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save.3_王都アルヴェール

 

 サンダーバードの襲撃の後、揺れる馬車の中でエリーゼは静かに窓の外を眺めていた。


「そういえば、エリーゼ様の他に2人の勇者様がいるのですが……」


 ふと、ルイスが口を開く。

 それに応じてエリーゼはルイスへと顔を向ける。


「他の勇者?」


「はい。伝承では3人の勇者様が召喚されるとされ、それぞれ白、黒、赤の勇者と呼ばれるんです。ちょうど、エリーゼ様は赤の勇者に当たりますね」


「ちょうど……?」


 ルイスの言葉にエリーゼは不思議そうに首を傾げると、すぐに納得のいった様子で自らの髪に触れる。


「ああ……髪の事か」


 エリーゼの手の動きに沿って真紅の髪が揺れる。


「それで、他の勇者はどんな人なんだ?」


「えっと、それが……私もまだお会いしたことはなくて。でも、きっとエリーゼ様と同じように素晴らしい方々だと思います」


「いや、私は……」


 そう言って微笑むルイスに、エリーゼは苦笑する。


「そんな大層な人間じゃないさ」


「そうでしょうか?」


 ルイスは首を傾げる。


「少なくとも私は素晴らしい方だと思います」


「それは……」


 エリーゼは少し困ったように笑う。


「……本当ですよ?」


「そうだな……そう言ってもらえると助かる」


「はい! 私もできる限りサポートします!」


 エリーゼが僅かに笑みを浮かべると、ルイスも嬉しそうに微笑んだ。


 そんな会話をしているうちに、馬車はいつの間にかゆっくりと速度を落とし始める。


「さぁ、着いたぞ」


 馬車の揺れが止まり、御者の男が扉を開ける。


 馬車を降りると、巨大な城壁と、その向こうに広がる白亜の街並みが2人を迎える。ローグ街を遥かに超える賑わいと、人々と共に忙しなく動く機械……

 見れば魔族らしき人々も混じっており、魔族と人間が共存しているのだと実感させられる。


「これは……すごいな」


 広がる光景に唖然とするエリーゼ。


 彼女とて都を訪れたことがないわけではない、それでも今目の前に広がる王都は彼女が知っているどの都市とも全く異なっている。人間と魔族が共に暮らす光景も、地を駆け空を飛ぶ機械もエリーゼの常識とはかけ離れていた。


 魔法と機械が共存する異世界の中心。


「ようこそ。王都アルヴェールへ、勇者様!」


 ルイスは1歩前へ出て振り返る。


「中央大陸で最も栄え、最も賑やかな場所とされています。それに、なんと言っても王都には魔法学校があるんです。中央大陸で魔法を学べるのはここだけで……北の大陸に行けば多々ありますが、あちらは魔族基準の教え方になりますし」


 張り切った様子で解説するルイスの様子を見てエリーゼは僅かに笑みをこぼす。


「それで、これからどうするんだ?」


「あ、はい。えっと……すでに国王がお待ちだと思いますので、ひとまず城に向かいましょう」


 ルイスの案内の元、2人は賑やかな街並みを歩く。


 地を、空を行き来する大小様々な機械。ローグ街で見たような人型のもの、機械らしい見た目をした大型の重機や空を飛び回る小型の機械まで。それらの動きにエリーゼはついつい目を取られる。


