再会(1)
「さて、ツェトラよ。ちと尋ねたいが」
「はい、ハガネ師」
「今でも、自らが最強の冒険者たり得るならばそうなりたいと思う気持ちは変わらぬか?」
「……大きな目標であることは確かです」
「少しは揺らいでいると?」
「はい」
ビシュラが小隊に参加した、その翌日。
ハガネ師匠に招かれたツェトラは、彼の知り合いが経営する城下町の喫茶店に来ている。
今や影のように付き従うメイドの同席が許され、巨大な戦艦の甲板を占める、瑞々しい緑に覆われた石造りの街の景色も美しい。
座り心地の良い木の椅子に腰かけて喫する紅茶は暖かく甘い。
さきほどハガネが言った通り、なんでも気軽に話せそうな気分だ。
「志が揺らぐのも変わるのも構わぬ。その訳を知りたい、言葉に出来るものならだが」
「……わたしは未だ、あまりに遠い道を前にしても恐れないような、勇気ある人間ではありません。それに、お教えくださる皆様には申し訳ないのですが」
言いよどむツェトラを、ハガネが穏やかに促す。
「戦いの技術なら、小隊の皆は、わたしよりも実力があります。自分を鍛え上げるのはもちろんですが……彼女たちの本領を発揮してもらえるよう立ち回る方が向いているのだろうと、常に考えています」
丁寧な言い方をしたが、今まで何度も通そうとしてきた言い訳と何も変わらない。
長き鍛錬を過ごす間にも一切ゆらがず【戦士】を極めた男を前にして、『周りが強い人だらけだから、わたしは別に強くなんかならなくていいでしょ』と口にしたのと同じことだ。
ひとりで戦えば必ず負ける。
だから誰かに頼りたい。
頼らなければいけない。
愛するエメリットと離れ、頼れる小隊の皆に愛想尽かしをされる時が、きっと冒険者を辞める時なのだ。
と、考えたくない想像をしてしまうこともある。
自分はやはり、どんなに頑張っても強くなどなれないのかもしれない。
輝くことなどできないのかもしれない。
それを分かるのが、認めるのが恐ろしくてならない。
お前を肯定してくれる人ばかりではないだろう、と心配してくれたウィバート兄上の言葉を思い出しながらも、ハガネ師匠を信頼して、今の本音を包み隠さず話す。
「大事なる者らが傍らを離れることを恐れるゆえ、他人を活かすに活路を見出し──そのために【軍師】を志したと」
「はい。1人で挑んだ決闘には負けてしまいましたし……。常に誰かと一緒に居られるわけがないと、分かっているつもりではありますが」
「うむ。そなたの考えは分かった。優れた【軍師】たらんとするからには、戦士や魔導師を志す者とは多少とも異なる修練を積み上げねばならん。途中で揺らごうが変わろうが一向かまわぬ、己の見定めたる頂きを信じて励むがよい」
「改めて専心、つとめます」
「うむ。聞いたとおり、素直な良い娘だ」
「ええと、ちなみにですが、どなたからお聞きに?」
「そりゃ、アズユール姫からに決まっておるだろうよ。すぐ呼ぶか?」
話すのに手一杯で、よく確かめてもいなかった師匠の表情を、今初めて見る。
巨人族の偉大なる【戦士】は、まるでこちらの反応を楽しむかのように、わずかに口角を上げて武骨な微笑みを見せている。
「後ほどに致します」
「そうかぁ。まあ、店の奥の部屋に待機させているとか言うわけでもないがな」
真面目な以外は取り柄らしいものが見当たらんと笑った豪傑も、やはり魔族だ。
盛大にからかわれたような(実際にその通りである)気分を、ツェトラは乾いた笑いで隠す。
「それにしても……師匠は既にご存知だったのですね。お手紙に書いた以上のことをお話しようと思っていましたが」
「簡単なプロフィル程度は、弟子入りを願われた時点で調べる。しかし、早い時期にそなたらと別れて城にやって来た姫君に尋ねたところで、そなたの今の考え方まではわからんかったさ。自分で確かめるに如くはない」
「う……それは、そうですね」
「そなたの本音が知りたかったのは本当だ。弟子が何を目指すかによって、師たる者も教え方を考えねばならんからな。話を聞いて励ますことのみが役割ではあるまいよ」
そなたの時間をもらい受けることになるぞ、と、ハガネが穏やかに笑んだ。
2022/1/21更新。




