第16話 『決戦前夜とそれぞれの想い』
夜。
空気が、やけに静かだった。
明日——やる。
そう決まってから、時間の流れが妙に遅い。
「……寝れねぇ」
独り言が漏れる。
「そりゃそうでしょ」
声がした。
振り向くと——看守長。
「お前かよ」
「残念だった?」
「いや安心した」
「どういう意味?」
「一人だと変なこと考えそうだからな」
「へぇ」
くすっと笑う。
⸻
「怖い?」
「……まぁな」
正直に答えた。
「死ぬかもしれないしな」
「そうね」
「捕まったら終わりだし」
「そうね」
「それでもやるんだろ?」
「やる」
即答だった。
看守長は少しだけ目を細める。
「ほんと変な人」
「お前もな」
⸻
「後悔しない?」
「どうだろうな」
「曖昧ね」
「でも」
少しだけ息を吐く。
「やらなかったら、もっと後悔する」
「……」
看守長は何も言わなかった。
ただ、少しだけ笑った。
「いい答えね」
「そうか?」
「ええ」
⸻
「……ちゃんと戻ってきなさいよ」
「どっちに」
「どっちでも」
「雑だな」
「本音よ」
軽く言う。
でも——
その言葉は、軽くなかった。
⸻
「……ありがとうな」
「何が?」
「色々」
「まだ早いわよ」
「それもそうだな」
⸻
看守長は去っていった。
静かに。
⸻
「……寝れないんですか」
今度は騎士。
「お前もか」
「見回りです」
「絶対違うだろ」
「……」
否定しなかった。
⸻
「明日です」
「だな」
「確認します」
「何を」
「危険です」
「知ってる」
「戻れないかもしれません」
「知ってる」
「それでも行きますか」
「行く」
即答だった。
⸻
騎士は少しだけ黙った。
そして——
「……なら」
「ん?」
「私が守ります」
「……」
「絶対に」
まっすぐな目。
迷いがない。
「頼りにしてる」
「当然です」
少しだけ、誇らしそうだった。
⸻
「ねぇ」
最後に声。
リゼだった。
「……お前も来るよな」
「うん」
ゆっくり近づいてくる。
「ちょっとだけいい?」
「何が」
「これ」
手を差し出す。
自然に。
「……ああ」
握る。
温かい。
⸻
「明日さ」
「うん」
「怖い?」
「……少しだけ」
「だよな」
「でも」
リゼは小さく笑う。
「楽しみ」
「……」
「外、見れるかもしれないから」
まっすぐな目。
やっぱりブレない。
⸻
「ねぇ」
「ん?」
「もし失敗したら」
「……」
「その時は」
少しだけ言葉を選んで——
「ごめんね」
「なんで謝るんだよ」
「巻き込んだから」
「最初から巻き込まれてるって言ったろ」
「……ふふ」
少しだけ安心したように笑う。
⸻
「成功したら」
「うん」
「何したい?」
「……考えてる」
「何を」
「普通のこと」
「普通?」
「うん」
少しだけ目を細める。
「歩いたり」
「食べたり」
「笑ったり」
「……」
「そういうの、全部やりたい」
「……全部やれ」
「うん」
⸻
少しだけ沈黙。
でも——
嫌じゃない。
⸻
「……ありがと」
リゼが言った。
「何が」
「一緒に来てくれて」
「まだ行ってねぇよ」
「それでも」
くすっと笑う。
「嬉しい」
⸻
手が、少しだけ強く握られる。
そして——
ゆっくり離れた。
「……じゃあ」
「ああ」
「また明日」
「また明日」
⸻
その夜。
誰も眠れなかった。
でも——
誰も後悔していなかった。
⸻
そして——
明日。
すべてが動く。