「本当にすごいな……」


「王都には龍脈口がありますからね。ああいった自立型のマギは魔力切れを起こすと面倒ですが、ここではその心配はありませんので」


 ルイスはそう言うと、ある装置を指し示す。

 地面に設置された容器から管が伸びており、傍に立った人型のマギへ繋がっている。


「龍脈口から溢れた魔力をああやって供給出来る場所があちこち設置されていますから」


「なるほど……」


「一応、人間の魔法使いもあれを使って魔力を回復出来たりしますが……見た目がよろしくないので、その場合はそれ用のポーションを使うことをオススメします」


 ルイスは苦笑しながら話す。


 そうして歩いていると、広場に人が集まっているのが見える。広場の中央を囲うように出来た人集りはザワザワと騒いでいる。


「……? どうかしたんだろうか?」


「さぁ?」


 騒ぎが気になった2人が傍へ近づこうとしたその時――


「はなせっ! お前たちは何も分かってない!」


「いいから、大人しくしろ!」


 人集りの向こう、広場の中央から争う声が響く。

 ざわめく人々の間から、兵士たちに拘束される男の姿が見える。


「魔神教団だってよ」


「マジか、こっちにも来てるって噂は本当なのか」


 周囲の話す声が2人の耳に入る。


「魔神教団?」


 気になったエリーゼはルイスに尋ねる。


「魔晶を信仰する集団で、元は北の大陸を中心に活動していたのですが、魔晶の発生が増え最近では中央大陸にも進出しはじめたとか」


「魔晶を? 危険なものなんじゃ?」


 エリーゼは首を傾げる。


「はい。しかし、彼らはそれを神の罰と考え、その影響を受けない魔族こそが神に選ばれた存在なのだと主張しているんです」


「……」


「魔族であっても魔晶の影響は受けますし、耐性があるのは人間の魔法使いも同じです。それに……」


 そこまで言うと、ルイスは目を伏せる。


「それに?」


「耐性があるからこそ、影響を受けた人は長くより強く苦しむんです。私はそんな姿を何度も見てきました……」


 ルイスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、微かに拳を握りしめていた。


「すみません……あまり楽しい話じゃありませんでしたね」


 無理に笑顔を作ると、ルイスは再び歩き始める。


 広場を抜けると、遠くに荘厳な城が見える。

 城へと続く長い階段の先に、1人の兵士が立っているのが目に入る。他の兵士とは違い、微かながら金の装飾が施された鎧を身につけ、2人に気付くと静かに一礼した。


「あれは……」


「騎士団の副団長、グレイ様ですね。騎士団の中でもトップクラスの実力者で、とても有名な方なんですよ。出迎えにいらしてくださったのでしょうか」


 長い階段を登ると、灰色の髪を短く揃えた青年、グレイが爽やかな笑顔を浮かべ再び一礼する。


「お待ちしておりました。ルイス様、そして勇者様。どうぞこちらへ、ヴェルナート王がお待ちです」


 グレイの先導のもと城内へと入り、長い廊下を歩く。


「そういえばグレイ様。ここに来る途中、サンダーバードに襲われまして」


「サンダーバード? この数日、嵐は無かったはずですが……」


 廊下を歩く途中、ルイスが馬車での出来事を報告すると、グレイは眉をひそめる。


「はい。恐らくは魔晶の影響で活動域を越えて出てきたのかと。追い払いはしましたが念の為」


「分かりました。すぐに対処いたします、ルイス様も後ほど時間があれば騎士団本部へいらしてください。お話を伺いたいので」


 ルイスが軽く頷くと、グレイは足を止める。

 目の前にはちょうど、大きく厳麗な扉が聳えている。それが玉座へと続いていることは明らかだった。


「ルイス・シール、並びに赤の勇者様がご到着されました!」


「うむ、入れ」


 扉が開かれると、白髭をたくわえた老齢の男性が玉座から腰を上げ、エリーゼ達を迎える。


「おお!ルイスよ、よくぞ戻った。そして……勇者よ、よく来てくれた」


「ヴェルナート王、お久しぶりです」


 ルイスは頭を下げ、膝を突く。

 エリーゼも同様に一礼し、膝をつこうとするが、ヴェルナート王が手で制す。


「構わん。2人ともそう畏まらなくて良い。それよりも、エリーゼと言ったな」


 2人が立ち上がるのを確認すると、ヴェルナート王はエリーゼに向き直り、真っ直ぐと目を合わせる。


「すでにルイスから聞かされているとは思うが、改めて私から頼みたい。この国……いや、この世界は恐ろしい災厄に見舞われつつある。我らは未だ進むべき道すら見いだせておらぬ。まことに恥ずべきことだ。しかし、恥を承知の上で頼みたい。どうか、我々に力を貸して欲しい」


 ヴェルナート王はエリーゼへと頭を下げる。

 王として、国を民を背負うものとして……


「分かった。それなら、私も改めて答えさせてもらう。私は勇者として、この世界を救うために全力を尽くそう」


 エリーゼはヴェルナート王と真っ直ぐに視線を交わし、協力を告げる。


「勇者様……」


「感謝する、勇者エリーゼよ」


 勇者……

 それは希望であり、人々の未来そのもの。だが、それは同時に多くの苦難とあまりにも大きな責任でもある。


 エリーゼはそれをよく知っている。

 その言葉が持つ意味を、これから待つ多くの苦悩を。

 それでも彼女はその道を歩むことを選んだ。それは、優しさ故か、もしくは……


「ところで、アリシア様は……? 連絡では同席されると伺ったのですが」


 エリーゼの協力が正式に決まると、ルイスがおずおずと口を開く。


「ああ、アレは……はぁ、どうせまたどこぞで道草食ってるのだろう。すまない、勇者よ。ルイスの言う通り、本来は魔法協会の総監であり騎士団長の"賢者"アリシアが同席するはずだったのだが……」


