第15話 『小さな成功と大きな代償』
夜。
計画の“テスト”をやることになった。
「……ほんとにやるんだな」
俺が呟くと——
「やる」
リゼは迷いなく頷いた。
「少しでも進みたいから」
「……分かった」
もう止める気はない。
⸻
「確認します」
騎士が低い声で言う。
「今回は“最小限の操作”です」
「分かってる」
「異常が出たら即撤退」
「了解」
「無理はしない」
「それは無理だな」
「しなさい」
即ツッコミが入った。
⸻
「いい?手順」
看守長が指を立てる。
「①装置を少しだけ動かす」
「②リゼが変化を感じる」
「③異常が出たら即戻す」
「シンプルだな」
「シンプルが一番危険よ」
「それもそう」
⸻
水路の奥、制御室。
あの場所に、再び立つ。
「……緊張するな」
「少しだけね」
リゼも小さく息を吐いた。
「でも大丈夫」
「何が」
「一人じゃないから」
「……」
そうだな。
今はもう、一人じゃない。
⸻
「……行きます」
騎士が周囲を確認する。
「見回りなし」
「よし」
俺はレバーに手をかける。
「リゼ」
「うん」
「準備いいか」
「いつでも」
真剣な目。
少しだけ震えている。
⸻
「……いくぞ」
カチッ。
⸻
ゴォン——
低い振動。
前回より弱い。
明らかに抑えている。
「どうだ?」
「……」
リゼが目を閉じる。
集中している。
「……何か」
「何か?」
「揺れてる」
「どこが」
「……分からないけど」
少しだけ眉を寄せる。
「空気が、歪む感じ」
「……!」
看守長と目が合う。
確信した顔だった。
⸻
「続けて」
リゼが言う。
「もう少し」
「ほんとか?」
「いける」
迷いがない。
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レバーを、ほんの少しだけ動かす。
ゴォォン——
振動が強くなる。
水の流れも変わる。
「……来る」
リゼが呟いた。
「何が」
「結界」
「分かるのか!?」
「うん」
目を閉じたまま。
手を伸ばす。
「今——弱くなってる」
「……!」
⸻
その瞬間。
ピィ——
「……」
警報音。
でも——
前回より小さい。
「まだいける」
リゼが言う。
「もう少しで——」
⸻
ガンッ!!
「!?」
急に、装置が大きく揺れた。
「おい!?」
水の流れが乱れる。
不安定。
「まずいです!」
騎士が叫ぶ。
「負荷が大きすぎる!」
「戻せ!」
レバーを戻す。
カチッ。
振動が止まる。
水も安定する。
⸻
静寂。
「……はぁ」
全員が息を吐いた。
「……今の」
俺が言う。
「どうだった?」
⸻
「いける」
リゼが目を開いた。
「ちゃんと弱くなってた」
「マジか」
「でも」
少しだけ表情が曇る。
「長くは持たない」
「どれくらいだ?」
「……数秒」
「短すぎるだろ!」
「でもゼロじゃない」
「……そうだな」
⸻
「問題はそれだけじゃないわね」
看守長が言う。
「何が」
「装置の限界」
「……ああ」
さっきの揺れ。
明らかに危なかった。
「これ以上やると壊れる」
「壊れたら?」
「島全体がパニック」
「それはそれでチャンスか?」
「あなた死ぬわよ?」
「却下」
⸻
「でも」
騎士が言う。
「道は見えました」
「……ああ」
「結界は動かせる」
「うん」
リゼも頷く。
「タイミングも分かる」
「……なら」
「後は合わせるだけ」
⸻
「簡単に言うわね」
看守長が笑う。
「めちゃくちゃ難しいわよ?」
「分かってる」
でも——
「やるしかないだろ」
「……そうね」
⸻
その時。
リゼがふらっと揺れた。
「おい!?」
咄嗟に支える。
距離が近い。
「……大丈夫」
「顔色悪いぞ」
「ちょっと……疲れただけ」
「無理するな」
「うん」
でも——
少しだけ息が荒い。
⸻
「負担かかってるわね」
看守長が呟く。
「リゼの能力、結構危ないわよ」
「……」
つまり。
使いすぎると——
「……時間制限あるな」
「あるわね」
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沈黙。
でも——
全員、分かっている。
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これはいける。
ただし——
ギリギリだ。
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その日。
俺たちは初めて“成功した”。
そして同時に——
“代償”も知った。




