第2話 『調査開始と距離感バグ』
鉄格子の向こうで、看守長が微笑んでいた。
「さて——“調査”の時間よ」
「いや、その言い方やめろ」
嫌な予感しかしない。
だが俺の意思とは関係なく、牢の鍵は開けられた。
ガチャリ。
「出なさい」
「……逃げたら?」
「三秒で拘束する」
「はい出ます」
即答だった。
⸻
連れてこられたのは、石造りの部屋。
机、椅子、そして……ベッド。
「おい」
「何かしら?」
「なんでベッドがある」
「観察には必要でしょ?」
「どういう観察だよ!?」
看守長は当然のようにメモ帳を取り出した。
「まずは基本データからいくわ」
「身長、体重、筋肉量……あと」
じっと見られる。
いや、視線が露骨すぎる。
「……そこ、見るな」
「重要な部位よ?」
「重要なのはわかるけど言い方!」
完全に研究対象扱いだ。
というか——
距離が近い。
近すぎる。
「じっとして」
「だから近いって!」
看守長が俺の肩に手を置く。
そのまま——押される。
「ちょっ——」
ドサッ。
気づけばベッドの上だった。
「観察よ」
「観察の仕方がおかしい!」
上から覗き込まれる。
黒髪が揺れる。
顔が近い。
吐息がかかる距離。
そして——
胸が、普通に当たってる。
「…………」
「……何よその顔」
「いや当たってるんだけど」
「何が?」
「胸が」
「問題あるの?」
「大アリだろ!!」
本気で言ってるのかこの人。
いや、この世界だと普通なのか?
「心拍数、上昇」
「そりゃ上がるわ!!」
「興味深い反応ね」
ペンが走る。
カリカリと音が響く。
……その間も、密着したまま。
離れる気ゼロ。
「ちょっと離れてくれ」
「なんで?」
「なんでって!」
「これが一番反応取りやすいのだけど」
「俺の理性が死ぬんだよ!」
看守長は、くすっと笑った。
「理性?」
「そうだよ!」
「それって壊れるの?」
「壊れるわ!」
「ふぅん」
さらに近づく。
耳元に唇が寄る。
「壊してみたいわね」
「やめろぉ!!」
⸻
「な、何してるんですか看守長!!」
バンッ!
扉が開いた。
入ってきたのは——
あの銀髪の女騎士。
「……あら」
看守長は平然としている。
俺はベッドに押し倒されてる。
どう見てもアウトな状況だ。
「ち、違うんです!これは——!」
「見れば分かるわ」
騎士は顔を真っ赤にしていた。
「そんな……公務中に……!」
「調査よ?」
「調査に見えません!」
助かったのか、これ。
いや——
騎士の視線が俺に向く。
じっと見てくる。
さっきまでの怒りとは違う目。
興味、好奇心、そして——
「……それが、“男”の体」
「見るなぁ!!」
思わず叫んだ。
「な、なんで隠すのよ!」
「普通隠すだろ!?」
「意味が分からない!」
この世界、常識がバグってる。
「触っていいですか」
「ダメに決まってるだろ!!」
「なぜ!?」
「なぜって!!」
会話が成立しない。
だが騎士は一歩近づく。
さらに一歩。
そして——
「確認だけ……」
「やめろって!!」
手を掴まれた。
柔らかい。
そしてそのまま——
胸元に引き寄せられる。
「ちょっと待て!!」
「これが……男の筋肉……」
「やめろってぇ!!」
完全に挟まれた。
前に看守長。
後ろに騎士。
逃げ場ゼロ。
そして——
両方とも距離が近すぎる。
「ねぇ」
看守長が囁く。
「いいデータ取れそうね」
「俺の人生がデータになってるんだけど!?」
騎士は真剣な顔で言った。
「……危険です」
「何が!?」
「この男、危険です」
「どこが!?」
「見てるだけで、落ち着かない」
「知らねぇよ!!」
⸻
こうして俺の“調査”は始まった。
逃げ場のない監獄島で。
距離感のバグった美女たちに囲まれて。
俺の理性は——
初日から、限界だった。