 ヴェルナート王は深く溜息をつき、眉間をおさえる。


「まぁ、気にしないでくれ。どうせ、いたところで自慢話しかせんからな」


 ヴェルナート王の言葉にルイスもいたたまれない様子で視線を逸らす。

 そんな様子を見て、エリーゼは苦笑する。


「ゴホンッ! それはさておき。早速だが、頼みがある」


 咳払いをすると、ヴェルナート王は真剣な表情へと戻り再びエリーゼとルイスへと顔を向ける。


「王都の南東にイリステラという街がある。彩華水晶の産地として知られる街だ。その近くにあるアイリス渓谷へ、大規模な魔晶渦が発生した」


「魔晶渦?」


「はい。不活性龍脈口の付近で見られる大型の魔晶で、通常の魔晶と同様の被害に加え、魔影と呼ばれる存在が見られるんです」


 エリーゼの疑問にルイスが説明を付け加える。


「うむ。今回発生した魔晶渦はかなり規模の大きいもので、放っておけば街に被害が及びかねん。そうでなくても、渓谷は封鎖されイリステラ名産の彩華水晶が取れん状態が続けばそれを生業とする者にとっては非常に問題となる」


「そこで、お主たちにはイリステラへ向かい、アイリス渓谷に発生した魔晶渦の対処に協力してもらいたい。すでに、他2人の勇者には周辺地域に点在する魔晶や魔物の掃討へ向かってもらっている。合流でき次第、対処に動いてくれ」


「と、言うのがお主たちへの頼みだが……出発は明日にして、ひとまず休息をとるといい。長旅で疲れているだろう、必要であれば」


 ヴェルナート王の言葉を遮るように扉が蹴り開けられる。


「遅れたわね。っと思ったのだけれど……どうやらちょうど良かったようね?」


 扉の前で慌てる兵士たちを尻目に堂々と部屋へと足を進める女性。金色のウェーブがかった長い髪を揺らし、繊細な刺繍が施された服に身を包んだ姿は絶対的な自信を感じさせる。


「はぁ……どこをどう見たら"ちょうど"などと言えるのか。今、話が終わったところだぞ、アリシアよ」


「あら、どうせアイリス渓谷の魔晶渦の話をしていたのでしょう? なら、私が口を挟む事は無いもの。だから、"ちょうど"でしょう?」


 頭を抱えるヴェルナート王を一瞥し、気にもとめない様子でエリーゼとルイスの方へと近づく。


「あ、アリシア様……お、お久しぶりです。その……お元気そうで」


「ええ。久しぶりね、ルイス。あなたも元気そうでなによりだわ。それで……」


「あなたが赤の勇者、ね?」


 ルイスと挨拶を交わすと、すぐにアリシアと呼ばれた女性はエリーゼへと視線を向ける。


「エリーゼだ。あなたは……」


「アリシア・スノウホワイト。"賢者"なんて呼ばれてるわ。それにしても……」


 アリシアはエリーゼをゆっくりと観察する。頭の先からつま先まで値踏みするような視線にエリーゼは少しばかり警戒して身を強ばらせる。


「へぇ……」


 しばらく無言で見つめると、アリシアは小さく呟く。


「私になにか?」


「いいじゃない!」


 エリーゼがしびれを切らし口を開くのと同じ頃、アリシアは笑顔を浮かべ手を合わせる。


「特にその赤い髪が良いわ! 綺麗な赤、まさに赤の勇者って感じね! それに鎧を纏わない軽装、完璧なスタイルに綺麗な顔立ち。完璧じゃない!」


 妙に興奮した様子ではしゃぐアリシアに、ヴェルナート王は再び深い溜息をつき、ルイスはやや引き攣った笑みを浮かべエリーゼに視線を送る。その視線に謝罪の意が込められていることをエリーゼはなんとなく察することができた。


「褒められている、と受け取っていいのか?」


「もちろんよ。勇者に限った話ではないけれど、人々にとって何かの象徴になるような存在にとって外見は大切なものよ。もちろんそれだけが全て、という訳ではないけれどね。でも」


