
看守長が言う。
「何だよ」
「私たち」
指を差す。
「びしょ濡れ」
「……」
「しかも怪我人付き」
「……」
「めちゃくちゃ目立つわよ」
⸻
沈黙。
⸻
「……確かに」
「今さら!?」
⸻
「追跡部隊が街に情報回してる可能性もあります」
騎士が低く言う。
「つまり」
「堂々と入るのは危険です」
「じゃあどうすんだよ」
⸻
「潜るしかないわね」
看守長が笑う。
「潜る?」
「身分隠して」
「逃亡生活スタートよ」
「軽いなぁ……!」
⸻
「でも」
リゼが小さく言った。
「街、行ってみたい」
「……」
その顔を見たら。
もう“やめよう”なんて言えなかった。
⸻
「……行くか」
「うん!」
ぱっと顔が明るくなる。
ほんと分かりやすい。
⸻
「ただし」
騎士が言う。
「慎重に」
「分かってる」
「あと」
一瞬、言いづらそうにして——
「服、どうにかしてください」
「……あ」
⸻
全員、びしょ濡れ。
しかも服が張り付いてる。
⸻
「……」
「……」
⸻
リゼが顔を赤くした。
「み、見るな!」
「いや見えてるのお前の方——」
「言うなぁ!!」
⸻
看守長が笑い出す。
「こんな状況で何やってるのよ」
「誰のせいだと思ってんだ!」
⸻
騎士が視線を逸らした。
「……とにかく」
「街へ向かいましょう」
「そうだな」
⸻
立ち上がる。
体は重い。
怪我も痛む。
追手もいる。
でも——
⸻
遠くの灯りを見た瞬間。
少しだけ思った。
⸻
“本当に外へ来たんだ”って。
⸻
そして。
俺たちの逃走劇は——
次のステージへ進む。




