12 不要なもの
「昨日もね、ソラが会いに来てくれて楽しかったんです!」
あれから私は宙のことをごく普通に話すようになった。もちろん一部伏せなければならないこともあるが、これまでに比べると相当気楽だ。
トラニ様の事情は色々知ってしまったけど、それに関してはもとから半分知っていたみたいなものだったし、私→トラニ様の関係に特に変化はない。
そしてなにより、私は昔から、好きな人のことを別の好きな人たちに話すのがとても好きだ。だから、色んな意味でこれはストレスフリーだ。
「…そうか」
「聞いてくださいよ。ソラね、肉の次にザクロが好きとか言うんですよ。意味わかんない。いや、ザクロもおいしいですよ?でももっと他にあるじゃないですか!いやでもそういうところが好きっちゃ好きですけど、でも意味わからなくないですか?」
そう。この前、好きな食べ物の話になった時に宙はそんな話をし始めたのだ。
ザクロもまずいとは思わないが、それが食べ物の中で2番目に好きというのはなかなかレアだと思うしユニークではないだろうか。果物の中で2番目というならわかるが。
これは、個人的にはなかなかツボだった。
「ソラと食べ歩きとかしたら楽しいんだろうな!いつか絶対に行きたいです!!」
「…」
「ねぇねぇトラニ様、この世界にもあるんですか?露店とかが並んでて、色々食べられるようなところ!」
中華街のようなところとか、鎌倉だとか、原宿だとか、道頓堀みたいなところがあれば絶対に楽しいはずだ。
特に宙の感じだと、原宿だとかが好きそうだ。こっちの世界にああいうタイプの街があるとは思えないけど!
「…楽しそうだな」
「はい!!最近、本当に毎日が楽しいです!」
実際にソラと出会ってから私の雨漏りのしていた毎日は、よく晴れた空のようになっていた。
「わからない」ことも徐々にわかるようになって、モヤモヤする部分も減ってきた。わからないことが多いと不安になるが、わかればなんてことない。
自分と意思疎通をとってくれる人たちと交互ではあるが毎日会って話せる。おかげ様で頭でグツグツと余計なことを煮詰める時間がだいぶ減って、目の前の楽しさに夢中になれる。
これがいいことなのかどうかはわからないけど、私はずっとこうやって生きてきた。そうじゃなければ、淀んだ暗闇に足を囚われてしまう。
「…そうか」
トラニ様は、私から目を逸らし口元に薄い笑みを浮かべる。
「__その様子だと、私はもう…不要かもしれないな」
その言葉に思わず身体が固まる。
ずっと前から聞こえていたはずの、外の風の音がやけに耳に入る。
トラニ様は、なぜそんなことを言うのか。
「何言ってるんですか!トラニ様もいるから毎日が楽しいんですよ!」
この言葉に嘘は何一つない。
私の毎日はトラニ様と宙で成り立っている。
もしこの小屋しか私になければ、私はとっくのとうにおかしくなっているだろう。
「私はトラニ様のことも大大大好きでなんですから!」
「…」
トラニ様は私の心からの「大好き」に真顔で黙ってしまった。
BIG LOVEが熱すぎて惹かれてしまっただろうか?そういえば若干LOVEを伝えるのが久しぶりだから、なんか「やっぱキモいな…」とかなってるかもしれない。
「…ソラという方はどのような人間なのか私も気になるよ。さぞかし身分にも、才能にも、性格にも恵まれた人間なのだろう」
「うーん?どうなんだろう?身分は一応召使だから別に高くないし…性格はちょっと悪いかも?」
「ほう。意外だな」
珍しく、トラニ様が宙のことを詳しく聞いてくる。
それがなんだかとても嬉しい。私が好きなものを、他の人にも興味を持ってもらえるというのは嬉しいことだ。
「傷つけられたりすることもあるのか?」
整った眉がゆるい八の字にしかめられる。
悩まし気なお顔も絵になるな、なんて思いながら私はウキウキと宙を語る。
「それはないかも?むしろ、そんなところも好きって感じですかね~!私も性格全然よくないし、むしろそういうところが合うのかも?」
「…そうか。であれば、私も気が合うかもしれないな」
「トラニ様は違うでしょ~!!トラニ様はいい人だから、私たちのサイテーな会話聞いたらドン引いちゃいますよ!」
サイテーというかアホで下品が正解だが、どのみちトラニ様がそれらの会話を楽しめるようなタイプには思えない。
むしろトラニ様が喜々として私たちとそれらの会話を楽しみはじめたらなんか…逆にちょっとショックかもしれない。
だって…私たちの会話ってあの森のガラスの動物たちの流通方法とか、販売価格とか、どんな感じでセレブたちに押し売るかとかだよ??あと、ガラスの動物たちのフンってどうなってるんだろうとか…。
嫌だよ、ニコニコでフンを語るトラニ様…。
「…そうか。あなたたちには、あなたたちにしかわかりあえない世界があるようだ」
「まぁ、たしかに…こんな感じの話で盛り上がれるタイプの関係はなかなかレアですね…」
日本でも私が私そのままのノリで話すと引かれることはしばしばあったし、ある程度成長してからはブレーキをかけていた。別に悪いことを本当にしようってわけじゃなくて、仮定の話だし単なる思考実験なんだから、そんな神経質にならなくていいじゃんと私は思うんだけど、そうじゃない人も多くいるってわかったから。
でも、宙にはそのブレーキがいらない。倫理的に若干アウトかもしれないラインの会話でも楽しくできる。ギリギリラインの冗談も罵倒も言える。
「いつか、その方に会ってみたいものだな」
トラニ様はしばらく黙り込んだのちに、そう呟いた。
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