 アリシアは悠然と語る。

 象徴たる者の在り方を、自らの理想を。


「……アリシア。そこまでにしておけ、あまり勇者を困らせるな」


「はいはい。分かってるわよ」


 語り口が止まりそうにないアリシアをヴェルナート王が諌めと、面倒くさそうに両手を上げて答えるアリシア。上下関係を感じさせない2人のやり取りはお互いの信頼の現れなのだろう。

 そんな雰囲気をエリーゼは感じ取る。


「それで? これからどうするのかしら?」


 アリシアの疑問に、エリーゼはルイスへ視線を送り判断を任せる。


「いえ、特に予定は。私はこれから少し騎士団本部に行きますが……」


「そう。なら、エリーゼを借りても問題ないわね?」


 アリシアはエリーゼの背後へ回ると、肩に手を置く。


「え、えっと……勇者様が良ければ……」


「別に構わないが、私に何か用でも?」


「大したことじゃないわ。せっかくだから、この私が王都を案内してあげる」


 そう言うと、アリシアはエリーゼの背中を押し、扉へと向かう。


「ルイス。また後で会おう」


「はい。また、後ほど」


 アリシアに押され扉を潜る際、エリーゼは振り返りルイスに別れを告げる。


「……えっと、大丈夫でしょうか?」


「はぁ……私に聞くな」


「まぁ、面倒は起こさんだろう」


 残された2人は強引にエリーゼを連れ出したアリシアの様子に若干の不安を覚えつつ、苦笑する。



 アリシアに連れられて、城を出て街を歩くエリーゼ。

 相変わらず街にはあちこちに目を引く光景が広がっていた。


「どこへ行くんだ?」


「決まってるでしょ? 王都で最も美しく価値のある場所よ!」


 そう胸を張り、迷いなく何処かへと歩くアリシアの後ろをエリーゼはついて行く。

 途中、ふとアリシアはエリーゼへと視線を向け口を開く。


「ところで、あなたはこの世界に来る以前は何をしていたのかしら? たしか剣崎……黒の勇者は医者をやってたとか言ってたけれど」


「ああ、もちろん言いたくなければ言わなくて構わないわ。誰にでも隠したい過去の一つや二つあるものだからね」


 この世界に来る前の事。

 アリシアの質問にエリーゼは一瞬息を飲む。

 その様子に気付いてか、アリシアはすぐに言葉を付け加える。


「いや、そういう訳ではないんだ。ただ、私は……」


「私は……勇者だったんだ」


 エリーゼは僅かに視線を下げ、答える。


「あら、それは……すごい幸運ね! まさか、赤の勇者は経験者の手練だった、だなんて。心強いわ」


「違う、違うんだ……」


 アリシアの言葉を食い気味に否定するエリーゼ。その表情は暗く、何処か後ろめたさを感じさせる。


「違う……?」


「私は……救えなかった。勇者と呼ばれ、多くの人に期待され、それに応えようとした。けれど、結局……なにも、何一つ守れなかった」


 過去は変えられない。

 それがどんなものであれ、皆それぞれ背負い続けなければならないもの。


 もし、その過去が暗く、凄惨なものだとしたら……

 きっと背負う者の苦痛は底知れないものなのだろう。

 そして、それは勇者であろうとも同じことだった。


「そう。それは……大変だったわね」


 自らを響かせるかのようだったアリシアの声が、少しだけ優しさを見せる。


「でも、そういうこともあるわ。いくら勇者だ、賢者だ、なんて言われていても私たちは決して全能でも、万能でもない。ならば当然、失敗もするわ」


「それに、それでもあなたは私たちに手を貸してくれるのでしょう? あなたは辛い過去を背負って、再び前へと進もうとしている。それは、正しく……人々が勇者と呼ぶ存在なんじゃないかしら?」


「さぁ、暗い話はここまで。着いたわ! ここが、王都で最も価値があり、最大の名所たるスノウホワイト博物館よ!」


 大きく、絢爛な建物の前でアリシアはエリーゼへと振り返り、両手を広げる。

 入口に飾られた巨大な彫像は、まさに今エリーゼの目の前にいる人物であり、ここが彼女の為の場所であることを知らしめていた。


「これは、あなたの……?」


「そう。私の博物館よ。はい、これ入場特典よ」


 差し出された物を受け取ると、それは小さな剣のレプリカであり、僅かながら魔力が込められていることをエリーゼは感じ取る。


「おもちゃ……? 魔力が込められてるようだが」


「気にしないで、ちょっとした魔除けよ。それはかつてこの世界に召喚された勇者が持っていた聖剣を模した物なの」


 エリーゼは受け取った剣のレプリカをしまい、アリシアの先導のもと博物館へと足を進める。

 中には美しい宝石や古びた書物、数々の武具が飾られていた。

 その中でも、ひときわ広い展示室を埋め尽くしていたのは、奇妙な鉄製の機械の数々。


「これらも全てマギなのか?」


「いいえ。これらは全て外から来た物よ。この世界の外、まったく異なる文明の産物。根本的にマギとは異なるから動かすこともできないわ……私以外には、ね」


 様々な機械の間を歩きながら、アリシアが静かに語る。

 機械の中には、街で見たようなものに加え、砲塔を備えた車に、大きな人型のものまで。

 どれもマギと似た雰囲気をまといつつも、何処か違うような存在。


「それにしても……多すぎないか?」


 いくらなんでも、展示物の割合がおかしいことにエリーゼは呟く。


「そうかしら? ひたすらに数が多いというのもある種の美しさだと思うのだけれど」


「こうして、動かなくても目を引く存在感、かっこいいとは思わない?」


 並べられた機械のうち、ひとつに触れエリーゼへ視線を向ける。


「それは……まぁ、分からなくは無いが」


「……それにね」


 アリシアは博物館の奥、ある扉の前で足を止める。見るからに厳重な鉄の扉には魔力が込められており、その先に何か重要なものがあることは明らかだ。


「この下にはね、龍脈口があるのよ……」


「ルイスから聞いてるでしょう?龍脈という魔力の流れ、そしてその噴出口……それが龍脈口。人々の繁栄に必要不可欠なエネルギー源であり、同時に……魔晶を作り出す災いの芽でもある」


 アリシアは静かに視線を伏せる。


「もし、龍脈口になにかあったとしたら……ここが災厄の目になる。そうなった時、これらは人々を守る砦になるのよ」


「どう? 心が踊るほどにかっこいいとは思わない? まぁ、少し不謹慎でもあるけれど」


 そう言って笑みを浮かべるアリシアの姿は、不敵で高慢で……正しく彼女こそが、この王都の城壁なのだと感じさせる。


「なるほど……どうやら、ルイスの言った通りらしい」


「……?」


「変人だが、尊敬に値する素晴らしい"賢者"。あなたはまさにその通りのようだ」


 エリーゼの言葉にアリシアは少し驚いたように目を見開く。だが、すぐに普段の余裕を感じさせる表情に戻る。


「あら、光栄だわ。勇者様に褒めていただけるなんて……でも、変人? それはルイスが言ったのかしら? まったく、まだまだあの子も見る目がないわね。言っておくけれど、この博物館、子供達には大人気なのよ? ガラクタだのと宣うやからもいるけれど……」


「いや、そういう意味ではないんだが……」


 展示物を貶されたと思ったのか、やれやれと言った様子で話しながら再び歩き始めるアリシアの後を、エリーゼもついて行く。


「さて、それじゃあ……そろそろ戻りましょうか」


「……? 王都の案内をしてくれるんじゃなかったのか?」


「?? 博物館を案内したでしょう? それ以上どこに行くのかしら?」


 博物館を出ると、城へ戻ろうとするアリシアに困惑するエリーゼ。そして、そのエリーゼに対してさも王都で見るべき場所は他に無いと言わんばかりに困惑するアリシア。


 結局、2人はそのまま城へと戻る。

 すると、城へと続く階段の前で2人の帰りを待っているルイスの姿が見えた。


「あ! 勇者様っ! それにアリシア様も。お帰りなさい、王都はいかがでしたか?」


「あ……ああ、その……楽しかったよ」


 若干の躊躇いを見せつつ答えるエリーゼにルイスは苦笑しながら傍へと歩み寄る。


「さて、それじゃあ私は行くけど……」


 階段へと足をかけたアリシアが、ふと振り返る。


「イリステラでの作戦、私も後で合流するけれど……くれぐれも気を抜かないことよ。竜を見た、なんて報告も出ているから」


「それじゃ、出発までゆっくり休みなさい」


 そう言い残し、アリシアは城へと戻っていく。


 残された2人はアリシアの警告を胸に刻み、街へと歩き始める。

 夕暮れ前の王都は相変わらず賑わい、人々の笑い声が石畳の通りに響いていた。


 やがて始まるであろう戦いを前に、束の間の穏やかな時間が静かに流れていく。

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